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泥棒に間違われた話

 家族で夕飯を食べ終え、リビングでテレビを見ていた午後20時頃に家の電話が鳴り、母親が対応をした。

「もしもし、篠田です」

「夜分遅くにすみません、3組の山田です」

 受話器の音量設定が少し大きめになっているので、耳を澄ませば電話相手の話し声が聞こえてくる。

 相手は同じクラスの山田さんのお母さんだった。

「いつも息子がお世話になっています、学校の連絡でしょうか」

 私が小学生の頃は個人情報という概念が薄く、連絡網が使われていた時代だったので、クラス全員の電話番号が印刷されたプリントが配られていた。

 連絡網ではウチの二つ手前が山田さんで、次の人に連絡が付かない場合は飛ばして電話をする事になっている。

 なので時折順番を飛ばして、山田さんの家から直接、学校の連絡が回ってくる事があった。

「すみません、今日は別件なのですが、先程うちの息子が篠田さんの家の3階にあるベランダで人影を見たと言うので、もしかしたら泥棒じゃないかという話になりまして、お節介だとは思ったのですが念のため電話をしようという事で連絡しました。お忙しい時間にすみません」

 うちは3階建ての一軒家で、山田さんは直線距離で200m程離れたマンションの8階に住んでいる。

 自宅周辺は平屋ばかりなので、玄関からでも山田さんの家のマンションは良く見えた。

 同級生の山田さんは女の子なので、息子だと年の離れた大学生のお兄さんになる。

「態々ありがとうございます、娘だとは思いますが確認してみます」

 受話器を手で押さえ、母親がこちらを向き頼みごとをしてくる。

「コウタ、ちょっと3階見て来て」

「分かった」

 自宅の3階には私と中学生の姉の二部屋があり、登りなれた階段は電気を付けずにあがり、迷わず姉の部屋の扉を開けた。

 姉の部屋は電気が消えて真っ暗で、部屋の奥のベランダに薄っすらと人影が見えた。

「姉ちゃん?」

「なに?星見てるから電気付けないでよ」

 少し目が慣れると、望遠鏡を覗き込む姉の姿が見えた。

「なんでもない」

 姉の部屋を出て、階段を下りてリビングに行くと、母親が山田さんと世間話をしていたので、そのまま報告する。

「姉ちゃんが星見てた」

「分かった、ありがとね」

 やっぱり、と言った顔をした母親は世間話を切り上げ、山田さんに伝える。

「今息子に見に行ってもらったら、娘がベランダで星を見ていたみたいで、心配おかけして申し訳ないです」

 それを聞いた山田さんのお母さんは安堵したようだった。

「あらー、そうだったんですね。うちの息子も最近天体観測にハマっているみたいで、毎日ベランダに出てるんですよ」

「うちの娘は昨日のテレビに影響されたみたいで、夜分にご心配おかけしてすみませんでした」

「こちらこそ、すみませんでした。それでは」

 母親が電話を切るとクスクスと笑い出した。

「お姉ちゃん泥棒と間違われたみたいよ」

「部屋を真っ暗にしてベランダに居るからだよ」

 その日から、姉が泥棒に間違われてご近所さんから電話が来た、という話が定番の笑いネタになり、その話が出るたびに姉も一々蒸し返さないでよと笑っていた。

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