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偽りの平和、悪夢/リール視点

 悪夢。


「無能なクソガキ。リール、お前はクビだ。そのまま野垂れ死ね」


 その言葉で目が覚める。何度も何度も同じ夢を見る。


 思い出したくもない過去の話。それは22年前のことだ。


 能力を買われ勇者パーティーに呼ばれた。勇者と戦士と攻撃型の魔術師の3人のパーティー。魔王退治という重要な使命をかかげたパーティーだった。


 最初の戦いの後、俺は罵声と共にクビになった。


 能力の不一致と言えばそれまでだ。求めていた人材と違ったのだろう。


 当時俺は10歳だった。


 今も忘れることが出来ない事件として、心と身体に刻まれている。


 ベッドから起き、朝食をすませる。今日は朝市場で仕入をする日だった。ランチで出す食材とブレンドで使用するコーヒー豆を買わなくてはいけなかった。


 あの日以来、魔術師としての未来はなくなった。


 魔術師ギルドにおいても、最低ランクのCランクだ。

 

 そのCランクも、子供のために用意されたようなもので、大人でのCランクは俺だけだ。逆の意味で俺のことを知らない魔術師はいない。『無能』『最弱』『落ちこぼれ』『元神童』。親も親戚も恥ずかしさに耐えかね、俺を捨ててこの街を去った。

 勇者パーティーにクビを宣告された実績は、それくらい重いことだった。

 

 『廃れた喫茶店の店長』


 それが俺の現在の職業だった。

 

**********


 朝の市場は平和そのものだ。商人達が競うように良質な商品を薦めてくる。


 あれはバッファローか。肉質は固いが、濃厚な赤身は癖になる。今日のおすすめランチはバッファローサンドイッチがいいかもしれない。


「ようリールさん! バッファローが欲しいのかい?」


 声をかけてきたのは、馴染みの店の髭おやじだ。


「ああ。3日分欲しい」


「毎度あり! ただ今日のバッファローは少し高いぞ」


「高いのは困るな。うちがあんまり儲かってないのは知ってるだろ?」


「がはは! 味は悪くないんだがな! 分かった! その代わりいつものあれを頼む!」


「分かった」


 『いつものあれ』とは貨幣の選別だ。カゴに入った今日の売上である硬貨を、大きさや金の含有量、市場価値を魔法で分ける。とても簡単な魔法だ。基礎さえあれば誰でも出来る。しかし、商人にとっては重宝する魔法だ。


「おお! いつもありがとな! 他の魔術師よりよっぽど凄いのにCランクなんて嘘だろ」


「褒めても何も出ないぞ。最近は毎回だから、元の価格を上げてるんじゃないかと思い始めたけどな」


「おっと! うちは信頼第一。そんなことはしないぜ!」


「じゃあもっとおまけをくれ」


「ガハハ!! リールにはかなわないな! よし! 特別にフルーツを追加してやる」


「ありがとよ」


 バッファローの肉塊に小さなリンゴが追加された。そこはもっとでかいリンゴをくれよ。


「じゃあまた来るよ」


「毎度あり!!!」


 何も変わらない日常。いつものやりとり。もう何年同じことを繰り返しただろう。


 仕入れた荷物を抱えながら来た道を戻る。


 広間には大きな銅像が立っている。悪夢を見たからだろうか、より不快感が増している。


 『英雄アクトス』


 銅像には大きくそう書かれている。周囲の子供達は「いつも王様はかっこいいね!」なんて話をしながら通り過ぎる。


 かっこいい? どこを見たらそんな感想をいだけるのか。不細工で、権力に溺れた愚か者の顔だ。


 この国の王であり、魔王討伐の勇者。そして、俺をパーティから追放した人間。『アクトス』という名前の男だ。

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