休息/リール視点
「見えてきましたわね」
セリンが荷車から顔を出し、眠い目を擦りながら言った。酷い寝ぐせだ。なぜか既視感を覚えたが、俺はセリンが言う方向に向かって必死に目を凝らした。確かに塔のようなものがボンヤリと見える。
「本当に通してくれるのか?」
俺はプレミアに尋ねた。バルドルが殺された今、国境付近の警備が厳しくなっているのは当然であった。
「……え……ええ……」
プレミアの様子がおかしいのはすぐに分かった。覇気がなく、常にボーっとしている。先ほど目を覚ましてからずっとこんな感じだ。
「大丈夫、プレミア?」
セリンが優しく声をかけた。俺と同じようにプレミアの様子がおかしいのに気付いたようだ。
俺は馬達を止めた。
「一度引き換えそう。今日は寒いし体調を崩したのかもしれない」
「え……でも……」
プレミアはその提案に困った様子を見せた。しかし、
「そうさせてもらいましょう。ありがとう、リール」
というセリンの言葉が最終的に効いたようだった。
俺達は、昨夜野宿した場所に引き返すことになった。急ぎの旅であることには変わりはないが、無理をして失敗をしたら元の子もない。幸い追ってもなく、周辺には強力な魔物がいそうな気配もない。ならば今日は無理をする必要はない。
「戻ったら栄養のある食べ物を作ってやるよ」
「……ありがとうございます、リール様」
どこかホッとした表情に見えた。俺に会う前から旅をしていたようだし、最近は戦いが続いていた。プレーン村で3日休んだとはいえ、このタイミングで疲れが一気に出たのだろう。
今持ってきている食べ物でも十分かもしれないが、もし食べられる動物か魔物がいれば捕まえたい。戻ったら少し探してみるか。
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野営地に戻った俺達はすぐにテントを張り、火を起こした。雨で体が少し濡れたせいもあり体が冷えていた。火の温かさが体の芯まで染みわたってくる。外では弱い雨が降り続いている。
野営地には結界が張っており、魔物なんかが近づくことは出来ない。
プレミアは両手を火にかざし体を温めていた。その脇でお湯を沸かし紅茶を作った。そこにプレーン村でもらった酸味の強いフルーツと砂糖を加える。体を温めるにはこの紅茶が一番だ。
「熱いぞ」
「あつっ!」
「だから熱いと」
「へへへ」
満面の笑顔だ。フーフーと息を吹きかけ紅茶を冷ましている。
「美味しいですわね、この紅茶」
セリンも熱いのが苦手なようで、冷ましながら紅茶を飲んでいる。こういうのを見ると母娘だなあと思う。
「一応それでお金もらってましたからね」
「魔術師より向いてますわ」
「俺もそう思う」
「4Sの魔力を超える紅茶ってすごいね……」
「確かにそうですわね」
セリンが笑い、それにつられてプレミアが笑い、俺も笑った。
相変わらず弱い雨が降り続いている。のんびりとした時間が流れていた。
*********
夕方が近くなった頃、馬車が野営地に入ってきた。カサティーユ城の方向からやってきたようだった。
見ると若い商人夫婦のようだ。手際よくテントを張ると、20代後半くらいの男性がこちらに挨拶にきた。
「こんにちは。今日はご一緒させていただきますね」
「こちらこそ」
「いやー近くで巨大な鳥がいましてね。ガルーダかな? 飛ばして野営地まで来ましたよ。いやー怖かった。アクトス様が魔王を倒してから減ってたんですが、最近また増えてきましたね。お互い気を付けましょう」
そう言うと男は自分のテントに戻った。
確かガルーダはかなり美味い。そして栄養豊富のはずだ。
ちょっと狩りに行くか。今日の晩飯が決まった瞬間だった。
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