ループの果て/プレミア視点
ママとリール様を見送った後、私は食料品店へ向かった。本当は私も一緒に行きたかったけど「大人の話があるの」というママの言葉もあって我慢することにした。
せっかくだし、思いっきり豪華な夕食にしよう。甘い甘いフルーツもいいな。ワインはちょっと渋い方がリール様には合っているかもしれない。考えるだけで胸が弾む。今日はお祝いだ。
リール様と出会うまでに、何回世界を巻き戻しただろう。何回ママは殺され、何回メテオが世界に降り注いだのだろう。何回、その時間を生きることを諦めたのだろう。
考えると少し目の奥がジンとする。泣いちゃだめだ、と言い聞かせるけど、やっぱり泣いちゃいそうになる。ようやく新しい一歩が始まったんだ。
この後、いつもならバルドルかファクターがママの命を狙いに来る。私の行動によってどちらが先か変わるけど、弱点も分かっているし、今回も問題なく倒せるはずだ。
でも今回はリール様がいる。その世界は経験したことがない。未来が全く予想できない。バルドルの部下に襲われたのは初めての出来事だった。いつも以上に警戒をしなくてはいけない。
それにしても―――リール様がこんなに素敵な人だとは思わなかった。私を柄の悪い男達から助けてくれたこと。泣いている私に優しく声をかけ、ミルクコーヒーをいれてくれたこと。バルドルの部下を魔法で追い払った後ろ姿。
今思い出しただけでも胸が苦しい。体が熱く感じる。
まだ会って二日目なのに、こんなにたくさん大切な思い出がある。きっと、一生忘れることができない思い出だ。
「こんにちは。くださいな」
美味しそうな食べ物は肉でも魚でも野菜でも何でも買っていこう。フルーツ多めで、ワインは少し渋めの物と飲みやすい物。たくさんの商品を目の前にすると迷ってしまう。やっぱり私は優柔不断だ。
「はいよ~」
奥から腰の曲がった可愛らしいおばあちゃんが出てきた。一つ一つ商品をバッグに入れてくれる。
リール様に、私の『時間跳躍』の魔法のことと、同じ時間を何度も繰り返していることを伝えるか最後まで迷った。
ママは「伝えてもいいと思うわ」と言ってくれたけど、結局は伝えることが出来なかった。
私は怖い。もしこの戦いの状況が悪くなったら、一目散に時間を戻し、『この時間の世界』を見捨てると思われることが怖い。
きっとリール様はそんなことは思わないはずだけど、記憶を引き継がないリール様にこの事実を伝えることに何の意味もないのだ。
もしこの時間軸が失敗して時間跳躍をしたとしても、またリール様に会うことは出来るはずだ。でも、もう会っても感激して泣くことはないし、リール様の挙動に心動かされることも少ないはず。
今の思い出を共有している時間軸はこの世界だけなのだ。ママとの思い出と一緒だ。覚えているのは私だけ。初めての気持ちは巻き戻すことができない。
ママとは繰り返し前の16年間の思い出がある。それはなくなることはない。でもリール様との思い出は違う。出会いの記憶は、巻き戻した時点でなくなってしまう。
私は、この思い出と共に未来を生きたい。だからこそ、絶対に、今度こそ、成功させる。
魔法で張った結界が反応しているのに気付いた。ほんの僅かだが、毒性を持った魔力がプレーン村に流れ込んでいる。過去に魔術師のファクターが使ってきた手だ。こんなに早い段階で使ってくるとは思わなかった。
しかも今回は魔力の元がファクターではない。もっと弱い魔術師だ。
また『予想外』が発生している。急いで二人に合流しないと。
「二人は噴水の広場にいるみたいね」
結界がある程度魔力の侵入を防いでいる。一部漏れてしまっている魔力も、ママの魔法『聖女の毒抜』があるので対応できる。
私は購入した商品をお店のおばあちゃんに預け広場へと急いだ。
『予想外』は怖い。でも、新しい未来が始まっている予感がする。
いつも読んでいただきありがとうございます。楽しんでいただけると幸いです。よろしくお願いいたします。




