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この時間/プレミア視点

 目を覚ますと、太陽は沈む準備を始めていた。長い時間眠ってしまったようだった。


 リール様のおかげで少し心が落ち着いたかなと思う。まだ少し頭が痛いけど、時間跳躍タイムリープを使った後はいつもこんな感じだ。


 手や足、顔や体。傷がないことを改めて確認する。何度も時間の繰り返しを経験してきたとはいえ、肉体的にあそこまで痛めつけられると、しばらくはあの辛い時間が続いているんじゃないかという気持ちになる。痛みがないのに、痛みがあるように感じる時がある。


 牢屋の中で意識を取り戻してからの記憶が途切れ途切れだった。ただ、ママが殺されたこと、そしてリール様が助けに来てくれたことはしっかりと覚えている。


 結局、リール様と同じ時間を生きるという願いは叶わなかったな。時間を、戻しちゃった。


「あら、起きたのね?」


 ママが優しく声をかけてきた。この声を聴くために、この声を失わないために、私は何度もやり直しているのだ。アクトスを殺して、ママと平和に楽しく過ごすのだ。


「うん」


「……戻ってきたのね? 辛かったでしょう?」


「……うん」


 ママはとてもするどい。ママには私が時間跳躍タイムリープをしていることは話しているけど、私がどのタイミングで戻ってきているかは分からないはずだった。


 それでもママは、私が戻って来たタイミングを間違いなく当てる。


「紅茶、余ってるけど飲む?」


「うん!」


 ママは、私が話さない限り深くは聞いてこない。辛い記憶を思い出させないようにしてくれているようだった。


「ねえママ、リール様は?」


 私は熱い飲み物が苦手だ。猫舌は辛い。リール様が作ってくれた紅茶であっても、熱いままでは飲めないのだ。


「ガルーダを狩りに行ってるわ。栄養価が高いらしくて、プレミアのためにって張り切ってたわ」


「優しいね……」


 ふと、傷だらけになりながら私を助けにきたリール様の姿を思い出した。私のために、なんでここまでしてくれのかな。


「カサティーユ城へ向かうの、一度考え直したい」


 私はママにそう言った。金銭の賄賂わいろという手段が失敗した以上、計画は白紙になった。そして、それ以上に―――」


「ラグナロクがね、カサティーユ城にいたの」


「えっ……。あのラグナロクが……?」


 ママの顔がこわばったのが分かった。ラグナロクはファクターの右腕ではあるが、ママの殺害には慎重派でもあった。


 推測ではあるけれど、この『アクトスへの復讐』という繰り返される世界の中でラグナロクが動かない場合があったのだ。


「それは……やっかいね……」


 そして、ラグナロクが最強クラスの人間であることも知っている。アクトスよりも間違いなく強い。アクトスも強いとは言え、年齢と実戦から離れていることもあり、戦えるレベルではあった。


 私は紅茶を一口飲んだ。


「もしこの時間でカサティーユ城を超えられないようであれば、一番初めに戻ろうと思うの」


 一番初め―――。そう、それは半年前。私が時間跳躍タイムリープを覚えた日。ママが初めて殺された日。そして、これ以上前には戻ることは出来ない。


 私の力ではラグナロクを倒すことは不可能だった。何度も何度も挑戦したが駄目だった。リール様の力でも難しいと感じるくらい、とてつもなく強かった。


 ラグナロクの手から逃れる最善の手段―――それは時間を最初に戻すことだった。


 ラグナロクは同じ選択肢をとっても動く時と動かない時があった。動くときはどの時間に戻っても動くし、動かない時はどの時間に戻っても動かない。唯一、最初に戻った時に展開が変わった。


 この男が現れた時点で、この時間は『詰み』なのだ。


*******


 完全に日が沈み、辺りは真っ暗になった。焚火の火だけが明るく揺らめいている。

 

「おーーーーーい!」


 リール様の声だった。右手には野ウサギを持っていた。さすがリール様。野ウサギも簡単に捕まえてくる。そういえばガルーダはいなかったのかな? と思っていると、隣に見知らぬ女性がいた。一緒に歩いてくる。


「お疲れ様ですリール。あら? その女性はどちらさまですの?」


 ママがすぐ聞いた。私もそう思う。


「あっ!!!!!!! あーーーーーー!!!! セリンちゃんだっ!!! 久しぶり!!!!」


 リール様が答える前に、その女性が歓喜の声と共にママに抱きついた。


「え?! え?!」


 ママがかなり困惑している。久しぶりにここまで戸惑っているママを見たかもしれない。リール様も予想外のようで、なんだか困っている。


「もー! スパルナだよっ! 覚えてない?」


「あ! ええええええ!! スパルナなの?! ほんとですの?!!


 どうやらママはその女性を知っているようだった。リール様もやっぱり驚いているようで、お互い顔を見合わせてしまった。

読んでいただきありがとうございます。

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