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人形使いは再び極める  作者: 二一京日
黒い霧編
12/33

2 人形使い、兄と模擬戦する

 庭に出ると、メイドはすぐに仕事に戻り、アッシュはしばらく一人で待つことになった。今どきは人形を主体にした戦闘であるため、人間同士が魔法で戦うことはあまりない。魔道具も色々と工夫されてきて、魔法の身で戦う魔法使いは時代遅れとなっている。

 となると、ハンスが生身で戦うということはない。むしろ、先ほど取りに行ったものが何かしらあったはずだ。


「ていうか、忘れ物ってことは、あれ事前に考えていたことじゃなくって、急に思いついたことだよね。それでよくもあそこまで強引に……」


 思い付きで模擬戦までするかな、とアッシュは考えたが、結局受けてしまったのだからそれはどちらでも良いことだ。


「悪い悪い、待たせた」

「大丈夫だよ、そこまで待ってない」


 アッシュが振り返ると、ハンスが顔を輝かせてトランクを持って走って来ていた。それほど楽しみだったのだろうが、トランクの中が明らかに普通じゃない。


「兄さん、それって人形?」

「お、分かる?」

「分かるっていうか、この状況なら確実でしょ」

「だな。そっちは生身でいいの?」

「まぁ、そこは考えてるよ、一応」

「人形は使わないんだな」

「……」


 ハンスはアッシュが人形を持っていることを確定の事として話す。どうしてかは分からないが、ハンスだけはアッシュのことを高く見ているようで、大分真実に近いところまで踏み込んでくる。ここで持っていないとアッシュが言ったところで、ハンスは納得はしないだろう。深く追求することはないが、それでもハンスに嘘を吐くことになるのは避けたいところだ。


(いつかは話すんだ。だったら、その時のお楽しみにということでいいか)


 アッシュは肩を竦めて苦笑いする。


「まぁ、今はね。次の機会にでも」

「そうか。なら、今は聞かないことにしとく」


 ハンスはアッシュから少し距離を取って向かい合うと、トランクを置いて開いた。

 次の瞬間、トランクの中から一体の人形が飛び出てきた。それはリーシャよりも大きく、三メートル近く高さがある。


「ゴウラン、《アームドセット》」


 ハンスが人形に銘じると、人形内の魔素が動き、人形付近の土が盛り上がり、人形全体を包み込んだ。


「このタイプは……そういうことね」


 アッシュが人形の特性を予想したのと同時に、人形を包んでいた土は形を変え、それらを鎧となり人形に張り付いた。鎧を着ける前も十分強そうだったが、鎧を着けたことでその存在感が圧倒的なものになる。


「ゴウラン……土属性の核なんだ」


 人形には必ず核があり、その核には魔法属性と同じように属性がある。基本的に核は一つの属性を持っており、人形はその属性の魔法を使える。ゴウランは土の魔法を使っていることから、土属性の核だ。


(人間が使う場合、防御として意味を成すには相当出力が必要。人形だからこそできる芸当かな)


 アッシュはゴウランを前にして、思わず笑みを浮かべてしまった。強敵なのは間違いないが、それ以上に間近で別の人形を見ることができてアッシュは嬉しくなったのだ。


「手加減のために剣は使わないどいてやる」

「防御は万全みたいだけどね」

「それくらいはいいでしょ」

「……まぁ、そんなものか」


 アッシュはポケットから小さな箱を取り出し、その中のいくつかある黒い結晶のうち、一番小さいものを取り出した。箱に入っている物は、全てアダマンタイトの結晶だ。リーシャの体を作って余った結晶、完成してからも作り続けていた結晶。リーシャではなく、アッシュが使うための物だ。


 使う結晶は掌の四分の一程度の大きさ。だが、摸擬戦で相手は本来の攻撃力は出せない。なら、それだけで十分だとアッシュは判断した。


(ダメだった時はそれまでということで……)


 アッシュは小箱をしまい、人形と向かい合う。その奥のハンスは手招きをして、アッシュを誘っていた。


「なら、遠慮なくいかせてもらおうかな」


 掌に握っていたアダマンタイトを指ではじいた。


「《ファーラ・イス》」


 そう唱えると、アダマンタイトの結晶は薄い障壁となってアッシュの前に出現する。障壁は六角形となり、アッシュの操作で回り出す。


「えっと、アッシュ、それが何か聞いても良い?」

「う~ん、まぁ、いいか。アダマンタイト」

「……は?」

「アダマンタイト」

「だから……は?」


 あまりの驚きで会話にならないハンスに、アッシュはため息を吐いた。仕方ないとはいえ、このままでは模擬戦にすらならない。


「その話は後ね。模擬戦しよう」

「あ、あぁ、分かった」


 この時代でもアダマンタイトというのは、ハンスが今まで見たことのないほどの驚きようを見せる物なのだ。


(全身アダマンタイトでできてるリーシャを見たら、兄さんはどう思うんだろうなぁ)


 アッシュは回転させた障壁の面を人形に向かって放つ。空気抵抗であまりスピードは出ないが、相手は重装甲の人形でスピード型ではない。それに模擬戦だから、そこまで本気で動くこともない。


 ハンスは人形を操作して、両腕を交差させて防御姿勢を取る。ハンスの表情は模擬戦を始めた時の飄々としたものではなく、必死そのものだった。先ほどのアッシュの発言で警戒を強めたのだろう。


(アダマンタイトと聞いて嘘だと思う人が大多数だろうに……僕の言葉を信じてくれるなんていい人だなぁ)


 ガギガガガガガッ!


 アダマンタイトの障壁とゴウランが衝突し、激しい音が鳴り響いた。障壁の重さは大したことないため、ゴウランを引かせることはできないが、硬さではたとえ薄くてもアダマンタイトの方が上だ。回転する障壁がゴウランの鎧を砕いていく。


「マジかよ。予想以上じゃないか。でも、力はないみたいだな」


 ゴウランでアダマンタイトの障壁を弾き、アッシュを狙ってきた。一般的に魔法使いよりも人形の方が強いため、魔法使いを狙うのは定石。しかも、今回はアダマンタイトの障壁を狙ってもまったく意味はない。


「だけど、摸擬戦にしてはちょっと本気過ぎない?」

「アダマンタイトを使うお前に言われたくない」


 アッシュの文句にハンスは言い返す。そう言われてみれば確かに、と思わなくもないアッシュ。

 接近する人形に対して、アッシュは走って向かって行く。


「《パワーアップ》」


 身体能力を上げ、ちょうど上がる瞬間に思いきり地面を蹴って人形の下を滑り込んだ。アッシュに殴り掛かっていた拳は空振り、地面に激突する。


「逃がすか!」

「逃げるよ」


 ゴウランの体は一瞬で回り、拳を繰り出す。明らかに生身の人間に対する攻撃ではないが、アッシュはまだ対処できる。自分の元に戻していた障壁を足場にして跳び上がり、ゴウランの上に飛び乗る。そして、ゴウランの頭のてっぺんから掌打を叩きこむと同時に、一気に魔素を送り込む。


 人形とは魔素をエネルギーにして動かしており、その魔素の流れは術者、今はハンスの操作にゆだねられている。だが、一気に魔素を大量に流し込めば、その操作は乱れる。結果として、人形はハンスの操作をしばらく受けず、動きを止める。


「……これはもう無理だな」

「一時的なものだけどね」

「だとしても、摸擬戦としては俺の負けだろ。アッシュと人形の勝負ならアッシュの勝ちだね」

「……そりゃ、どうも」

「お、動いた」


 本当に少しの時間だけしか動きを止められず、もうハンスの操作に戻った。むしろ、先ほどよりも動きは良さそうだった。


「何かさっきより良いんだけど、どういうことだ?」

「あぁ、僕が一気に魔素を流し込んだからだね。魔素の流れを壊すようなことはしなかったから、逆に流れが良くなったんだよ。まぁ、これも一時的かもしれないけど……」

「だとしても、凄すぎないか?俺が思ったよりもヤバいんだけど。これで人形も持ってるってなったら、お前人形と一緒に戦えるんじゃない?」


 アッシュは自分がリーシャと一緒に戦っている姿を想像し、苦笑いした。思い浮かべたのは五年前のリーシャがエルフだったころの姿。今はその記憶しかないが、これからは人形としてのリーシャの記憶の方が多くなっていく。


「できるならそうしたいところだね。でも、僕じゃ人形と真っ向から戦うのは厳しそうだね。ゴウランの攻撃を躱してからめ手をしただけだからね」

「ゴウランも性能で言えば相当なもんだし、鎧をこんなに削られてたらなぁ」

「あぁ……ごめん?」

「いや、疑問形の必要はないだろ。それにこんなの魔法で作っただけだからすぐに直せる」

「そりゃよかった」


 アダマンタイトの障壁を結晶に戻して、アッシュはハンスに向き直った。


「で、どうする?模擬戦があっさりと終わっちゃったけど……」

「おや、アッシュは再選をお望みかな?」

「そうは言ってないけど、少し物足りない感はあるね」

「さっきは渋ってたくせに」

「さっきはさっき、今は今。考えくらい変わるって」

「はははっ、了解了解。じゃあ、もう一度やろうか」


 ゴウランの鎧を地面の土を使って元に戻し、さらには大剣を一本作り出した。


「え、武器を持つの?」

「これくらい良いだろ。大丈夫、お前なら問題ない」

「それを判断するのは僕だと思うんだけど!」

「ほら、行くぞ」

「ちょ、いきなり!?」


 そこから、摸擬戦を何戦かして、終わったのは二時間後だった。


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