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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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自分の意思で制御できない

「マジか~」


 目の前にいる赤髪の青年は片手で目を押さえた。


 赤く短いクセがある髪、深い紫色の瞳。


 それだけ聞くとミラージュのライトのようだが、彼はもっと全体的に明るい色合いで、目の前の青年とはちょっと違う。


 ライトは紅く、黒いメッシュの入った長い髪。

 そして、青色にも見えるような薄い紫の瞳だ。


 そう言えば、もう長い間、彼に会ってないことを今頃になって思い出す。

 彼はどうしているだろうか?


「いや、それはこっちの台詞でもあるから」


 相手の反応があったから確信できたけど、外見だけでは間違いないと断定できなかったことだろう。


 魔界人は人間界で会った人のそっくりさんもいるのだ。


 だけど、この反応から間違いない。

 彼は、わたしが人間界で出会った「来島(くるしま) (はじめ)」と名乗っていた男だ。


「え? 何? 高田はいつから魔界人?」


 髪の色と口調は変わらないのに、瞳の色と、前よりちょっとだけ低くなっているその声に、少しの違和感はある。


 でも、やはり当人らしい。

 九十九と違って極端ではないけれど、目線の高さも変わっている気がした。


「三年ぐらい前から……かな?」


 魔力の封印を解放された時からなら、二年半くらいか?


「いや、そこは普通、生まれた時から……じゃないのか?」

「そうなのだろうけど、わたし、幼い頃の記憶がないから」

「は?」


 来島が目を丸くする。


「い、いや、お前、何、言ってんの?」

「なんか昔、自分で記憶と魔力を完全に封印しちゃったらしいよ」

「は?」


 再度、目を丸くされた。


 そんなに不思議なこと……だよね。


 水尾先輩も信じられないと言っていたし。


「その頃を覚えていないからよく分からないけれど、そうしないと、わたしは人間界に行けなかった、のかな?」

「ちょっと待て。いろいろ待て」


 何故か片手を前に突き出して、ストップのポーズをする来島。

 そして、自身の口元を押さえている。


「あ~? なんだ? 高田は魔界人。それは間違いなし?」

「間違いないらしいね」

「『らしい』……って」


 来島は呆れたようにそう言った。


 でも、魔法が少しはマシになった今ならともかく、三年ほど前ではその自覚すら薄かったことだろう。


「それで、記憶と魔力の封印? あ~、確かに人間界にいた時は不自然なほど魔力を感じなかったな。でも、風だよな?」

「風だね」


 寧ろ、風でしかない。


 確かに他属性も使えるはずだけど、現時点でのわたしの魔法は、風属性に特化している。


「記憶の方は結構、長い間、封印されていたみたいなので、いろいろと混乱しないようにそのままの状態。魔力だけ封印を解呪してもらった」

「あ~、それで、いろいろと違和感があるのか」


 説明した時、ワカもそんなこと言っていたし、真央先輩も言っていた。


「ところで、来島はどうしてここに?」

「見て分かんねえ?」

「分からない」


 さっきの様子から、彼はこの「ゆめの郷」の関係者だとは思う。

 先ほど「本部」とか言っていたし。


「仕事だよ、仕事。俺は、ここで働いてんの」

「つまりは忘八?」


 遊郭で働く人たちってことかな?


 確か、遊郭と言う特殊な界隈で働く人は、仏教だか儒教だか忘れたけど、「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」を捨て去る必要があったとかが由来だったと記憶している。


「なんで俺が八つの徳目を忘れた人間だと思っているんだ? 管理じゃなくて、お前、警備だよ、警備」

「警備?」

「お前みたいに危機感が足りない呑気なお嬢ちゃんが絡まれた時に、さっきみたいに割って入るのが主なお仕事」


 その説明をされてわたしはようやく思い出す。


「来島!」

「な、なんだよ。『お嬢ちゃん』が気に食わなかったか?」


 何故か、彼は慌てだした。


「さっきはありがとう」

「は?」


 来島の目が点になる。


 わたしは、彼に助けられたと言うのに、懐かしさが先にたって、お礼も言ってなかったのだ。


 本当に助かった。

 彼が助けてくれなければ、本当に大変なことになっていたはずだから。


「おかげでうっかり()っちゃわずに済んだよ」

「はあ!?」


 来島が素っ頓狂な声を上げる。


「いや、かなり我慢していたけど、そろそろ限界でね。こんな街中で結界も張れない人間が魔法をぶちかますなんてとんでもない騒ぎになるところだった」


 わたしの最大の弱点は魔法の種類が少ないことより、自分の意思で魔法の制御ができないことだとセントポーリア国王陛下に言われたのだ。


 ただ、セントポーリア国王陛下も二十歳を過ぎるまではそんな感じだったそうなので、もしかしたら、遺伝もあるかもしれない。


 いや、セントポーリア国王陛下には遺伝とか、そんなことを言っていませんよ?


「わたし、記憶が封印されているせいか、魔法の制御ができないらしくって……」


 そして、そんなことをしてしまえば、九十九は絶対、気付いてしまうだろう。


 誰よりも、わたしの魔気の変化に過敏な人間だから。


「なんと言うか。いろいろ、難儀だな、お前」

「ほんとにね」


 わたしは笑うしかなかった。


「だけど、お前が未熟なおかげで俺も発見できたわけだ」

「どういうこと?」


 そして、さらりと本当のことだけど酷いことを言われた気がする。


「近くを巡回していたら、この周囲の大気魔気に大きな乱れがあった。それで、誰か、いや、お前が被害に遭っていることに気付くことができたからな。魔法制御、魔力の制御が苦手だったのは幸いだったかもしれない」

「体内魔気じゃなくて?」


 普通、感情で乱れるのは自分の身体にある体内魔気だ。


 大気魔気が乱れるなんて、大きな魔法を使う時ぐらいじゃないかな?


「その様子だと、体内魔気は完璧に抑え込まれているだろ? 魔力制御の装飾品をそれだけジャラジャラ付けているのは貴族でも珍しい」


 確かに装飾品はいろいろ付けいているけど、目立たないモノばかりだ。


 下手に目立って、周囲の人たちから、身分が高いと勘違いされると、それはそれで面倒だから。


「この装飾品たちを魔力制御のためって気付く人間も珍しいよ」

「俺は鼻が利くんだよ」

「見事な鼻だね」


 大気魔気も体内魔気も匂いに似ている。


 彼が言う「鼻が利く」というのは、そう言った意味なのだろう。


「ところで、さっきの人は……?」


 落ち着いて、周りを見ると、地面には、赤黒い染みが広がっていた。

 そのものは消えているけど、地面に染み込んだものは消しきっていない。


 恐らくは体内から出た色。

 つまり、血の跡だろう。


 これだけの出血で、相手は生きているのだろうか?


 そして、凶器はなんだろうか?


 来島は何も持っていないように見えるけど、セントポーリア国王陛下や九十九のように、剣を召喚したのだろうか?


 決定的な部分は、マントを被せられたために見ることは避けられたが、それでも声や音、匂いについては隠しようもなかった。


「あいつは本部送り。後で説明に行く」


 さらりと来島は何でもないようにそう言う。


「こ、殺したとか?」

「いちいち殺してねえよ。『ゆめの郷』内とは言っても、後処理がめんどくせえ。まあ、ちょっとだけ痛い思いはさせたけどな」


 さらりととんでもないことを言う来島。


 彼はやっぱり魔界人なんだと分かる。


「い、痛い思い?」

「この『ゆめの郷』で、『ゆめ』以外の一般人を騙したり、無理強いしたりするのは犯罪なのだよ。分かるかい? お嬢ちゃん」

「分かるけど、お嬢ちゃんは止めて」


 なんとなく銀髪の関西弁な王子様や、金髪の事情通な王様を思い出す。


「そんな輩に罰を与えるのが、俺たち警備のお仕事。だから、『酷い』とか『人でなし』とか言うなよ?」

「言わない。助けられたのだし」


 魔界の倫理は人間界のものとは違う。

 それぐらいは分かっている。


 それに、彼はそれでも被害者(わたし)に凄惨な場面は見せまいと気遣ってくれたのだ。


 その時点では、まだ、昔の知り合いだって分からなかったと言うのに。


「それは結構」


 そう言いながら、来島は不敵に笑った。


「でも、ちょっとだけ、余裕がなくなっていたことは認める」

「へ? そうなの?」


 あっさりと対応したと思ったのに。


「あのおっさんの被害に遭いかけていたのが、黒髪でちっこい女だって気付いたから」

「来島って、ちっちゃい子が好きだったっけ?」


 わたしがそう言うと、来島は首を振りながら、わざとらしく大きな溜息を吐いた。


「そうだった。こ~ゆ~女だった」


 どういう意味かな?


「お前は、回りくどいことを言っても通じない女だったな」


 そう言って、来島はわたしの手を引き……。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 力強く抱き締められたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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