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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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夢に視た違和感

この52章の始まりに三話ほど追加しました。

そちらを読んでから、この話を読むよう、お勧めします。

申し訳ありません。

 目の前の女は、なかなか懐かしい名前を出してきた。


 確かにその名前なら知っているヤツだ。

 それに、人間界にいた頃から、魔界人であることもオレは知っていた。


 だから、ある意味意外な話でもないのだが、それでもここにいるのはあの紅い髪の男以上に不思議に思えた。


「来島が、ここにいるのか?」


 確認のために問い返す。


『うん。そして、彼は既に「高田栞」と接触済みだよ』

「はあっ!?」


 そんなとんでもないことを口にした。


 なんでそんな展開になっているんだ?

 それも、オレの知らないところで……。


『ツクモがミオリさんと仲良くしている間に』

「嘘つけ! その時なら既に高田は殻に閉じこもっているとかで……」

『違う、違う。「ソウ」……じゃない「来島くん」と「高田栞」が再会したのは、最初の時だよ。だから、え~っと、ツクモが「高田栞」に手を出しちゃう前?』

「…………」


 その飾り気のない直接的な言葉にオレは思わず閉口してしまう。


 そして、暗に責められている気もした。

 

 あの時、相手の感情や当事者の感情が分からなくても、自分の身体に何が起きたかは目の前にいる女も理解していることだろう。


 ……だとしたら、当事者の当たりはこれ以上のものだと思っていた方が良さそうだ。


『シオリが外でトラブルに巻き込まれちゃって、そこで、ヒーローのように颯爽と現れ、助けてくれたのが、その「来島くん」』

「なんだその三文芝居のような展開は?」


 その光景を想像して、思わず頭が痛くなる。


 ピンチを助けるヒーローって、仕組まれてないか?


『割とツクモも似たようなことをしている気がするのだけど』

「オレは護衛だから助けるのが仕事なんだよ」

『護衛の本分はピンチから救うことより、ピンチに陥らないように予め手を打って護ることにあるのでは?』

「ぐっ!!」


 なかなか痛い所を突かれ、思わず胸を押さえる。


 前々から、自分でも実際に事が起こってから慌てて動き始めるのは護衛ではないと思ってはいたのだ。


 だが、あの「高田栞」が簡単に護らせてくれるはずもないよな?


『それに、彼はこの「ゆめの郷」で巡回警備員をしているから、別におかしなことでもないでしょう? どちらかと言えば、こんな場所だと言うのに、危機感が全くない「高田栞」の方が問題だと思うよ』

「それは同感だが、当事者が言うなよ」


 確かに意識は違うかもしれないけど、ある意味、「高田栞」が本体だよな?


 しかし、巡回警備員?


 あの男が?

 誰かを護るなんて、そんなタマか?


『ああ、でも、気になる魔気の気配があれば動いてしまうのが王族だから、あれは仕方ないかな』

「あ?」


 なんか気になることを言われた気がする。


『王族は、その役割上、大気魔気の乱れにも体内魔気の乱れにも敏感だからね。異常を察知すれば、深く考えずに動いちゃうんだよね。古来より王族をおびき寄せるには、その場で軽く魔気を乱せば良いと言われており……』

「なんで、そんな話を……いや、『ライズ』は知っているんだ?」


 長くなりそうな気配だったので、思わず彼女の言葉を遮ってしまった。


 その際、なんとなくいつもの高田に対して言うように、彼女のことを「お前」と呼びかけて、言い直す。


 そんなオレを見て満足そうに彼女は微笑んだ。


 そうだよな。

 自分だけの名前って本来、特別なものだよな。


『ワタシは「シオリ」と「高田栞」の「身体の記憶」。それは、五感で感じたものだけではなく、「夢視(ゆめみ)」も含んでいる』

「『夢視』も?」


 オレが覚えている限り、「シオリ」は「過去視(かこし)」だった。


 つまり、彼女たちが視続けた「過去視(過去に起きた出来事)」の内容も覚えているということか。


『「シオリ」や『高田栞』が記憶から消していることでも、困ったことにワタシはしっかり記憶している。だから、ワタシは彼女たち以上にいろいろなことを知っていると思うよ。例えば、「発情期」のこととかね』


 微笑みながらさらりと言う彼女の言葉に、オレの背中が凍ったような気がした。


『ああ、別にワタシはツクモを責めているわけではないよ。寧ろ、『ゆめ』から()()()()()()()()()()()()、辛かったと思う』

「は?」


 だが、彼女はかなりとんでもないことを言った。


『あれ? やっぱり気付いていなかった?』


 オレの反応を見て、彼女は苦笑する。


『「ゆめ」は仕事だからね。失敗しないように、「ゆめの郷」を利用したことがない相手には直前で思い留まらないように発情効果のある香水を使うんだよ。「ゆめの郷」の利用経験がある人に対しては、使わないらしいけどね』

「な、なんでそんなことを?」


 思わず声が上ずった。


 もし、彼女が言っていることに嘘がないのなら、あの時の異様な渇望(よく)は……、作られたものとなる。


『ワタシが知っているのか? ……って話?』


 恐らくは、「ゆめの郷」にとって、秘することだろう。


 それなのに、それを初めて来た彼女が知っているとはどうしても思えなかった。


『根拠というには乏しいかもしれないけど、「過去視」ってさ。「高田栞」に関係がないことの方が多いんだよ。この身体、魔力だけはかなりあるからだろうね。だから、どこの誰かは分からないけど、過去を夢に視ちゃった』

「そうか……」


 普通なら、そんなものは何の理由付けにもならない。


 だけど、魔界人は「夢視」で視た夢と、普通に見た夢の区別は不思議と付くようになっている。


 それだけはっきり分かりやすく違うのだ。

 「夢視」の夢と、普通の夢では……。


 それを思えば、オレが数年前に視たあの夢は、「高田栞」と「深織」のことをそれぞれ夢に視たってことだろう。


 あれは確か、ジギタリスからストレリチアへ向かう途中の船の中だったと思う。


 クレスノダール王子が召喚した紅い髪の精霊から祝福を享けたことが、なかったことにしたかった。


 その時に、水の耐性の上昇と、「夢視」がパワーアップするとか言われていた。


 聞き流してしまうような効果。

 だが、その直後に視た(未来)は、今にして思えば、今回の状況と一致する。


 涙目で制止の声を出そうとする高田を、力尽くで押さえつけ、その口を何度も塞いだことも。


 実際はよく覚えていないけれど、「高田の姿をした誰か」に対して、無遠慮に踏み込んだことも。


 二度寝したから、途切れて続きを視てしまったのだとあの時は思った。

 だから、違和感があったのだとも。


 だが、実際は違った。

 それぞれ別の場面だったのだ。


 いや、それが分かったからと言って、何の救いにもなってないのだが。


『信じる、信じないはご自由に。ただ、自然発症でも人為的でも「発情」した状態で、異性を前にして踏み留まった人間って、これまでワタシが視た夢の中には一人もいなかったよ』


 そんな言葉は何の慰めにもならない。


 オレが一時の欲望に流され、高田に手を出したと言う事実は、生涯、消えることはないのだから。


「夢は、自分の意思では視ないよな?」

『好き好んで他人の悪事も凶事も情事も見たいものではないかな』


 その言葉で、これまで相当のモノを見せられてきたことが分かる。


 彼女はそこに込められた感情は理解できないと言っていたが、映像としては理解できてしまうはずだ。


 音声と映像のある映画やテレビだって、絵と文字だけの漫画だって、文字情報しかない小説だって、そこに感情移入してしまうことはよくある話である。


 そして、これまでの言動を見た限り、そこにある感情を理解は出来なくても、彼女自身に感情がないとは思えなかった。


 オレは彼女を見る。


 その視線に気付いたのか……。


『何?』


 不思議そうな顔でそう問い返した。


 彼女はオレを慰めようとしてくれた。

 責められても仕方がないオレのことを。

 

 だから、オレも彼女に向かって手を伸ばし……。


「オレたちが知らないところで、色々、辛かったな」


 その頭を撫でたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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