エピソード3前編
僕は夕食を食べ終わると、妹と一緒に食器を片付け、自室に戻った。
そしていつもなら夜更かししてしまうのだが、今日は何故か眠たいのでそのまま寝ることにした。
たくさん寝て、すがすがしい朝を迎える・・・はずだった。
気が付けば僕は見知らぬ場所に立っていた。
周りは薄暗く、僕が立っている場所はスポットライトの様に照らされている。
「どこ・・・というより、明確な[場所]といえるところ?」
そもそも夢じゃないのかと思った。しかし手足の感覚、周りの見え方、耳の聞こえ方。すべてが現実と同じものなのだ。
その事実は僕をより混乱させるのに十分だった。僕は冷静になろうと試みる。が、時間がたてばたつほど冷静になれず、代わりに恐怖が増していく。
どうすれば……。そう考えていた―――その時。
「やあ。どうやらお困りのようだね?」
と、馴染みのある声が聞こえた。僕はとっさに声がしたほうに振り返った。その時に僕が抱いていたのは、孤独から解放された安心感ではない。むしろ驚きのほうが大きかった。それも悪い方。
それもそうだ。聞こえてきた声は――――――
「こんにちは。いや、今はこんばんは、かな?ボク♪」
まぎれもない僕自身の声だったのだから。
訳が分からなかった。それもそのはずだ。どこかも分からない場所に気が付いたら取り残されて、そこにいきなり自分自身が目の前にに現れたのだから。
「おや、心外だねぇ。もっと驚くと思ったんだけど」
「………君はなんだ?」
「なんだとはなんだい?僕は君で、君は僕。それだけじゃないか」
彼はさも当然のようにそう語った。にわかに信じがたい。しかし僕は動揺している自分を抑え込み、状況を理解するために彼に質問をすることにした。
「君に質問がある。……あず、ここはどこなの?」
「へえ~。ようやく落ち着いたんだね。よし、質問に答えよう。まずここは僕の、いや僕たちの深層心理よりも深い所さ」
「深層心理より深い場所?」
深層心理については以前気になって調べたことがある。たしか、自分では気が付かない無意識の心理状態のことだったと思う。
「うん。そのとうりだよ」
と、彼が僕の心を読んでいたかのように話し始めた。
「人間が自覚している心理状態はおよそ10%と言われていて、それは幼少期にや思春期の体験によって形成されるらしいね」
「……そこまで知っているのか」
彼がさっき言ったことはさっき僕が思い出したことの続きなのだ。やはり、彼は本当に僕だというのか……。
「君はまだ僕のことを自分自身なのか疑っていたのかい?ちょっと悲しいよ」
彼はまた僕の心を読んだように答えた。
「君は僕の心が読めるの?」
「当たり前だよ。僕はこれでも3~4年この空間にいるんだよ?君の考えてることなんて手に取るようにわかるさ」
「…それって、どういうこと?」
そう聞くと彼はパァ!っと顔を明るくなった。
「そう!やっとそのことについて触れてくれた!ようやく話が進むよ」
彼はそう言うと両手でぱんっと手を叩く。すると、今までなにも無かった空間に今までの僕の記憶がスクリーンのように映し出された。
「僕はね、あのころからずっとここで君のことを見ていたんだ。君が喋っているところ、ご飯を食べているところ、遊んでいるところとかね」
「あのころ………まさか」
「そのまさかだよ」
彼は不敵な笑みを浮かべながらそう答え、再び手を叩いた。すると、いままで映し出されていた記憶の映像がすべて消え、いまから三年前あたりのある記憶が映し出された。
「すべてはここから始まったんだよ。この事故からね」