プロローグ 03
それから、第二王子は足繁く公爵家に通って少女との絆を深めていった。
しかし、それをよく思わない令嬢たちがいた。令嬢たちは、第二王子が気に入っていることが気に入らないと少女の悪い噂を流し始めのだ。
少女は、容姿を気にして屋敷から出ることは殆どなかった。
家庭教師から勉強を教えてもらい、母親から魔術を学び、毎日穏やかに過ごしていた。
しかし、面白がってなのか噂は物凄いスピードで国中に広がっていった。
そう、屋敷から出ない少女の耳に入るくらいに。
そんな時、屋敷に新しく入ったメイドの少女が、面白半分で他の先輩メイドに少女のことを聞いているところを偶然見てしまったのだ。
この屋敷にずっと勤めている使用人たちは、少女の呪いのことを知っていいたし、少女の心優しいところを知っていたので、噂は取るに足らない嫉妬からだと気にもとめていなかった。
しかし、新人メイドからその話をされた先輩メイドはキツイ口調でそれを窘めたのだ。
すると、その新人メイドは何を思ったのか、無関係の少女を巻き込んで「何もしていないのにお嬢様にキツく窘められて、ひどい仕置きを受けた」と、周囲に言い出したのだ。
その噂が広がった頃に、新人メイドは無断欠勤が続いたと思ったら、手紙だけ寄越して仕事をやめていた。
後々調べると、その新人メイドはとある貴族からの差金だということが分かったのだが、時既に遅く少女の醜聞は最悪な状態になっていた。
第二王子は、少女を精一杯慰めるが悲しみが消えることはなかった。
ある日、少女は第二王子に言った。
「このままでは、殿下まで私の醜聞のせいで悪く言われてしまいます。お願いですから婚約を解消して、他のご令嬢と婚約してください」
「無理だ。君以外ありえない。俺は君以外いらない。君がいいんだ」
第二王子の言葉を聞いても少女は首を振り続けた。
「無理です。これ以上は、辛くて辛くて耐えられません」
そう言って、少女は泣き崩れた。
少女は、王子のことを思って胸を痛めて涙した。
しかし、第二王子にはそれが自分から逃げ出したい言い訳にしか聞こえなかった。
初めて告白してから、3年。その間ずっと「君がいい」と言ってきたのに、一向に信じてくれない頑なな少女に頭にきた第二王子はいつもはどんなに少女が拒んでも諦めなかったが、この日だけは違った。
つい、周りを気にして自分の言葉を受け入れない少女に頭にきて言ってしまったのだ。
「わかった。もういい」
いつもよりも低く冷たい声音に自分でも驚いたが、いまさら言葉を引っ込めることも出来ず、後ろも振り向かずにその場を去った。
もし、この時後ろを振り向いていたら運命は変わっていたかもしれない。
その時少女は、泣いていたのだ。先程までの泣き顔と違って、第二王子から初めてされる突き放された言葉に呆然として見開いた瞳から止め処なく涙を流すその姿に。
それから、少女は涙が枯れるまで泣いた。
その日から少女は自室に引きこもった。
少女が自室に引き込もるようになって数日、当主と妻はとある相談を繰り返しある結論に至った。
そして妻は、そのための行動をするため、自分の持ちうる魔術の知識を駆使してある魔術を完成させた。
当主は、そのための行動を起こすために、様々な手続きを進めた。
少女が第二王子と喧嘩別れした日から半年。第二王子は何度も屋敷を訪れたが、何だかんだと通してはもらえなかった。
一時は、王族の権力を使ってとも考えたが、自分から少女を傷つけた自覚のある第二王子は門前払いを甘んじて受け入れていた。
その日も、自室にこもっていた少女だったが当主である父から大事な話があると言われて、久しぶりに家族の前に姿を現した。
少女は、もともと線が細いところはあったが更に細くなったその姿に家族は涙した。
そして、当主は全員を見回して言った。
「呪いのせいでこの子が傷つくのはもう耐えられない。だから、ここではない世界。異世界に移住しようと思う。準備は既に整っている」
こうして、とある公爵一家は、少女のために自分の世界を捨てて、世界を渡った。