キングガルーダの姫/リール視点
キングガルーダを助けると決めたはいいが、この体の大きさの相手に対して治癒魔法がしっかり効くのか自信がなかった。人間に使うように適当に治療するだけでは魔力が行き届かない可能性がある。対象をしっかり絞る必要がある。
「どこが一番痛い?」
キングガルーダはその問いかけに反応し、腹の辺りをこちらに向けた。見ると、大きな傷口から血が流れ出ている。
体の大きさもあって凄い量の血だ。岩間から湧水が流れ出るように、傷口から血液が流れている。
傷口に手をあて『ウインド:治癒』の魔法を使用した。だが、傷口が塞がる前に大量の出血により再び傷が開いてしまう。俺の回復魔法の能力ではこれが限界か。
セリンであればきっと治せるはずだが、今から野営地に呼びに戻る暇はなさそうだ。キングガルーダの体力が持ちそうにない。
一度手を止め、体中に浴びた血を振り払う。服は血液を含んで重くなり、顔を拭う度に真っ赤に染まっていくのが分かった。
最近は回復魔法ばかり使っているような気がする。その度に「もう少し力があれば」と嘆いているような気がする。
なんとかして血を止めたい。血を止めることができれば傷口を防げるのに。
そう思った時、俺の魔力が少し反応したことに気付いた。自分の知らない魔力の変化。なんだろう、体の中に小さな懐中時計がある。
「時魔術……時間停止……」
前から知っているような、違和感のない詠唱。
流れていた血液は止まり、まるで凍ったような状態になった。
「時間が……止まったのか?」
今魔法を覚えたのか? いや知っていた? 初めての感じがしない。 最近何度も使っていたような気さえする。
ダメだ。妙な既視感の連続と、突然の新魔法に頭の整理が追い付かない。
とにかく今は傷を塞ぐことが最優先だ。
固まった血液を短剣で削り取りながら治癒魔法で傷を塞いでいく。なかなか根気がいる作業だ。削っては治し、削っては治す。まるで大工仕事のようだ。
「時間停止」の魔法がいつまで継続するのか分からない。早めに決着を付ける必要がある。
こんなに何回も「ウインド:治癒」を使用したことはない。消費魔力は大きくない代わりに回復量が小さい。大人数や軽傷者向けの魔法で、回復量的には重傷者でもたちまち治療する「ヒール」系の方が強い。
言ってしまえばこの「ウインド:治癒」という魔法は、とても回復量が小さいヒールを風でまき散らしているだけだ。
「はあ、はあ」
息が切れ、魔力の底が見えてきた時だった。ようやく全ての傷口を塞ぐことが出来た。かなりの重労働だった。渇いた血液は生臭く、ベタベタして気持ちが悪い。
もうすぐ日が完全に落ちる。かなり時間がかかってしまった。プレミアに持って帰る食材はどうしようか。今から間に合うだろうか。
「グルルルル~」
とキングガルーダは嬉しそうに顔を寄せてきた。本当に嬉しそうで、ああ助けて良かったなという気持ちになる。
かなり人懐っこい感じで、体全体で感謝を表し続けている。この感じなら街を襲ったりの悪いことはしないだろう。
そう思ってクチバシをなでた瞬間だった。
キングガルーダの体全体が発光を始めた。
あまりの眩しさに目を覆った。攻撃を仕掛けてきたのか?
「ほんっとうにありがとう!!! 僕はスパルナ。あなたのお名前は?」
謎の女性の声が聞こえた。
なんとか目を開けると、先ほどまでいたキングガルーダはいなくなり、代わりに赤髪の20代後半から30代前半と思われる人間女性が立っていた。
読んでいただきありがとうございます。またブックマークありがとうございます。
R5. 2/26 スパルナの見た目年齢を引き上げました。




