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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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本当の意味での

「…………あの時の続きをしたいってこと?」


 オレの言葉をそう返されて……。


「あ?」


 彼女から何を言われたのか、分からなかった。


 だが、急に理解する。


 この女は、オレが「発情期」中にやった行為の続きをしたいと思っているんじゃないかって疑っているのだ。


 そう思われていることは心外だった。


 だが、もし、それが許されてしまうなら、オレは平常心ではいられる気がしないのも事実であるのだが。


「違う違う違う!!」


 大慌てでなんとか否定する。


 彼女の言葉も、自分の欲望も。


 いくらなんでも、それはない。


 あれだけ阿呆なことをして彼女を傷つけた上に、さらに、自身の欲望を満たすわけにはいかないのだ。


「そう言う意味は一切合切ねえ!」


 煩悩を吹き飛ばすためにオレは叫んだ。


 柔らかい肢体も、瑞々しい肌も、魅力的な反応も。

 あの時より深く、強く堪能したい欲は当然ながら持っている。


 これだけ自覚なく蠱惑的な女なのだ。

 (オレ)の本能は嫌でも刺激されてしまう。


 だが、それは今までのように押さえつけ、閉じ込める。

 ここから先、その気持ちは邪魔でしかないのだから。


「じゃあ、どういう意味?」


 上目づかいで睨みつけながら確認されても、怖くはない。


 寧ろ、可愛らしい小動物にしか見えない。


 そのために……。


「お前に触れたい」


 うっかり、何も考えずに言葉が出てしまった。


「…………はい!?」


 彼女の顔が真っ赤に染まった。


 それを見て、オレは言葉の選択をさらに間違えたことに気付く。


「ち、違う! その、お前と違って、邪な意味はない!!」


 さらに、うっかりは続き、口から本音が漏れた。


「ちょっと、それ、どういう意味?」


 聞き捨てならなかったらしい。


「お前、以前、絵のモデルと称して、半裸のオレをペタペタと触り捲ったじゃねえか! しかも、頬までくっつけやがって!! アレを邪と言って何が悪い?」


 あの行動はどこに出しても恥ずかしい、立派な痴漢、いや、痴女行為である。


 オレ以外の男には、決して、やって欲しくない行動でもあった。


「あれも邪な意図はなかったよ?」


 少し考えて、彼女はそう言った。


「オレもない。全くない」


 あんなことをしておいて、不純な気持ちはないと嘘偽りなく言うのだから、厄介なヤツだと本気で思う。


 特に、あの時と違って、今はオレが自覚してしまった。


 つまり、オレは今まで以上に彼女に振り回されることになるのだろう。


 そう思えば、眩暈を覚えるが、それすらも悪くないと思ってしまう自分もいる。


「じゃあ、『抱きたい』ってどういう意味?」


 自分で言っておいてなんだが、惚れた相手からそんな言葉を言われるのは、少し恥ずかしいものがある。


「抱き締めさせろって言ったんだ」


 だが、さらに自分の口から出てきた言葉も十分、恥ずかしいものではあった。


「この場所では、『ゆめ』以外に手を出したらいけないんだよ?」


 今更、そんな常識を解かれても困る。


 そして、この女はそれを知っていたのか……。


 ああ、あの赤い髪の男から聞いたのかもしれん。


「だから、ちゃんと合意を得ようとしているんだよ」


 「ゆめ」以外に手を出したらいけないわけではなく、強引に、無理矢理、というものでなければ問題ないのだ。


 その点においては海より深く反省している。


 そして、一応、「発情期」という免罪符があったことで、オレは救われていることも理解はしていた。


「オレが護衛でいる以上、お前に触らないわけにはいないだろ?」

「その言い方もどうかと思うけど……」


 だが、それ以外の言葉が見つからない。


 実際問題として、彼女に触れないことには、移動魔法も使えないのだ。

 オレは触れることで、移動魔法の範囲を広げるしかないのだから。


 そして、他にもいろいろ不便が出てくる。


「だけど、オレがお前を怖がらせたから、もしかしたら、もう触れることもできなくなったんじゃないかと……」


 確かに自業自得ではあるのだ。


 好きな女に触れることができない。

 それは、結構辛い。


 だが、激しい声で「触れるな」と、拒絶されるのはもっと辛かった。


「じゃあ、試してみましょう」


 少し、迷ったようだが、彼女はそう結論を出してくれた。


 そのことにホッとする。


「良いのか?」

「必要なことなのでしょう?」


 そう言って、彼女はオレを見る。


 黒い瞳、黒い髪。

 それを含めた全てでオレを惹きつける女がそこにいる。


 ゆっくり手を伸ばすと、少し瞳に怯えの色が入った。

 そのことが苦しいほど胸を締め付ける。


 そして、そんな状態だと言うのに、それでも、逃げずにオレのことを受け止めようとしてくれる彼女が酷く愛らしくてたまらない。


 恐る恐る、腕を引き、いつもよりゆっくりと慎重に自分の腕へと収めると、彼女の身体から力が抜けた。


 そのことに安堵したが、それでも、いつ撥ね退けられるか分からない。

 少しだけ、腕に力を込めた。


「大丈夫か?」


 怯えから来るような身体の震えはないように思われたが、上手に隠されては分からないかもしれない。


 彼女は昔より、感情を隠すことが巧くなっているのだから。


「うん」


 彼女は小さく答える。


 顔は見えないが、その耳はかなり赤かった。


 抱き締めたぐらいで、今更、照れているってことはねえよな?


 もう、何度もやっていることだ。

 しかも、それ以上のこともしている。


 もしかして、怒っているのか?


 いや、これは、我慢の方か。


 あれだけのことをされた男からこんな風に抱き締められるのは、女にとって、苦痛かもしれない。


 だけど、今は離す気はなかった。

 いや、自分から離す気などない。


 柔らかくて小さい彼女は、オレの両腕にすっぽりと収まっている。

 逃げもせず、身動ぎもせず、ただ、オレに引っ付いているだけの姿勢。


 そして、当然ながら彼女の両腕は下げられている。

 腕を回される気配はない。


 ずっと昔から、手を出したい欲望と、大事にしたい願望が、オレの中でせめぎ合っていた。


 それがいつからかなんて、覚えてもない。

 ただ、気付けば、そんな状態だった。


 だけど、それを認めるわけにはいかなくて、ずっと想いに蓋をして、心の奥に押し込めていたのだ。


 そして、歪んだ。

 その気持ちはずっと、外に出たがっていたのだから。


 そして、その外に溢れ出そうとする気持ちを、自分が認めるのはずっと苦しいことだと思っていた。


 だが、思っていたよりは枷も少なく、楽だと感じている自分がいる。


 認めてしまえば、死ぬしかないと思っていたが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……栞」

「な、何!?」


 オレが声を掛けると、分かりやすく動揺し、さらに身を強張らせた。


 どうやら、「栞」呼びに慣れないらしい。

 これについては、自分から望んだのに、変なヤツだ。


 だが、オレは止める気などない。


 せっかく、許されたのだ。

 これからは心置きなく呼んでやろう。


「少しだけで良い。黙ってオレの言葉を聞け」

「ふえ?」


「前にも言ったが、この両手は既にお前に捧げた物だ」


 オレは告げる。


「いや、両手だけじゃない。オレの心も身体も魂までも、主人(あるじ)であるお前に全て捧げてやる」

「ふおっ!?」


 黙っていろと言ったのに、こんな時でも、変な声を出しやがった。


 いろいろ、台無しじゃねえか。


 だけど、困ったことにそれすらも彼女らしくて、愛おしくてたまらないと思えてしまうのだから、オレは本当に重症だよな。


 オレは彼女の黒髪を撫でながら、その耳元に顔を近づける。


 その行動で、彼女はびくりと動いたが、小さく、彼女以外の誰にも聞こえないように囁いた。


「『()()()()()()()()()()()()()()』は、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』を最期の時まで守り抜くとここに誓う」


 それは、これまでとは違い、本当の意味での宣誓。


「何度も救われたオレの命。お前の好きなように使え」


 オレは、今、唯一を決めたのだ。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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