プロローグ 01
レオニルテーゼ大陸は、アメジシスト王国、イノセスト王国、カシオリア聖王国の3つの大国から成り立っていた。
それぞれの国は、それぞれ違った特色を持っていた。そして、三国は協力しあい友好な関係を築いていた。
その三国の中でも、魔道具作りに秀でた国であり、精霊と人が交わってできたと言われる国がアメジシスト王国だった。
彼の国は、精霊王国とも言われていた。
そんなアメジシスト王国の四大公爵家と言われる、4つの公爵家において北と称されるイグニシス公爵家には、三人の子供がいた。
公爵家の当主である父と長男と長女は、見目麗しい容姿をしていた。
しかし、それに比べて妻と次女はとても醜い容姿をしていた。
特に、次女は日増しに醜い容姿になっていった。
代わりに、母親の容姿は次第に醜さが薄れていったのだ。
これは、この大陸に広がっている呪いの影響だったが、この呪いにかかるものが稀なため忘れ去られた伝承となっていた。
その呪いは、【魔女の嫉妬】と呼ばれるものだった。
その昔、大魔法使いと呼ばれ大陸に名を馳せた一人の女性がいた。その女性にはたった一人、弟子がいた。
その弟子は、師匠である魔法使いよりも優れた魔法使いへと成長を遂げた。そして、その弟子は、容姿も端麗で非の打ち所のない立派な魔法使いとなった。
しかし、容姿が凡庸だった魔法使いは、弟子に嫉妬したのだ。
「私よりも魔術に優れている上に、容姿までも……。あの子が憎い。私はだんだんと年老いて醜くなっていくというのに、あの子は日に日に美しく成長していく。憎くて仕方がない!!」
嫉妬の炎に焼かれた魔法使いは、残りの命を全て注いである呪いを世界に撒いたのだ。
それが後に【魔女の嫉妬】と呼ばれる最悪な呪いだった。
呪いの内容はこうだ。
莫大な魔力を持ち、容姿に優れた女性の容姿を醜く変化させるというものだ。しかし、この呪いも完全なものではなかった。
呪いには効果上限があったのだ。
例えば、呪いの対象が複数いたとする。人数が多いほど呪いの力は分割されて一人一人が受ける影響は薄くなっていく。逆に言えば、対象が少ないときは、呪いの影響が色濃くなるのだ。
更に、複数の人間が対象であっても、元の容姿の美しさに応じて呪いの影響が変わってくるのだ。
つまり、元の容姿が美しければ美しいほど呪いが強まり、年齢によって美貌に陰りが出てきた場合などは、呪いの影響が薄くなっていくのだ。
他にも、後から生まれた者がより美しい容姿だった場合、先に呪いにかかっていた者の効果が薄くなり、後から生まれた者の呪いが濃くなっていくというものだった。
そんな過去の呪いなど知る由もない周囲の人間に冷笑されていた妻だったが、学生時代に同級生だった公爵家の当主と恋仲になり結婚。三人の子を授かった。
ただし、末の娘が生まれたときに莫大な魔力を持っていることが分かった時点で妻は将来のことを考えて涙した。
魔力量が莫大で、生まれたときから愛らしいその子が成長するに従って自分と同じ、もしかするとそれ以上の影響を受ける可能性を考えたからだ。
当主は決断した。
「可哀想だがこの子には、早々に仮面をつけよう」
そう言って、常に仮面で顔を隠す妻のことを見た。妻も、それに同意した。