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人形使いは再び極める  作者: 二一京日
幼少編
4/33

4 大賢者、森で人に会う

 アッシュが人形作りを始めて五年が経過した。十歳になったアッシュは屋敷の外に出ることを許されるようになっていた。当主のマーシュの計らいでそうなったが、しかし相変わらず使用人たちからはいい顔をされていない。それでも何も嫌がらせもないのは、ミサラの存在が大きいのだろう。ミサラが何もしない以上、使用人たちも何もできない。屋敷内ですれ違う時、基本的にミサラはアッシュを無視しているが、そのおかげで助かっている。外に出る時も、特に何も言われることはない。


 この五年で、マーシュにも、兄のハンスと妹のユリアにもあった。ハンスとユリアにはアッシュが妾のことであると言うことは伝えられているらしいが、ハンスはそのようなことは気にせずに本当に兄妹としてアッシュに接していた。そのことに最初は驚いていたが、今ではハンスとは自然に仲良く接することができる。


 一方、ユリアの方はアッシュのことを嫌っているらしく、屋敷内で会うたびに睨んだり文句を言ったりしてくる。まだ幼いがゆえに、感情が先に出てしまうのだろう。しかし、それも仕方ないとしてアッシュは気にすることなく過ごしている。


 当主のマーシュについては、アッシュは彼を父親と思うことはできなかった。カイバー家の当主であることに誇りを持っているようで、そのためだけに生きているという感じが伝わってきた。少なくとも、アッシュに対して見る目はただの人に対するもので、自分の子どもに対するものではない。


 だが、世界最高の人形使いという話は本当のようで、初めて会った時、雰囲気も魔力の質も立ち居振る舞いも、それらにアッシュは感嘆した。このようになりたいとは思わないが、一つの頂点に立ったものとして敬意は持っている。


 最近森に行くようになって、森の中に隠れ家のようなものを作るようになり、時間が空けばいつもそこに行くようにしている。五年間毎日アダンマイトを作り続け、最初は小石程度だったものが、今では一つの塊にまで大きくなってしまい、家の中で隠すことができなくなった。

 そのため、森の中に隠れ家を作ってそこにアダマンタイトを隠すことにした。誰にも見つからないように、わざわざ隠蔽の魔法まで使って。せっかく五年もかけて作ったアダマンタイトが奪われてはたまらない。


 この五年間、毎日媽祖を圧縮し続けたことで、アッシュの体内魔素はさらに上昇し、魔素操作技術も向上した。魔素量は大賢者の時よりは少ないが、操作技術は確実に当時を上回っていた。


 森の中で作業をし続け、どうにか形だけはそれらしいものができていた。味気ない単純な構造しかしていない人形だが、ひとまず土台ができた。これからさらに精巧に仕上げていく。


(だけど、一体どういう風に作ろうか……人形のタイプも決めて方向性も決めないといけないのに、全然決まらない)


 人形にも近接タイプと遠距離タイプといった、種類がある。全身にアダマンタイトを使用しているアッシュの人形は、今の状態で近接戦闘をしても平均的な近接タイプの人形に負けることはないだろう。硬さももちろんだが、パワーも相当に高い。


 だが、一流の人形が相手になると勝つのは難しい。防御力では一級品でも、それを活かしきれない。全てを独学で行っているアッシュには些か難しい。前世の知識を頼りに作っているが、それでも完成させるにはまだ時間がかかる。


(僕は書庫には入ることは許されてないしなぁ。今頃兄さんたちは人形の勉強をしているんだろうけど、それが無理なら……素材頼みというのも面白みが欠けるんだけど)


 ひとまず人形を完璧な状態で完成させることを目的として、アッシュは魔素を使い続ける。基礎的な知識はゴーレムに関するものを使い、自分なりに改良していく。


 日のある内の大半を隠れ家で過ごしているアッシュは、驚異的な集中力で人形を作り続ける。

 だからこそ、気付かなかった。


「ねぇ、君はこんなところで」


 後ろから女性の声が聞こえた瞬間、アッシュは手近にあった石を掴み、振り返りざまに投げつけた。しかし、直撃させるつもりがなく、ただ掠らせる程度にするつもりだった。


 石は女性の頬をかすめ、後方の木々へと消えていった。


「なにしてる、の……」


 消え入るような声で言葉を発した女性を視界に納めたアッシュは、ハッとした。声の感じから敵意がないのは分かっていたが、他者への警戒のし過ぎで咄嗟に攻撃をしてしまっていた。


「あ、ごめんなさい!つい、咄嗟のことで……」


 アッシュは急いで女性の元に駆けつけ、そう言った。アッシュがとても慌てていることが分かってのだろうその女性は、一瞬呆けたような顔をしていたが、すぐに微笑みを浮かべた。


「ううん、大丈夫。急に話しかけた私が悪いみたいだし」


 そう言う女性の頬には石が掠った後があり、そこからスッと血が流れていた。


「すみません、怪我をさせてしまって。えっと、治癒は」

「あ、大丈夫。この程度なら……ほら」


 女性が頬に手を当てると、そこに緑の光が灯り、その傷は一瞬で塞がった。それはアッシュが久しぶりに見る者だった。


「精霊魔法……」

「あら、よく知ってるのね、坊や」

「坊やって……」

「私からしたらそういうものだしね」


 アッシュがその女性を見上げると、彼女がとても美しいということが分かった。銀の髪に青い瞳、そして特徴的なのは耳の長さがアッシュに比べて明らかに長いということ。


「エルフ?」

「まぁ、未だにその呼び方をしてくれる人間がいるなんて、嬉しい」


 アッシュはそのエルフの言葉に首を傾げた。


「今はエルフとは呼んでないの?」

「今は人間たちは亜人と呼んでいるわ。そう言って私たちを蔑んでいるのよ。まったくもう」


 本当に怒っているだろうことがアッシュには分かった。


(確かに、人間の一存でその呼び名を変えようとするなんて、傲慢としか言いようがないな。しかも、亜人ときたか。まるで、自分たち人間が世界の中心とでも言っているみたいじゃないか。まぁ、当人たちにはその自覚はないんだろうけど……あまり良い気はしないな)


 アッシュはそう心の中で思いながらも、女性に笑みを浮かべた。


「僕はエルフって言葉の響きは好きですけどね」

「ありがとう。君みたいな人間もいるのね」


 女性が微笑むと、その後ろには火の光がさすように煌びやかに見えた。一瞬アッシュはその姿に呆けてしまったが、すぐにたたずまいを直した。


「僕、アッシュ・カイバーって言います」

「私はリーシャ。よろしくね、アッシュ君」

「はい、よろしくお願いします」


 この時、アッシュがリーシャと会ったのは運命だったのかもしれない。この出会いがなければ、究極の人形が生まれることもなかったのだから。


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