エピソード3後編
その三年前の冬。雪が降り積もる日に、僕は自転車に乗って隣町に行こうとした。しかし、母が雪道は危ないからと僕を止めてきた。それを聞いた父は悠真はもう子供じゃないと母の意見に反論。結局のところ僕は出かけることになった。
そしてその道中。雪で滑りやすくなっているのにも関わらず、普段のようなスピードで走る車と接触事故を起こしてしまった。ブレーキが効きにくく、止まれずに突っ込んできたのだ。
その日の夕食の時。母と父は当然話し合いをした。その途中、喧嘩になったのだ。怒声、泣き声、机を叩く音。楽しい団らんになるはずだったその時間は突如として地獄絵図に変わった。過言かもしれないが、あの頃の僕にはそう映っていた。僕がちゃんと大人で雪の日は危ないということを知っていればこんなことにはならなかったとあの頃の僕はそう自分を責めていた。僕が悪いんだと。
だから僕は父と母にこの思いをぶつけた。しかし、
「これはお父さんをお母さんの問題だ!!!!お前みたいな子供に何が分かる!!!!!」
そう拒絶された。その時の父の表情を見て僕は無意識のうちにこう思った。
―――大人にならなければ。父と母に好かれる子にならなければと―――
それから僕は今までの自分を封印した。今までの直感的な行動をすること、周りに頼りすぎること、子供みたいに父や母に甘えること、自分の思いつく限りのだめな自分をやめたのだった。
「どうだい?懐かしいだろう?」
「……まさか、ここまでリアリティのあるものを見せられるとは思わなかったけど」
先ほど、僕は昔の―――今の僕に至るまでのきっかけを見せられた。
それはスポ根のようなポジティブな方向に僕を動かしてくれるようなことはしてくれなかった。自分を変えた結果が今の僕の家族だ。
「僕も君もこんなものは見たくないだろう?じゃあ何故僕はこれを見せたのか…結論を言うとね、僕は君が封印した”本当の自分”さ」
「本当の、自分?」
「そう。君があの時いらないと切り捨てたね。でも君は意識的にそうなった覚えがないはずだ。突然、何かが抜け落ちたような感覚になった…そうじゃないかい?」
「ああ……」
確かにそんな感覚になっていたような気がする。今まで全く気が付かなかった。
「その抜け落ちた部分が今の僕になっているってことだよ。あっ原理とか聞かないでね?そこのところは僕もよく分かってないから」
「なるほど。ようやく君のことを信じることができそうだ」
今までの彼の言っていることは僕にしか分からないようなこともあった。そのことを踏まえて、僕は彼を信じることにした。
とりあえずここはどこか、彼は何者なのか。それはよく分かった。それなら次はこの疑問が浮かび上がってくる。
「じゃあ、なぜ僕はここに、今いるんだ?」
すると彼はにやけた表情で答える。
「ん~。それはね……僕がもう我慢の限界なのさ♪」
「………は?」
言っていることと表情が正反対じゃないか、と僕は思った。が、次の瞬間僕はその考えが過ちであることを思い知った。
「なにも無いところで約3年間。人間が一人で耐えれると思うかい?―――それが例え作られた人格でもさ」
彼がそう発言したその時、突然僕は全身から力が抜ける感覚になりそのまま地面に倒れ込んだ。
「っ!?……なに、が」
僕はとっさに立ち上がろうとする。が、力が入らない。本当になにが……?
「僕は今から君の体を乗っ取る。目が覚めたら君のような軟弱もの悠真じゃなく、僕のような捨てられた本当の悠真になっていることだろう。………君はそこで大人しく見ているようだね。まあもっとも、人格としての君が目覚めるのには時間がかかるけどね」
僕に反論の余地を与えないまま、彼はその姿を消した。それと同時に深い睡魔が襲い掛かってきた。僕はそれに抗えず、まま意識を失った。