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第一章 元いた世界に召喚されるなんて聞いてない 03

「久しぶりだな。レン」


 その言葉に、錆びついた機械人形のようなぎこちなさで、声を掛けた男性に視線を向けた。

 成長しているが、面影があった。

 

 レインの瞳に映ったのは、5年前よりも大人びた姿の元婚約者。スイーティオ・エレメントゥム・アメジシストだった。

 青銀の髪は、短く切られていて、精悍な顔がよく見えた。王家特有の金眼は強い光を帯びていた。身長は、あの時よりも大きくなっていて、隣に並んで顔を見上げたらきっと首が痛くなるほどだと考えた。そして、細身ながらも、剣術で鍛えられた体は靭やかさがあった。

 

 5年ぶりのスイーティオに見惚れるレインだったが、見つめる金眼に映った自分の姿を見て状況を思い出した。

 レインは、何も言わずにその場を逃げ出した。

 しかし、そのことを予測していたスイーティオに細い手首を強く掴まれて、逃げ出すことが出来なかった。

 

「そうやって、また俺から逃げ出すのか?そんな事俺が許すとでも思ったのか?今度は絶対に逃さない。たとえ君が嫌がっても、どんな手を使ってもだ。逃げられないように、閉じ込めたっていいんだぞ」


 5年ぶりの再会に心臓を高鳴らせていたレインだったが、スイーティオの本気の声音に、無言で首を振った。

 

(無理だよ。だって、呪い……。前よりも酷くなっているのが分かるもん。こんな姿、ティオ様に見せることなんて出来ないよ。好きな人に、こんな醜い姿を晒すなんて出来ないよ!!どうして……、どうして私はこんな呪いに掛かってしまったの?魔力が人よりもあるから?そんなの、私のせいじゃない!!ティオ様は優しいから、こんな哀れな私を婚約者だって言ってくれる。でも、ティオ様に私は相応しくない。美しいティオ様の横に立てる訳ないよ!!)


 激しく首を振り続けるレインを見て、スイーティオは握っていた手に力が入ってしまった。

 また、自分を拒むのかと。しかし、あまりにも強く手首を掴まれたレインは思わず声を出してしまった。

 

「痛っ!」


 5年ぶりに聞いた愛しい人の声は、まるで鈴を転がしたような可憐な声だった。スイーティオはその声に甘美な喜び感じた。それと同時に、大切なレインに痛い思いをさせてしまったことに慌てて、決して離すことはなかったが、掴む手の力を緩めた。

 

「すまん。お前が変わらないことが分かって、つい力が入った」


 そう言って、強く掴んだことで赤くなってしまった手首に優しく口付けた。


(君はやはり俺を拒むんだな……。優しく、大切にしたいのに……。ままならない)


 レインは自分の手首に口づけるスイーティオに驚きつつも、言われた言葉の意味にショックを受けて気持ちが沈んだ。

 

(いいえ、私は前とは違うよ。前よりも醜い姿になったことが……。この不快感だけで、鏡を見なくてもわかるもん)


 クラスメイト達は、何故仮面を着けているのかわからないが、クラス、いや学校一の美少女と目の前のイケメンの謎のやり取りに困惑していたが、役人も事態が把握できずに困惑していた。

 

 スイーティオは、そんな周囲に気が付いていたが、レインに懸想する人間がいた場合を考えて牽制するように周囲に見せつけるように更に口づけを深くして、跡の残る細い手首を舐めたのだ。

 

 周囲は、それを見て黄色い悲鳴を上げた。

 

 しかし、舐められたレインは固まって動かなくなった。それに暗い喜びを感じたスイーティオは、レインの耳に口を近づけて、他に聞こえないように小さなしかし、色気のある艷やかな声で言った。

 

「レンは、俺の婚約者だ。すぐにでも結婚式を上げて、君を俺のものにしたい」


 そう言ってから、レインの小さな耳たぶを一瞬甘噛してから離れていった。

 

 仮面の下の顔は赤く染まり、口をパクパクとさせたレインはその場にへたり込んだ。

 スイーティオは、そんなレインを横抱き、つまりお姫様抱っこをしてこの場から連れ去ったのだった。

 

 スイーティオは、レインを自室の隣の部屋に案内した。そこは、いつかレインが住めるようにとスイーティオが整えていたレインの部屋だった。

 そのことを知らないレインは、通された部屋が女性向けの内装だったため、スイーティオの今の婚約者のための部屋だと誤解して落ち込んだ気分になっていた。

 通された部屋で、落ち着かず座ることも出来ずにいたレインはノックの音で扉の方を振り返った。

 

 そこには、レイスハイトとスイーティオの姿があった。

 レインは、慌てて家臣の礼をとった。

 それを見た、レイスハイトとスイーティオはお互いに顔を見合わせてから可笑しそうに笑った。

 

「レイン・イグニシスだな?久しぶりだな。元気にしていたか?まぁ、気を楽にしてくれ」


 そう言って、レイスハイトは部屋にある一人がけのソファーに座ってから、レインにも向かいの二人がけのソファーに座るように促した。

 二人がけのソファーには、先にスイーティオが座っていたため、迷っていると引っ張られて、強引にスイーティオの横に座らされた。

 少しでも離れようと距離を空けようとするも、その分スイーティオが詰めてきてしまったため、ソファーの端にたどり着き、更にはピッタリと横に詰められたため逃げ場を失った。

 スイーティオの熱を感じつつ、固まっていると目の前に座っていたレイスハイトは笑い声を上げた。

 

「くっ、あははは!!こんな、スイーティオは久しぶりだ!!あー面白い。どうしてお前たちがそうなのか不思議でならない」


 突然笑われたレインは、仮面の下の瞳をパチクリとし、心当たりのあるスイーティオは機嫌が悪そうな表情になった。

 

 二人の反応を見て、更にレイスハイトは爆笑した。


(二人共、お互いに好きなのが周囲にバレバレなのになんで上手くいかないんだ?本当に、我が国の七不思議だな)


 別に、七不思議など存在しないがレイスハイトは、微笑ましい二人の様子をニヤニヤとした表情で眺めていた。

 

「レイン、親の私が言うのも何だが、スイーティオは執念深くて恐ろしいやつだ。観念して、息子の嫁になってくれると有り難いんだがな。どうだろうか?」


 レイスハイトの言葉に恐縮した様子でレインは小さな声で言った。

 

「それは無理です。陛下はご存知でしょう?私が、とても醜く、殿下の側に居るのは相応しくないことを」

「別に、古の魔女の呪いだからどうしようもないしな……」


 レイスハイトの言葉を聞いたレインは、驚きに顔を上げた。この呪いを知っているはずがないと。

 レインの考えていたことがわかったレイスハイトは苦笑いの表情で、半目になり隣に座るスイーティオを見て言った。

 

「あぁ、それは、そこにいる恐ろしい息子が調べた。レインがいなくなった後に、手がつけられないほど暴れてな、その時に色々自分でレインの行方を調べると、イグニシス公爵家の屋敷の中を探し回っていたよ。その時に、レインとグレイスの呪いについて知ったそうだ」


 その言葉を聞いた、レインは驚きに目を見開いた。

 屋敷には、魔女に関する資料は置いていなかったと記憶していたからだ。

 驚くレインに、更に驚くべきことをレイスハイトは告げた。

 

「実は、そこの嫉妬深い息子がな、セレンの日記を見つけてなぁ。きっと、幼い頃のレインのことが書かれていると想像して読んだんだろう。偶然にもそこに、【魔女の嫉妬】について書かれていたそうだ」


 セレンが日記をつけていたことにも驚きだが、そこに【魔女の嫉妬】のことが書かれていたことにも驚いた。何故?と思っていると、その答えをレイスハイトは答えてくれた。

 

「日記には、セレンが調べた呪いについてが色々と書かれていたらしい。あやつも、大切な妹君と母君の呪いを解こうと必死だったのだろう。結局、君たち家族は呪いの影響がない別の世界に行ってしまったがな」


 日記の内容を語るレイスハイトは、何故か人伝に聞いた様な言い方で語った。疑問に思っていると、再びニヤついた表情をしたレイスハイトが付け加えて言った。

 

「その日記には、レインの本当の顔についての描写もあったみたいでな。嫉妬深い息子は、決してその内容を人に知られたくなかったようで、自分以外には日記を見せないようにしていたんだ」


 そう言って、人の悪い笑みを浮かべてからかうようにスイーティオを見やった。

 レイスハイトの言葉でレインは再び小首を傾げていた。それに気が付いたスイーティオは、頭をかきながら、レインに説明した。

 

「セレンの日記によると、呪いは見た目だけで、姿かたちが変わるものではなかったということだ。強力な幻覚の様な効果で、触れれば本来の姿かたちが分かると書いてあった」


 その言葉を聞いて、家族全員のスキンシップ過多なふれあいの意味を初めて知った。

 日本に行ってからも、そのスキンシップは酷くなる一方で、そんな理由があったなど気が付くことは全く出来なかったのだ。

 ただ、家族全員は本当にレインのことが好きで可愛くて仕方なくってついベタベタしまっていたのだが、レインは日本にいる家族を思って心が暖かくなるのを感じた。

 しかし、それでも見た目が醜いことに変わりはない。レインは、再び首を振った。

 

「無理です。殿下は第二王子なのですよ。その婚約者がこんな醜い姿のものだとなれば、周囲に侮られます。それは、王家の威信に関わります」


 頑ななレインにスイーティオはしびれを切らせて言った。

 

「レンは全然変わっていないな。どうして俺を信じないんだ!俺は、お前がいいとずっと言っている。俺がいいと言っているのだから、大人しく嫁になれ!!」

「殿下は優しいからそう仰るのです。優しさは時に罪です……」

「何故だ?俺は、お前がいいんだ。別に優しさとかじゃない」

「殿下……。無理はいけません」


 平行線をたどる二人のやり取りに向かいのソファーからあくびをしながらレイスハイト言った。

 

「ふああぁぁ~。痴話喧嘩もいいが、嫉妬深い息子よ。時に、自分の思いはレインに伝えているのか?」

「俺の気持ち?言っているに決まっt……」


 言っているに決まっていると言おうとして、今までの自分の言動を色々振り返る。そして、今まで「君がいい」「側にいろ」「君以外いらない」と再三言っていた。しかし、肝心の「好き」と言う気持ちを言っていないことに気が付いたのだ。

 初めて言葉をかわした日、「俺の運命の人」ということは伝えた。それに、再三言っていたことで、スイーティオがレインのことをどうしようもない位好きということは伝わっていると思っていたのだ。

 レインに贈り物をする時、何時も着けていてもらえるようにと考え、仮面を贈った。普通なら指輪などのアクセサリーを贈るところ、仮面にしたのだ。

 スイーティオは、いつでも君を守るという気持ちを込めて、仮面を贈ったが、レインは初めての贈り物で仮面が送られてきた時に勝手に勘違いしたのだ。「これで顔を隠すように」言われたのだと。

 

 長年のすれ違いの原因が自分にあることに気がついたスイーティオは、向かい側にいるレイスハイトに目もくれず、レインだけを見つめていった。

 

「レン。お前のことが好きだ。好きだ好きだ好きだ。愛している。俺だけの可愛い人。どうか、俺の妻になってくれ。幸せにすると誓う。愛している」


 そう言って、呆然とするレインの小さな手を取ってくちづけをした。次第にそれは激しくなり、指先を甘噛し始めた。

 このままでは不味いとレイスハイドはここにはお父さんがいますよ~と、アピールするために咳払いをしたが、無視された。

 必死になって、咳払いを続けるが全く意に介さないスイーティオの甘噛は次第にエスカレートして行った。

 チュッという音を立てながら、口づけは腕にまで達していた。

 もう無理だと言った風にレイスハイドは立ち上がり、目の前の息子に思いっきりチョップをかました。

 

「このエロ息子が!!目の前に父さんがいるというのに!!何をしているんだ!!私は、こんな破廉恥な息子を生んだ覚えなはいぞ!!」


 いいところで邪魔をされたと言った表情のスイーティオは、舌打ちしながらレイスハイトを睨みつけた。

 

「ちっ。俺は、父上から生まれた覚えはない。俺は母上から生まれた。気色悪いことを言うな」

「私も生むのは無理だな!!言葉の綾だ!!」


 そんな二人のやり取りを呆然と眺めていると、徐々にスイーティオに言われたことが頭に浸透してきた。

 あまりの恥ずかしさに、レインは魔術を爆発させた。そして、絶叫しながらその場から消えたのだった。

 

「きゃーーー!!そんなの無理ーーーー!!無理無理無理!!!むーりー!!」

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