第0話:無手の極みを目指して?
ざわざわざわ
ここは人口約300人ほどの平凡な村ロータス。
いつも奥様の井戸端会議以上に騒がしいことなんてないはずのこの村で、珍しく人だかりができていた。
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-村の中心広場
人だかりの中心で笑顔の好青年が木の板を持ち上げる。
「さて!皆様見て下さい!ここにありますはナムの木の板でございます!その強度はある異国で最強と謳われる武士の使う武器、ヒノマル刀の材料に使われるほどでございます!」
「こちら通常槌で叩こうが槍で突こうが傷一つ付きません!」
「しかーし!!わたくしのこの無手派殺法ならば!!素手でたった一発!たった一発で真っ二つに割ることができるのです!」
そういいながら青年は板を左手で持ち、右手を肩まで引き構えた。
「では、さっそく二つに割って見せましょう!1度しかやりません!よーく見ておいてくださいね!」
「(はーーーふーー)...無手派殺法板殺しっ!!ホアチャーーーオウ!!」
--ぱこんっ
その瞬間、青年の意気込みとはかけ離れた控えめでかわいい音を出し、板は真っ二つに割れた…明らかに手が当たったタイミングよりも早く。
「どうですかこの威力!武器がなくてもこんなに強くなれる無手派殺法!その指南書を今だけ数量限定でお売りしましょう!さらに無手の真髄ノートも加えてたったの1ゴルド20シルバ!さあ買った買った!・・・・・あれ?」
静寂が一瞬この場を支配する----
--茶番だ茶番
直後、誰かがそうつぶやき、つられるように人だかりのみんなはいくらかの罵詈雑言を残しながら解散し始めた。
「あららら、ちょっと!買わないんですか?あ、そうだ!端数切って1ゴルドでいいですよ!」
ちなみに1ゴルドとはそれだけで安宿に1週間は泊まれる額である。
--ひゅんっ
人ごみのどこかから小石が飛んできて青年の鼻頭に当たった。
「ほげえ!」
「ははは、御大層な板を割る前に防御の仕方を考えたほうがいいんじゃないか」
「えっちょっ、、まっ、、、(はーーー)」
青年は焦るが、周りを見た時にはすでに人ごみはなくなっており、溜息を吐くほかなかった。
「んー、まじめにやってるのになんでいつもこうなるんだ?やれやれ。」
「あの,,」
「何ですか買ってもないのにクレームは、、、おっと子供か。どうしたの、見世物はもう終わったよ。」
次の村へ行くため片付け中の青年が声のほうに目を向けるとそこには、ぼろぼろの衣服を身に着けた子供が目を輝かせて立っていた。
そしてちょこんと頭を下げるとこう言った。
「あんなことが僕もしたいです。仲間にしてください!」
「おお!習いたいのかい?それなら、この本を読めば完璧さ。ほら真髄ノートもついてる。パパとママはどこだい?」
「いや、それじゃない方です。」
「はい?」
「一緒に町をめぐって(騙くらかしまわりたいんですよ。)」
子供はにやにやと小声で言うが、生憎今日は風の良く吹く日だった。
「はい?ごめんちょっと後半小声で聞こえなかった。」
「ふっふっふ、さすが師匠。はぐらかし方も上手ですね。」
青年は師匠と呼ばれるとビクンと震えた。
「師匠だって!?(むふふ)」
青年は嬉しそうである。
「おっと、そうじゃない。一緒に町をめぐりたいとかなんとか言っていたね。なんにせよ君はまだ子供だし連れていけないよ。親が心配するだろう?」
「孤児ですので平気です!むしろ、あれ{詐欺}をするなら都合がいいでしょう?それに見てましたがあれは一人より二人で組んだ方が成功すると思います!」
にやにやと喋る子供。
「んーー、(なるほど組手か。どうする俺!いつかは弟子が欲しいとは思ってた。けど、教えるにはまだまだ俺は未熟だし、、。待てよ、でもなぜか指南書が一冊も売れていないぞ。これはチャンス?それにこの子は孤児で、、この無理してるような笑顔!かわいそうに見えてきたな。)」
「ま、まあ、君が指南書売り手伝ってくれるんだったら、代わりに俺から直々に{無手派殺法を}教えてもいいかも。」
「ほんとですね!分かりました。僕頑張りますよ!」
「あ、でも今日もう村出ちゃうからそれについてこれないなら、、」
「なるほど、善は急げですね?すぐ準備をしてくるので村の北出口で落ち合いましょう!」
「えっと、うん。そうだね、分かったよ。」
青年が言い終わるときにはすでに、子供は走り去ってしまった。
「弟子かぁ、、、なんかすごく急に決まったなぁ。まだ、心の準備ができてないよ。あ、そうだ。」
青年は何かひらめくと荷物をもって村の雑貨屋へと向かった。
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-村の北出口-
青年が向かうとすでにさっきの子供が立っていた。
「おーい師匠!こっちです!よかったです来てくれて。」
手を振っているので、青年も軽く振り返す。
「ほんとにいいんだね?」
「ほんとにいいです!師匠。」
「じゃあ、行く前に自己紹介くらいはしておこうね。俺はアイザっていうよ。無手派殺法の指南書を売り歩いてる。」
「はい!僕は生まれてこの方11年!ヘロンといいます!二人で売りまくって行商の極みを目指しましょう!」
「えっいや、無手の極みを目指して?」
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かくして、出会った二人。方や無手派殺法を広めるために歩く不器用な青年アイザ、方やそんな青年を師匠と呼び始める少々大人びた謎の子供ヘロン。
誰も気にしないような小さな出来事、されどその少し奇妙な二人の出会いは少しずつ歴史のうねりを生み出していくことになる。
二人の旅は今まさに始まったのである。
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では、次の投稿でお会いしましょう。 犬助.