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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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生きるために選ぶ道

 自分でも感情というモノの制御が容易ではないことは既に知っている。


 それが、異性に対してのモノなら尚のことだ。


 簡単に制御することできないから、人類は、気の遠くなるほど昔から生き長らえてきたのだから。


 自分自身でもどうにもならないその感情は、まるで、打算的な神々の導きのようにも思えて、どこか腹立たしく感じてしまうのだが。


「別に……、好きにすればいい」


 ミラからの素直な言葉に、オレはそう答えた。


「あら? 実は迷惑だって言われるかと思っていたわ」

「オレが迷惑だって言えば、お前はどうした?」

「別にどうもしないわ。そうねえ……、勝手に好きでい続けるだけかしら」


 そりゃそうか。

 相手から拒まれて、それで簡単に想いを失くすことができれば苦労はない。


 まるで、今の自分のようだ。


「それで? そんな会話をするために、オレの背後を取ったのか?」

「ええ、恋する乙女はどんな隙も逃したくないから。今なら、傷心中のツクモさまに迫るチャンスでしょ?」

「よく言うよ」


 オレは思わず苦笑した。


 そんな単純なことで、こいつらミラージュの人間は、他国のヤツに接触はしない。


 必要以上の情報を与えることはしない国だ。

 そのために、これまでずっと「謎の国」とされてきた。


 だから、現れる時は、必ず何か、明確な理由があるはずだ。

 兄貴とオレはそう結論付けていた。


 そして、遭遇した時は、できるだけ敵対せずに、会話をしろ、と。


「ここに来た目的は高田か? それとも、あの男か?」


 オレは断言した。


 あの二人を見張るなら、周囲の木に潜むのが一番周囲に気付かれにくい。


 当事者たちには気付かれたとしても、そこに人目があれば、互いに不自然な行動もとれないのだ。


 だから、ここで会ったと言うことは……、恐らくはそう言ったことだと思った。


「ツクモさまは疑い深いわねえ。貴方の姿を見つけたから、声を掛けたのは本当のことなのに」


 そこについては、嘘は言っていないだろう。

 だが、それはオレの問いかけに対する答えになっていない。


「それより、ツクモさま? ()()()調()()()()()()?」


 それどころか別のことを口にした。


 だが、それについて無視はできることでもない。


「……どういうことだ?」

「『ゆめ』に謀られたでしょう? なかなか仕事が取れない年嵩な『ゆめ』はそうすることで、常連をゲットしようとするから」

「謀られた?」


 なんとなく彼女が言いたいことに心当たりがある。


 だが、余計なことは言わず、敢えて、水を向けてみた。


「ええ。少なくとも、疑似的な発情期を起こさせる香りは使われたと思っているわ。普通は、軽い媚薬程度だけど、それぐらいでは呆れるほど自制心が強すぎるツクモさまをその気にはできないことは私も知っているから」

「オレの自制心はそんなに強くねえよ」


 強ければ、あんな阿呆なことはやらかしていない。


「だって、私、あの迷いの森で()()()()()()もの」

「……知らん間に、何をやってくれてんだよ?」


 しかも、俺は気付いていなかった。


「知られたら、もっと警戒されちゃうじゃない。だから、ツクモさまと二人きりで話している時に、ちょっぴりお試し感覚で使ってみたのだけど、全く効果がなくって」

「本当に知らん間になにやってくれてんだよ?」

「キスぐらいしかしてないけど?」

「あの時かよ!!」


 確かにふわりと甘い香りが漂った気がしたんだ。

 だけど、それは香水みたいなものだと思っていた。


 まさか、媚薬が混ざっているなんて思ってもいなかったのに。


「あの時なら二人きりだし、状況的に邪魔が入らないかな~っと思って」


 肩を竦めながら、小さく舌を出すミラ。


「長耳族の集落で、うっかりオレがその気になっていたらどうする気だったんだ!?」


 心が読めるヤツらには、全て伝わるだろ?


「どんな手を使っても、その気にさせたかった乙女心も分かっていただけるかしら?」

「そんなん分かるか!!」


 オレとしては、そう叫ぶしかない。


 怪我をした上に、油断していたとはいえ、かなり危険な橋を渡っていたらしい。

 あんな所でうっかり、この女に手を出していたら、どうしようもないじゃねえか。


「だって、次はいつ会えるか分からないじゃない。それなら例え、後で嫌われたって……という心理よ。あの『ゆめ』と同じね」


 そう言えば、ミラは「高田の分身体(ライズ)」と同じようなことを言っていたな。


 深織が、あの時、オレに対して……。


「いいえ、あの『ゆめ』の貴方へ執着は商売に関係なく、それ以上かもしれないわ。一度は手にした男だもの」

「一度は手にした?」

「人間界にいた時、付き合っていたのでしょう?」

「そうは言っても、人間界での付き合いなんて、そんな深くはねえぞ?」


 しかも、オレは振られた側だが?


「あら? ツクモさまはキスも挨拶ってタイプだったかしら? あの『ゆめ』が、そう言った意味でも初めてだったと記憶しているのだけど?」

「ぐっ!」


 確かにそうだが、あれはもっと一方的なものだった。


 オレが自分の意思でキスをしたのは、高田だけだ。

 尤も、アレはもっと一方的過ぎるものではあったのだが。


「それと、オレの体調と……、何の関係があるんだよ?」


 これ以上、追求されたくなくて、オレの方から話を戻した。


「相手をその気にさせる媚薬は珍しくないけど、強制的に発情させる薬って、普通じゃないのよ」

「媚薬も一般的じゃねえよ」


 欲情も発情も、男のオレからすれば似たようなものだ。

 程度の差はあるが、言葉遊びぐらいの違いでしかない。


 ミラから漂ってきたあの時の香りも、深織からの香りも、オレは覚えがなかった。


 だから、媚薬とは気付かなかったのだが、単純にオレがそっち方面の薬に対して知識がないだけかもしれない。


「ウチの国では一般的だから麻痺していたけど、確かにそうかもね」


 本当に、どんな国なんだ?


 改めて、目の前の女を見る。


「いろいろあるのよ」


 オレの視線の意味に気付いたのか……。

 ミラはどこか気まずそうに笑った。


「それより、強制的に発情させる薬の方なのだけど、その効果は『目の前にいる異性を孕ませたくなる』効果」

「そのまんまだな」

「そう? 快楽を得るための媚薬と違って、『発情』って、子供ができる確率を上げるために、量は増えるし、衰えないしから回数も増える。一言で表すと精力絶倫状態になるってことね」


 その言葉の意味を気にしたら負けだと思ってしまうのは、何故だろうか?


 でも、残念なことに、納得できてしまうこともある。


 あの時、オレが執拗なまでに()()のことを求め続けた理由も、それなら分かるのだ。


「もともと、『発情期』は子孫繁栄を願ったものだから、その辺りが強化されるのは分かるでしょう?」


 単純に男性ホルモンの分泌を促しているだけではないのだろう。


 それなら、思考に影響を与える理由には、いや、本能的な性衝動が強くなれば思考回路にも障害は生じるか。


「だけど、自然に訪れた『発情期』ではなく、『発情期』と身体に錯覚させるような薬ってかなり危ないの。詳しくは私も専門家ではないので、分からないけれど、突然死、人間界で言う心臓発作とかの可能性もあるらしくて」

「まあ、『ゆめ』にとっては、金さえ払ってくれるなら、客が後になってどうなろうと関係ないだろうからな」


 なるほど、異常なまでに早くなった動悸も、錯覚させるため、というより薬の作用だった可能性もあるのか。


 いや、その作用を利用して錯覚させているのかもしれない。


「……平気なの?」

「今の所、心臓発作になりそうな気配はないな」


 動悸が早くなってもそれ以上の症状はなかった。

 今のところは正常だと言える。


「そっちじゃなくて、その……、一時的にでも恋人だった人が、自分に害を与えるようなことをしていたって、それなりにショックでしょう?」


 そんなオレを気遣うようなミラの問いかけに対して……。


「別に」


 そう答えた。


「それだけ、アイツが商売人(プロ)ってことだろ?」


 寧ろ、恋だの愛だのと目に見えない感情論を語られるよりは分かりやすい。


稼ぐ(生きる)ために、使える物は何でも使うやり方は、オレは嫌いじゃない」


 その気持ちは十分すぎるぐらい理解できるから。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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