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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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好きなものは人それぞれ

「ああ、そうだ。前々からミオに聞きたいことがあったのだけど……」


 新たに追加されたフルーツが載ったスフレを食い終わった後、真央さんが不意に口を開いた。


「沈む夕日のように鮮やかな紅い髪色の青年って心当たりがある?」


 その言葉で……、オレの中に該当する人間が一人だけ選出される。


 ああ、そう言えば、真央さんもあの日、アイツを目撃していたな。

 崩れる前のカルセオラリアの城壁で。


「鮮やかな紅い髪?」


 水尾さんが少し首を捻ると……。


「ああ、高田のストーカーにそんなヤツがいるな」


 この上ないヤツの評価を下す。


「高田の、ストーカー。道理で……」


 質問をしておきながら、どこか遠い目をする真央さん。


「あの男の言葉ってどれぐらい信じられる?」

「マオもあの男に会ったのか?」

「うん、ちょっとばかり」


 その言葉に嘘はない。


 確かに、オレたちが会話をしていたことを知っていたようだから。


「信じられるほど面識があるわけではないからな~」


 水尾さんは肩を竦める。


「高田の方が詳しいと思うぞ? なあ、九十九」

「そこで、オレに振らないでくださいよ。あの男は高田に関心があるだけで、オレはオマケ程度にしか見てないんですから」


 実際、あの男は、オレの名前すら知らないかもしれない。


「そっか、話半分って思っていた方が良いかな?」

「先輩の話では『存外、素直』らしいぞ」

「あの人にかかれば、大半の人間は素直に該当すると思うよ」


 この場にいない兄貴は言われ放題だった。


 いや、この場にいても彼女たちは気にしないか。

 ある意味、根っからの王族……だからな。


「その男が、この『トラオメルベ』に来ていることは知ってる?」

「は? あの男が?」


 水尾さんが眉を顰める。


 オレは知っていた。

 少し前にアイツの妹からそう聞かされたから。


 だが、まだ会ってはいない。


「うん。突然、現れて『お前たち、()()()()()よ』って警告されたんだけど……」

「邪魔?」

「なんのことかさっぱりなんだよね~」


 真央さんは頬に手を当てて、溜息を吐いた。


 一応、面識がある水尾さん……と間違えた?

 いや、そんな迂闊な男か?


「高田に関することか?」

「それも分からない。本当に必要以上のことは言わなかったから」


 真央さんは首を捻っていた。


 それを聞いた水尾さんも首を傾げている。


 アイツの妹、ミラも今回ここにいるのは高田とは関係ないと言っていた。

 それならば、その目的はなんだ?


 そして、面識があったオレたちではなく、真央さんに忠告したのは何故だ?


「それじゃあ、もう一つ確認。いや、二つかな?」

「今度はなんだ?」


 真央さんの言葉に、水尾さんは怪訝な顔を見せる。


「その紅い髪の人と別に、この『トラオメルベ』にいる真っ赤な髪をした巡回警備の青年はご存じ?」


 その言葉で、オレは別の顔が浮かんだ。


 ある意味、今、一番、思い出したくないのはソイツの顔かもしれない。


「巡回警備? 髪色は知らんが、もしかして高田の知り合いのことか?」


 水尾さんとは面識がないようだが、心当たりはあるようだ。


「知り合いだろうね。一方的ではあったけど、抱き締められていたみたいだから」

「「なっ!?」」


 あの現場を、真央さんも見ていたのか?


「そっか。でも、()()()()()()()()のか」


 そして、呟くようなその言葉。


「覚えてない?」

「私、その青年を人間界で見たことがあるんだよ。だから、ミオも覚えてないかなって」

「……は?」


 水尾さんの漏らした言葉は、そのまま、オレの言葉だった。


 いや、確かにあの男も人間界にいたけど、それを小学校も中学校も違う真央さんが見ているとは一体?


「あ~? 記憶にないぞ」

「髪の色は違うけど、何度かソフトボールの試合を見に来ていたんだよ。だから、好きなんだろうなって思ってた。男子のソフトボール部って少ないからね。でも、あの様子だと、高田目当てだったみたいだね」


 またソフトボールかよ!?


 オレが知らない間、知らない場所で、そんな不思議なつながりがあったなんて思いもしなかった。


「ソフトボールって、マオはあまり来なかっただろ?」

「自分の方の部活があったから、毎回は無理だったね。でも、近隣中学の練習試合ぐらいは見たいじゃない? 魔界って人間界みたいな楽器もないけど、スポーツなんて存在もしていなかったから」

「楽器?」


 何故?

 ここで楽器?


 思わず口に出ていた。


 そして、その反応が、()()()()()と気付くまでに、後数分。


「ああ、マオは、人間界にいた時、吹奏楽部だったんだよ」


 ちょっと意外だった。


 双子だから同じ部活ってわけでもないのか。

 ないよな。


 同じ顔していても、別の人間だからな。


 オレの知っている双子が、たまたま同じ陸上部だっただけだ。


「生徒会で後半はほとんど練習できなかったけどね。でも、人間界の楽器っていろいろあって楽しかった~」


 満足げに微笑む真央さん。


「何の楽器担当だったんですか?」


 あまりにも楽しそうだったので、つい尋ねてみる。


 これが、全ての始まりだった。


「フルートって分かる?」

「ああ、確か()()……」


 確か、小学校で習う縦笛(リコーダー)と違って、銀色で横に吹く笛だったと記憶している。


 指で押さえる所が見えにくいから、音を鳴らすのが大変そうだよな。


 でも、オレはなんとなく、真央さんの担当は、打楽器のようなイメージがあったのだが違ったようだ。


「横……っ!?」


 だが、何故か真央さんは絶句する。


「楽器に興味がない男なんてこんなもんだって」


 水尾さんは苦笑しながら真央さんに慰めのような言葉をかけていた。


 楽器、楽器……?

 フルートって横笛じゃないのか?


「因みに、九十九は他に吹奏楽で使われる楽器って分かるか?」


 水尾さんが変な質問をしてきた。


 吹奏楽……?


「大太鼓」


 印象強いのはコレだな。


 腹に響くのが良い。


「大? ああ、バスドラムか。いきなり打楽器とは……。それ以外は?」

「シンバル」


 タイミング良く鳴らすとかっこいいよな。


「それは学校によるな。他には?」

「木琴」


 すげ~、早く叩いているヤツがいた。


「シロフォンのことかな? 他に知っているのは?」

「鉄琴」


 木琴とセットのイメージだよな。


「それならグロッケンかビブラフォ……、いや、ちょっと待て?」

「見事に打楽器ばかりだね」


 真央さんの微笑みが心なしか引き攣っている気がする。


「打楽器以外、ピアノ?」

「確かにピアノを使う学校(トコ)もあるけど、ピアノは弦楽器。もしくは、打弦楽器だね」

「九十九、吹奏楽なんだから、せめて()()()。吹く楽器を考えて差しあげろよ」


 かなり楽しそうな水尾さんの言葉から、どうやら、オレの示した楽器はあまり一般的ではないらしい。


「吹く楽器……? パイプオルガン?」

「オルガンのどこに吹く要素がある!?」


 ついに真央さんが叫んだ。


 あれ?

 パイプオルガンって、リコーダーみたいに風を送って音を出すんじゃなかったか?


 それに、鍵盤ハーモニカと言わなかっただけマシだろう。


「九十九が、楽器についてかなり無知なことは分かった」


 顔を真っ赤にしている真央さんと別の意味で、水尾さんが腹を抱えながら、顔を真っ赤にしていた。


「吹奏楽でも確かに打楽器はあるけど、一般的には金管楽器や木管楽器などが多いんだよ。具体的にはフルートやクラリネットとか……」


 クラリネットは確か、歌で聞いたことがある。


 結局、全部の音が出なくなる歌だったよな?


 意外なことに、真央さんは楽器に対してかなり熱い人だった。

 この辺りは水尾さんの双子だと納得できる。


 だが、人間界に行くまで、音を鳴らす道具の存在を知らなかったオレに、そこまで懇切丁寧に楽器のなんたるかを説明されても困るのだ。


 小学校の時に、リコーダーと鍵盤ハーモニカ、トライアングルとタンバリン以外の楽器を担当したことがない人間に、楽器の種類やその特徴について、詳細に説明をされても理解できるはずもないと気付いて欲しい。


 尚、中学校では指揮者しかしていない。


 リズム感はあるし、音痴でもないけれど、楽器の扱いだけが何故か()()()だと言われた人間だぞ?


 あんなに手と頭と口が同時に動かせるかよ。

 全く、興味が湧かないのだから。


 因みに、兄貴はある程度の楽器は一通りできるらしい。


 そんなオレたちの様子を見て……。


「好きなものは、人それぞれ……だよな」


 と、水尾さんは肩を竦めるのだった。


 そんなことより、片割れを止めてください、頼むから。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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