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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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気が付けば自然に……

 この状況は、一体どうしたことか?


 水尾さんの昏睡魔法により、高田は意識を失っている状態で自分が借りている部屋のベッドに寝かされていた。


 それは、良い。

 昏睡魔法で高田の意識を飛ばされたことはともかく、それ以降はごく普通の流れだ。


 だが、何故か寝台に横たわる高田のそのすぐ傍で、双子の王女殿下たちはのんびりとお茶をしているのだ。


 そして、給仕は勿論、オレである。


 この王女殿下たちが淹れることのできるお茶や、準備できる茶菓子など、そう多くないはないのだ。


 高田が寝ている傍で、酒盛りされるよりはマシだろうが、いきなり水尾さんが「どうせ時間があるなら、菓子を食いたい」と言い出したのは、真央さんも予想外だったのではないだろうか?


「九十九の焼き菓子を食うのは久し振りの気がするな」


 しみじみと水尾さんが言った。


「ミオと高田が羨ましい。これまでに人間界を思い出せるこんな焼き菓子を食べてきたなんて」


 真央さんも、頬に手を当てながらそう言った。


 今日のお茶は、茶葉はあっさりしていて癖がない柔らかな香りで色は紅褐色、人間界で言う紅茶のような色のものを準備した。


 産地はこのスカルウォーク大陸にあるメディオカルカ。

 品種改良が盛んな国なので、面白い食材が多く、何よりこの大陸内なら手に入りやすい。


 お茶のお供にはチーズスフレのようなものを準備した。

 チーズを使っていないので、残念ながらチーズスフレは名乗れない。


 いつものように似たような物……、どまりだ。


 この世界で、発酵食品はかなり難しい。


 味や香りが似ているまではなんとか作り出せるのだが、その過程のほとんどは発酵させていないのだ。


 そして、人間界の発酵食品の一つ、ヨーグルトは未だに似たようなものすら創れない。


 そう言った意味では、この世界で酒精が生み出されたのは奇跡としか言いようがないだろう。

 何かの執念を感じる。


「マオはその分、カルセオラリア城で良いモノ、食っていただろ?」


 水尾さんは、3つ目のチーズスフレのような菓子に手を伸ばす。


「カルセオラリア城の料理を知っている上で言ってる?」


 対する真央さんの皿の上には既にチーズスフレのような菓子はなかった。


 それぞれ、小さいとは言っても5つずつは置いたはずなのだが、どれだけ早食いなんだ?


 カルセオラリアの料理に関しては、真央さんがそう言いたくなるのも分かる。

 カルセオラリアは全体的に不味くはないが、どこか味気ないのだ。


 基本的には素材そのものに、状態変化を起こしにくいソースをかけるものが一般的な食べ方であるが、中にはバランス栄養食を食らっているだけのようなものや、穀物を栄養化の高い加工品にぶち込んでいるだけのようなものもある。


 下手をすれば、ただの丸薬にしか見えないものもあり、食を疎かにしすぎだろうと何度も叫びたかった。


 但し、その分、失敗も少ない。

 手順を守れば誰でも作れる……、と言う点が、カルセオラリアの料理の売りだった。


 それでも、失敗してしまうような人間は、大雑把すぎるか、人の話を聞かないか、少しばかり冒険心が強すぎるのだろう。


 オレがそう思った時、()()()()()()()()()()()()()()()()()のは、ただの偶然だと思いたい。


「九十九くん、これ、まだある?」


 さらに、空となった皿を指さす真央さん。


 どうやら、足りなかったらしい。


「ありますよ」


 それに対して、オレは笑顔で応えた。


 オレの女子……、いや、女性の基準は、基本的に「高田栞(しゅじん)」だ。


 だから、実際、世の中の女性がどれだけ甘味を所望するのかを知らない。


 高田は甘い菓子が大好きだが、一度に多くの量を胃袋に収められないらしい。

 確かに人間界にいた時も、若宮ほどは食っていなかった。


 だけど、この双子は男のオレよりも食う。

 それで、高田より痩せて見えるのだから、いろいろとおかしいだろう。


 水尾さんは「食う量が多いのは、魔力の消費の問題だ」と言っていたことがあるが、その理論では、高田の食う量がオレよりも少ない理由がおかしくなってしまう。


 単純にアリッサムの王族が食うだけなのか。

 それとも、王族とか出身とか関係なく、彼女たちが食うだけなのか?


 その答えはきっと分からないままなのだろう。


「同じものでは芸がないので、フルーツを載せますか? これにあう旬のものがあります。少し、時間はかかりますが……」


 この「ゆめの郷(トラオメルベ)」は、妙に新鮮な果実類が充実していたのだ。


 「ゆめの郷」と言う名の通り、「(ゆな)」よりも「(ゆめ)」の人数の方が圧倒的に多い以上、甘い物が多くなるのは必然だろう。


 果物に多く含まれる果糖は、料理の苦手な人間たちでも手軽に摂取できる貴重で稀少な糖分(甘い物)なのだ。


 だから、女性人口が多い場所では、必然的に、果実の売り上げが増えると兄貴も言っていた。


「あら。それも美味しそうだね。頼んでも良い?」

「九十九! 私にも!」


 オレの提案に、真央さんは微笑み、水尾さんが乗り出すように便乗した。


 貴女も、まだ食べる気でしたか。


「承知いたしました」


 そう言って、一礼して厨房に逃げ込んだ。


 本当は、こんなことをするより、意識を吹っ飛ばしている高田の傍にいたい。


 だが……、今は、それすら許されない。

 勿論、それは自業自得、因果応報だと分かっているのだけど。


 「自分が(What )した( goes)ことは(around)自分に( comes )返ってくる(around. )」ものなのだ。


 今のオレには、既に邪心も二心もないけれど、一度でもそれをこの胸に抱いてしまった以上、簡単に傍にいる許可が出るとも思っていない。


 それは、当人からだけではなく、周囲も許さないだろう。


 いや、本当に欠片も邪心が残っていないかと言われたら、少しはある。

 そこは仕方ない。


 オレだって、健康な男なんだ。


 好きな女が近くにいて、何も思わないはずもない。

 ……と言うか、思うぐらいは許して欲しい。


 だけど、彼女から離れて何かをしている間ぐらいは、高田のことから意識を逸らせるはずだと思っていた。


 だが、何をしていても、何を話していても、気が付けば、自然と高田のことを考えてしまうのだ。


 自分の思考回路に、あの女が住み着いているんじゃねえかと思ってしまうぐらいに。


 中坊の初恋かよ!?


 分かってるよ!

 こんなの18歳の思考じゃねえって。


 でも、本当に今までそんなことを全く意識してこなかったんだ。


 そのため、この部分においては、オレは確実に経験不足だと言う点も、悔しいが理解している。


 誰かの感情(自分の私情)なんて本当にどうでも良かったのだから。


 だが、一度でも自分の感情を自覚してしまった以上、この先は、それを心の底に押し込めるしかない。


 決して表に出てこないよう厳重に封印する。


 例え、高田がオレ以外の男に笑いかけても、別の誰かに抱き締められたとしても、オレは黙ってそれを受け入れ、見守るしかないのだ。


 どんな責め苦だよ。


 だが、それは仕方がないことだと分かっている。


 素性不明のオレたちが、護衛でいるための条件として、セントポーリア国王陛下から提示されたことだった。


 決して、護衛対象の母娘(おやこ)に恋愛感情を持たないこと。

 つまり、高田とその母親である千歳さんに対して、そんな感情を抱くなということだ。


 当時、5歳と3歳のガキどもに言うことではないが、その期間が十年以上の長期に亘れば、その約定が効果を出す。


 その際に、セントポーリア王は二種類の「絶対命令服従魔法」を施した。


 一つは、娘の「命令」には絶対に従うこと。


 その結果、高田の「命令」という言葉に対して、兄貴もオレも逆らえない。

 特に、オレは、無意識のまま従うようになっている。


 さらに、()()()()


 それは兄貴に対しての牽制だと思っていた。


 当時、分かりやすいほど千歳さんに親愛の情を向けていたから。

 弟のオレはそのついでだと思っていたのだ。


 だが、セントポーリア国王陛下の読みは正しかったと言えるだろう。


 そして、それに縛られ続ける限り、オレはこの気持ちをずっと奥底に封印し続けるしかないのだ。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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