表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2つの国と世界の話  作者: おれんじさんたち
1/2

side:フォルトゥーナ

 開け放たれた窓では、薄い絹のカーテンが揺れ、透ける夕日はテーブルに緋色の光を落とす。

 一定の間隔で、休むことなく動かしていた羽ペンを止め、彼女はふと目線を上げた。それと同時に、近付く足音。静かなノックの音に、彼女が入室を促すと、一人の青年がその扉を開いた。

 穏やかな顔付きの美丈夫。肩口ほどの、男性にしては長めの紺青の髪は、邪魔にならないよう後ろに流されている。仕立ての良い燕尾服に純白のグローブで、礼儀正しく入室する様は、さながら家令のような立ち居振舞いだった。

 青年は、彼女に向かって一通の手紙を差し出す。


「お疲れ様です、当主」

「…ええ」


 ねぎらいの言葉とともに差し出されたそれを一瞥し、彼女はため息混じりに羽ペンを置くと、手紙を受け取り、見慣れた封蝋を確認する。

 夕焼けの色が、青年の胸ポケットの懐中時計に反射して、キラリと輝いた。彼女は眩しげに淡い碧眼を細め、ナイフを取り出して手紙の封を切る。

 静かな室内に、カサカサと紙の擦れる音がやけに響いた。

 ふわり、と顔にかかった純白の髪を耳にかけ、彼女は素早く文面に目を走らせる。


「ハイドランジア。貴方、しばらく他の雑務を頼める?」

「はい、問題ありません。ただ、例の辺境伯主催の夜会はいかがいたしますか?」

「当然、不参加よ。いい口実ができたじゃない?」


 彼女はそう言って不敵に笑うと、ひらひらと読み終わった手紙を振る。途端に、その紙面はあっという間に灰となり、カーテンを揺らすそよ風に溶けていった。

 彼女はそれを見届けると、高い位置でひとつにまとめ上げていた白髪をほどき、頭を振る。ばさり、と広がった長い髪が、夕日の色を映して風になびいた。


「さ、つまらない仕事の時間は終わりよ、ハイド。街に出ましょ。ラーチェを呼んでくるわ」

「はい、姉さん」


 二人は、先程の他人行儀な態度を一変させて、互いに笑顔を交わす。

 彼女は、大きく伸びをしながら、ダンスのステップを踏むようにターンすると、嬉々として執務室を駆け出して行く。そんな姉に、ハイドと呼ばれた青年は、やわらかな微苦笑を浮かべて後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ