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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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一度、疑い出したら

 ここで見た時から、ずっとこの男に対して違和感が付きまとっていたんだ。


 どこか、存在が本物じゃないような、何かを被っているような、そんな妙な感覚があった。


 人間界では一度も思わなかった。


 あの温泉で高田に纏わりついた魔気に気付くまでは、この男が魔界人だって疑いもしていなかったぐらいだ。


 そして、この世界に来て、オレ自身が何度かあの紅い髪の男と会話をしたから、不意にそんな気がして、思わず口にしていた。


「来島……、お前、実は『ライト』って男じゃねえか?」


 確かに顔も体内魔気も全く違う。

 普通なら、その時点で別人だと考えるべきだろう。


 だが、どちらも誤魔化す術はあり、ソレをオレは知っている。

 一度疑い出したら、もう、止まらなくなった。


 そして、ようやく、その言葉を口から吐き出すことで……、妙に落ち着くことができたのだった。


「笹さんはなんでそう思った?」


 だが、目の前の男はオレの言葉に少しも動揺することもなく、笑顔を見せたまま、問い返してくる。


「勘」

「勘……って……」


 理由にもなっていないようなオレの答えに対して、流石に笑顔が陰り、どこか呆れたような気配が伝わってくる。


「似てるんだよ」

「似てる?」

「顔も体内魔気も別モンだけど、それでも、どこかで()()()の匂いがするんだ」


 あの高田の「分身体」に会ったせいかもしれない。

 同じ身体から生まれた別の存在。


 もしかしたら、あの状態に似たような物ではないか? と。


「大体、『ライト』って言葉で通じているのがおかしい」


 そのこと自体が決定打ってやつじゃねえか?


 普通なら「それ、誰? 」って問い返すだろ?


「流石に、俺のことを()()()()()殿()()と間違われていることぐらいは分かるよ」

「あ?」


 だが、目の前の赤い髪の男は、頭を掻きながらそう答えた。


「栞にご執心だからね、ライト様は。だから、あの女の近くにいる笹さんと面識があっても、俺も驚かない」

「ライト……様?」


 何、言ってんだ? こいつ……。

 自分に……「様」付け?


「ああ、ライト様と()()()()()()()()()()()()()()()よ? だから、どこか似てるって感覚は間違ってないから、そこまで否定する気はないけどね」

「同じ……血?」


 この感覚は……ソレなのか?

 同じ血が流れているから……、こんなにも違和感があるのか?


 そして、この男はやはり、「ミラージュ」の人間なのか?


「同じ(はら)から生まれているからね」


 かなり核心めいた言葉だが、それに嘘がないことは分かる。

 だが……。


「本当にライト……、じゃないのか?」


 どうしても、そこが引っかかってしまう。


 こんなにも、言葉にできない何かが同じなのに?


「逆に、なんで、俺が『ライト様』だと思った? 俺はそっちの方が気になるな。あの方とは全く顔も違うし、体内魔気も全然、違うはずだ。それなのに似てるって思えただけ本当に奇跡だよ。赤の他人で気付いたのは、笹さんぐらいじゃないかな」

「顔や体内魔気なんか、誤魔化す手段はいくらでもある」

「俺、()()()()()()()()()()()()()けど? 一切の加工なし。()()()()()()()()()()


 自分の顔を指さしながら、あっけらかんと言うその言葉たちにも、嘘は……、なかった。


「それに、ストレリチアにも()()()()()()()()()()()()()。成長したから残っている姿絵とは多少、違うように見えるかもしれないどね。その点については、大神官猊下に確認してくれても良いよ?」

「ストレリチア?」


 なんで、ここで法力国家が?

 しかも、神官登録?


 その言葉に偽りはないってことは、この男……、実は神官なのか!?


「あれ? それは栞から聞いてない? 俺、法力国家で一応、『下神官』までにはなっている」

「あぁ?」


 高田とはもう長い時間、話していない気がする。


「でも、まさか、勘って曖昧な理由で、俺のことをあの方と同一人物だと疑われるとは思わなかったけど……」


 困ったように笑う来島。


「つまり、お前は、ミラとは血は繋がっていないのか?」


 諦めきれなくて、再度、問いかける。


 我ながら、女々しいとは思うし、この期に及んで往生際が悪いとも思うが、この質問の答え方によっては、逆に、確信できるのだ。


 ミラ自身の口から、あのライトとか言う男と彼女は異母兄弟だと聞いている。

 以前、彼女から「血の繋がった兄」と言う言葉が出ていたのだ。


 そして、その時のミラの言葉に嘘はなかった。


 本当に、こいつとライトが異母兄弟ならば、確かにミラとは血の繋がりはないということになる。


 だが、もし、「ライト(ほんにん)」ならば、少なくとも父親側に血の繋がりが生じる。


「ミラ? ああ、ミラクティ様か……。へえ、愛称呼びなんて、笹さん、あの人とも親しいんだね」


 少し面白そうに笑う来島。


 それが、何かの時間稼ぎのように思えて仕方ない。

 いつから、オレはこんなに疑い深くなったのだろうか?


「良いから、答えろ、来島。お前は、ミラ……、ミラクティとは血の繋がりはあるのか? ないのか?」


 誤魔化されないように追求する。

 下手にお茶を濁すようならそれは……。


「ないよ。全く」


 だが、オレの意に反して、あっさり答えたその言葉には、微塵も嘘はなかった。


「幼い頃は一緒に育てられているから、今もどこか兄妹みたいな感覚は残っているけどね」


 つまり、こいつとライトが異父兄弟で、そこにライトの別の異母兄妹が一緒に育てられたってことか。


「でも、俺がライト様と同一人物だった方が、笹さんにとって、都合が良かった?」


 ミラージュを国家として見れば、王族である高田と釣り合いはとれなくもない。

 もし、高田がこの男を選んだとしても、問題はなくなる。


 だけど、オレが気にしたのは、そんな部分じゃなかった。


「それじゃあ、なんで、ここに現れた? 高田の前に、都合よく」


 そこがずっと引っかかった。


 高田のストーカーでもしていない限り、こんな偶然はありえないだろ?


「栞にも言ったけどさ~。俺、ここの警備やってもう一ヶ月ぐらい経つんだけど」

「あ?」


 言われた言葉が理解できずに短く問い返す。


「俺が警備している所に栞と笹さんが現れたって言ってるんだよ」


 そんなオレに対し、呆れたように来島は答える。


「警備って、なんで……?」

「それ、笹さんがなんで栞の護衛やってるのか? って問いかけと一緒じゃね? 仕事するのに、金以外の理由がある? ああ、笹さんなら、あるのか。でも。一般的には働くためって納得できない?」


 目の前にいる赤い髪の男の言葉には、何一つして、嘘はなく。


「まあ、笹さんが、()()()()()()()()()()()()()()のは分かるし、()()()()のも仕方がねえとは思うけど」


 と、言いきった。


 これは、嫉妬のせいなのか?

 この男に対する嫉妬で、オレの感覚はここまで狂ったのか?


 それを自覚した途端に、自分が情けなくなる


 八つ当たりに近いものだ。

 もし、来島が本当にライトならば、確かに()()()()()()()()()()だった。


 そして、それは間違いなく、高田ではなくオレの都合だ。


 この男を撥ね退け、高田(しゅじん)から手を引かせるために手を尽くすことが許される理由ができるから。


「誤解は解けた?」

「おお……」


 オレは項垂れるしかない。


 間抜けにも程がある。


 嫉妬で、関係のない男を、勝手な言いがかりを付けた上で、貶めようとしたのだ。


 穴を掘って埋まりたい気分だった。いや、できるなら、時間を巻き戻したい。


 水尾さん、時間を戻す魔法って知らねえかな?


「まあ、俺がミラージュの人間だって気付いただけでも、かなり良い勘をしているとは思うけどね」


 来島から纏っているのは、他のミラージュの人間から漂う独特の体内魔気と違って、普通の火属性魔気だ。


 他のミラージュの人間、ミラやライトの魔気は……、雑多とは言いきれないけれど、なんだか妙な気配が邪魔をしているような印象がある。


 だが、この来島からは()()()()()()()()()()()()

 普通なら、ミラージュの人間と分からないだろう。


「質問は、それだけ?」

「おお」


 今更、こいつと高田の間に何があったかなんて、問い質す気にもなれない。


 もともと、高田自身が誰を選んだとしても、その相手に対して、オレが口を出せるはずもないのだ。


 それが、気に食わないあの紅い髪の男だったとしても。


「じゃあ、今度は俺からもいくつか質問しても良い?」

「……おお」


 来島は笑みを浮かべたまま、俺に向かってそう言った。


 ヤツはヤツでオレに対して、いろいろ言いたいこともあるとは思う。


 どんなことを聞かれるか分からないが、根拠なく疑った手前、ある程度の範囲は答えてやろうと思った。


 そして、オレのこの思考と、ヤツの言動によって、事態が一気に変化するのだが、そんなことはオレも、勿論、ヤツもこの時点では考えてもいなかったことだろう。


 それだけ、予想外のことに繋がるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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