エピソード4
………………何かが聞こえる。笑い声?会話している?泣き声?ごちゃごちゃした音。なんだろう。これは。
はっきりと聞こえない。何かフィルターがかかっているような感じではっきり聞こえない。
それにフワフワした感覚。なんだか気持ちいい。いつまでも浸っていたい。でも、何か忘れているような。そう。何か大切なものが。
まあでもどうでもいい。そう思えてきた。いつまでも、このままで…………
―――僕は今から君の体を乗っ取る。目が覚めたら君のような軟弱もの悠真じゃなく、僕のような捨てられた本当の悠真になっていることだろう。―――
「………っ!?」
突然彼の声が聞こえ、僕は跳ね上がるように起き上がった。周りを見渡すと彼と初めて会った場所―――深層心理空間の中だった。やはりあの時の出来事は本当だったようだ。その結果は僕を安心させることは決してない。
そして。
「……あの夢、は?」
声が聞こえたと思ったらいい心地になったり。訳が分からない。これも彼の仕業なのか。そう思うのが自然だと思う。
僕の中には不安が覆いつくしていた。深層心理空間にるのに不安になるのは不思議なのだが。
とにかくじっとしていても仕方ない。ということで僕は今置かれている状況について考察してみる。
僕は今深層心理空間というところにいて、体の支配権は彼―――分かりにくいから白亜でいいや。―――白亜に取られたということは把握している。脱出方法は不明。こちらからは何もできない状況だ。
―――………君はそこで大人しく見ているようだね。―――
と、白亜は去り際にそう言っていた。ということはこの空間から白亜が見ている景色を見ることができるということだ。
何とかしようと僕はとりあえず何も無いところに映像が映るイメージをして、白亜がやったように指を鳴らしてみた。すると。
「な――――――よ―――わ―――」
「っ!?」
突然音がなった。そして目を開け確認すると……少し荒いが映像は映っていた。音はかなりノイズがかかっている。僕はもっとイメージを強く、具体的にしてみる。
「そ―――よな!―――あれ――高―――!」
よりノイズがなくなってきた。もっと、もっと。もっともっともっともっと――――――
「それよりさ、放課後ゲーセン行こうぜ!久しぶりに音ゲーとかゲームしたいんだよ!」
聞こえた!そう思って目を開けると、映像もかなりきれいになっていた。と、いうわけで今映像がどうなっているかを確認すべく映像を見る。
「ええっと。今は学校で、昼休み中だ。………やっぱり治郎と喋ってる。さっきの声は治郎だったのかな?」
今映像に映っているのは治郎だけだ。そして治郎はすごく楽しそうな顔をしている。……いつもはこんなに笑っていないのに。何があったんだ?
「僕も僕も!全然ゲームしてない!久しぶりにストレス発散したいな~」
「おいおい!お前母さんに心配かけないように行かないんじゃなかったのか?結構冗談のつもりで行ったんだけどな」
「え?そうだったの?大丈夫!そんなに長時間じゃなければゲーセンに行っていいって最近お母さんが言ってくれたから」
「おお!珍しいこともあるもんだな。よし!今日は対戦だ!昔は負けていたが今日こそは負けねえからな!」
「いいよ!ちなみにそれ死亡フラグだからね!」
そうして昼休みは終わり、白亜と治郎は五限目を受けいる。その間、僕はさっきの治郎と白亜の会話について考えることにした。
「……なぜ治郎はいつも以上に楽しそうにしていたのかもそうだけど、みんな僕に対しての違和感はなかったのかな?」
いつも大人しく過ごしていた人が突然性格が変わったのように活発になった。そうなれば不自然に思うのは当然だ。いきなりだとダメ。ということは―――
「僕が意識を失っている間になにかがあった?」
そう僕は結論付けた。僕はさっそく今リアルタイムで白亜が見ている景色から日付を確認する。すると僕が意識を奪われた日から一週間過ぎていることが分かった。
おそらく白亜は目を覚ました翌日からクラスのみんなに説明したのだろう。だが、例えば「今まで抱えていたものがとれたんだよ。トラウマを克服したって感じかな」的な事を説明したとしよう。そうなると僕の家族の現状が昔のような状態に戻っているということになる。
「いや、さすがに朝の間に解決した、というのは無いかな。時間の問題もあるし。心の問題もある」
僕に刻まれた傷がすぐに消えるようなものなら最初っからやっている。それは一番の親友である治郎もよく知っている。
「だとしたら本当に何があったんだ?………………とりあえず、ある程度の答えは家に行けば分かるかも。今回のことで一番重要なのは家族だから」
ということで僕は、白亜が家に帰るまで白亜が見てるものを傍観することにした。