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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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何を守ってくれた?

この話は最初から最後までほぼR-15です。

R-18には届いていないと思いますが、ご注意ください。

「満足するまで磨いたか?」


 わたしがお風呂から出た時、来島はベッドに腰かけていた。


 それだけなのに妙に緊張する。


「くっ、来島は?」

「俺は洗浄魔法使えるから」


 純粋な魔界人はズルい。


「見事なまでに普通だな」


 わたしの出で立ちを見て、来島は苦笑する。


「せめて、勝負服ぐらいに着替えとけよ。まあ、そんなところも栞らしいとは思うけど」

「勝負服……って……、そんなものを着られるわけがないじゃないか」


 わたしの勝負服?


 神子(みこ)装束や神装(しんそう)だろうか?

 そんな服は持ち歩けない。


「少しぐらい露出高い栞を見られるかと思ったのに、残念だな」

「露出高い? 凹凸があまりない人間が多少、肌を露出したところで面白味はないと思うけど」

「背伸びしている感があって、良いモノだぞ?」

「つまり、子供扱いされてるのかな?」

「いや、()()()()()()()()()()んだよ」


 どうして、この男はさらりとこんなことを言うのか?


 不意打ち過ぎて、顔が紅く染まったことが分かる。

 そんなわたしの様子を見て、来島は笑いながら、こう言った。


「さて、時間はやったぞ。ちゃんと覚悟はできたか?」


 何度も確認する辺り、彼は本当に人が良いのだと思う。


 それでも、逃がしてくれる気はなさそうだけど。


 いや、本気で逃げようと思えば、逃げられなくはないだろう。

 それだけの猶予を来島は何度もくれた。確認だってしつこいぐらいにしてくれる。


 だけど、逃げる気には何故かなれなかった。


「怖さは、やっぱりなくならない」


 だから、わたしも正直に言う。


 どんなに逃げられないと分かっていても、それでも、怖いものは怖いのだ。


「栞……」


 来島が手招きをする。


「俺のこと、嫌いか?」

「嫌いじゃないよ」

「それだけで十分だ」

「あ……」


 そう言って、わたしの腕を取り、引き寄せられる。


 そして、そのまま来島は器用に位置を入れ替えて、わたしをベッドに倒し、そのまま覗き込んできた。


 ―――― 怖い!


 あの時も、九十九が上から圧し掛かってきた。

 両腕をベッドに縫い付けるように押し付けられた。


 それと重なって、思わず目を固く閉じる。


 わたしの頬に来島の指が触れた感覚がして、そのまま、柔らかく繰り返し撫でられる。

 何度も頬を撫でられているその行為が、妙にくすぐったくて、思わず口元が緩んでしまった。


 ふっと笑うような息が漏れるような音がした後、唇に柔らかいものが当てられる。


 顎に手を当てられ、口を微かに開かされ、そのまま、口内に途轍もなく柔らかいモノが侵入して……。


「ふわっ!?」


 思わず、上がる叫び声。


「ど、どうした?」


 来島もわたしの反応が予想外だったようで、口を離して、それまで無言だったのに、慌てたように声を掛けてきた。


「い、今の……、何?」


 まだ感覚が残っている口を押さえながら、わたしは彼に尋ねる。


 わたしが目を閉じている間に、来島は周囲の照明を弱めたのだろう。近付かなければ表情が見えないほど暗かった。


「何って……、キス……、だろ?」

「い、いや……、なんか……ちょっと……、変だった」

「変って……、舌を入れただけだが?」


 来島は少し考えて……。


「まさか、まだ笹さんともしてなかったのか?」


 そんなことを聞いてきた。


「……したけど……、なんか……、違う」


 聞かれたから思わずそう答えてしまったけど、この答え方ってどうなのだろうか?


 明らかに思考が鈍っている。


 でも、本当に全然違ったのだ。


 九十九は強引で力強かったせいか、捕まらないように必死で逃げたのだけど、来島の方は柔らかくて優しくてわたしの動きに逆らわず合わせてきた。


 そのせいか高熱で溶かされてしまったかのように、ほんの僅かだったというのに頭がぼーっとなってしまう。


「違うって……。相手が違うんだから同じわけがねえだろ?」


 呆れたように来島は溜息を吐く。


「そ、そうなの?」


 していることは同じなのに?


 いや、確かに舌の固さとか熱さとかは違う気がするけど、こんなにも違うものなの?


「そういうもんなの。そうか。そんなことすら栞は知らんかったか」

「ご、ごめん」


 流石に気を悪くさせただろうか?


 普通に考えれば、別の人間と比べる行為だ。

 しかもそれをこんな状況で聞かされては、あまり心穏やかにはならないだろう。


「気にするな。時間はあるから、ゆっくり、じっくり教えてやるだけだ。それに……」


 来島の瞳が妖しく光る。


「やっと、その大きな目を開けて、俺の顔を見たことだしな」

「ふ?」

「好きなだけ()()()()()()()()()。その上で、ちゃんと選べ」

「え、選ぶ?」


 何を選べと?

 まさか、九十九と来島のことを?


 わたしはそんな立場にないのに?


「まあ、なんだかんだ言っても結局の所、ヤったモン勝ちだけどな」


 そう言って、再び唇を重ねてきた。


 ―――― マズいっ!?


 いや、勿論、味ではない。

 正直、味なんてよく分からない。


 だけど、舌先から脳内(あたま)が溶かされていく。

 熱くて苦しくて、()()も意識しないとまともにできそうにない。


「はあっ!!」


 よく分からないけれど、この状態は良くない!


 わたしの中で何かが叫んでいる。

 このままだと取り返しがつかなくなる。九十九の時以上に!


 だけど、身体に力が入らない。

 先ほどまであった怖さなど、とっくに空の彼方に吹き飛ばされているのに。


 記憶に残るだけの恐怖より、今、直に感じている高熱とそれに伴い押し寄せるような感覚と、未知な物に対する好奇心が入り乱れて、身体も心も意識すら自分のものじゃなくなってしまったみたいだ。


「甘い……」


 吐息を漏らすような彼の低い声が、自分の中に吸い込まれて、混ざっていく。


 しかし、男の人って、どれだけキスが好きなのだろうか?


 九十九からは唇が腫れあがるかと思うほど激しく何度もされたし、来島からも味わうようにじっくりとされている。


 それが熱すぎて、それだけで頭が蕩けてどうにかなりそうなほどだった。


「もっと力を抜け。やりにくい」


 唇を離して、耳元でそう囁かれる。


「ち……から……?」


 そうは言われても、既に力なんて入る気がしない。


 脳を含めて全身が既に溶かされている。

 口だけでこんな感覚になるなんて、知らなかった。


「ああ、そうか」


 来島は何かに気付いたように、わたしの耳朶に舌で触れる。


「んっ!?」


 先ほどまでと違った場所に、別の感覚があった。


 口はもっと鋭敏で分かりやすかったのに、耳はくすぐったくて、なんと言うか……頬や(うなじ)辺りが妙にもぞもぞする。


 そのまま、タートルネックの服の上からゆっくりと唇を滑らせ……。


「ああ、なるほど。()()()()()()()()()か」


 ふと、来島の動きが止まる。


「俺は気にしないけど、お前は気になるよな」


 そう言って、さらに部屋の明かりが暗くなる。


 周囲はほぼ黒い影しか見えないが、来島とは接触するほどの距離だ。

 困ったように眉を下げている彼の表情は分かった。


「ちゃんと()()()()()()()な」


 そう言って、タートルネックの襟を下げて、首筋にキスをした。


「そ、それって……」


 彼が言いたいことは分かる。


 わたしの身体には、まだいくつか鮮やかに紅い刻印が残っている。


 それを上書きとなると、誰かと間接的な何かになってしまうのではないか?


「もう一度言うが、俺は気にしない」


 何かを察したのか、来島は念を押すようにそう言った。


 ―――― そうか、気にしないのか。


 来島は九十九とは違う。

 

 あの黒い髪のように赤い髪は乱れない。


 あの黒い瞳のように紫の瞳に苦しそうな色はない。


 唇から熱い息を漏らしているのはわたしの方だけで、彼は汗一つかいていない。


 だけど、男性としてわたしに手を伸ばし、触れているのは一緒だ。


 あの時、九十九は()()()()()()()()()


 自分は苦しんでいたのに、それでも、そこで踏みとどまったのは()()()()()


 並の精神力ではどうにもできない状態とされる「発情期」で、九十九は何に気遣ってくれた?


 あの不器用で、真面目で、堅物で、素直じゃなくて、努力家で、気遣い屋で、自分を後回しにして、いつもわたしのためだけに動いてくれるあの人は、自分よりも何を大事にしてくれた?


 ―――― それを……、このまま、捨てても良い?


 良いわけあるか!


 不意に、何かがカチリとハマったような気がした。

 腕や足に力がこもる。


()()()か……」


 来島がふと呟いた。


「へ?」

「だが、()()()()()()()()()な」


 その来島の言葉の意味を深く考えるよりも先に……。


「いっ、ああああああああああっ!?」


 わたしは、引き裂かれるような激しい痛みに襲われたのだった。

この話で、54章は終わります。

次話から第55章「この手が掴んだもの」です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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