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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ ゆめの郷編 ~

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【第50章― ゆめの郷 ―】ごく普通の街並

この話から第50章です。

よろしくお願いいたします。

 その場所は本当にごく普通の街に見えた。


 立ち並ぶ均一化された大きな建物。

 目の前の大通りにある建物には店も入っているようだ。


 でも、表通りに食べ物を扱うよりも、装飾品とか衣類とかの店の方が多いのはちょっと珍しい気がする。


 昼間なのに人通りはやや少ない。

 まあ、賑わっていても複雑な気分になるだろうけど。


 ここは乗物国家ティアレラ国内にある「トラオメルベ」。


 地図で見る限りは、ごく普通の街である。


 他大陸から来た商人たちも、その内情も知らずに立ち寄ることが多いぐらいごく自然の街だと聞く。


 ただ、中身を知った後は、目的が変わってしまうらしいけど。


 ガイドブックには「様々な人たちが美味しいお酒と目覚ましいほどの夢を求めて集まる街」とある。


 まあ、間違っていない。


 この街を一言で言えば「ゆめの郷」。

 魔界人にはこれだけで通じてしまう。


 人間界の言葉で分かりやすく言うなら、「夜の町」。


 綺麗なおね~さんやおに~さんが、初心者から上級者まで幅広く、そして優しくお相手をしてくれるそうな。


 何の相手か突っ込んではいけない。


「思ったより……、普通?」


 水尾先輩がその様相を見るなりポツリと漏らした。


「私たちの国にあったのはもっと分かりやすくいかがわしいからね」


 なんでそんなことを知っているのでしょうか? 真央先輩。


 そんなわたしの視線に気づいたのか、真央先輩は笑いながら……。


「私たちは、立場的に国の全容を知らないといけなかったんだよ、高田」


 と、そう言った。


 それは分かる。

 それでも、当時18歳未満の少女が立ち寄って良い場所ではないと思うのです。


 しかも、分かりやすく「いかがわしい」って言うなら尚のことでしょう?


「かの国は結界に包まれていたからな。隠しようもなかっただろう」


 雄也先……、雄也さんがそう言った。


「だからって開き直って、酒場に裸の写真をベタベタ貼るのはどうかと思うけどな。男の裸なんて見ながら酒が飲めるか」


 いろいろ突っ込みたくなる台詞をありがとう、水尾先輩。


「でも、その地域の営業は夜限定だったはずだけど……、なんでミオはそこまで知っているの?」


 火の大陸出身者から何故か冷気を感じます。

 水尾先輩もちょっと焦った顔をしているし。


 だけど……、それを知っている真央先輩もどうかと思うのですよ?

 誰も突っ込まないけど。


『俺はそろそろ銀環(サークレット)を付けるぞ。頭が痛くなってきた』


 そう言って、褐色肌の長耳族の少年は銀色の輪を取り出して、額に付けた。

 何でも、恭哉兄ちゃんから、精霊族の力を封印してしまう法具を頂いたらしい。


 なんで、そんな物をお持ちだったのでしょうか?


 でも、その結果、リヒトはわたしたちとの会話が難しくなる。


 種族の違う相手に言葉を伝えるのは精霊族の能力の一つらしいから。


「まさか、『長耳族』……とはな」


 トルクスタン王子は溜息を吐いた。


『Ich kann deine Wörter verstehen.(貴方の言葉は理解できます)』

「それなら、良かった」


 リヒトの言葉に笑いながら答えるトルクスタン王子。

 それを見て、どこかほっとした様子のリヒト。


 どうやら、会話ができそうで良かった。


 トルクスタン王子と真央先輩が同行することになって、リヒトの出自と、心が読めることを伝えた。


 長い時間一緒に生活することになるし、ここに来ることになった以上、どうしたって誤魔化すことはできないと判断したからだ。


 因みに、水尾先輩はリヒトが心を読めることはなんとなく気付いていたそうだ。


 前に出会った「水鏡族(すいきょうぞく)」も心を読めたし、「長耳族」自体が、わたしたちの心を読んでいた。


 それと、リヒトの言動で判断したらしい。


 真央先輩は驚いたようだけど、水尾先輩のように精霊という存在に憧れがあったようで、「本物の『精霊族』!? 」と意外にも、かなりテンションが高かった。


 水尾先輩のように、先に出会ったのがあの「水鏡族(セドルさま)」でなかったことは、彼女にとって幸運だったのかもしれない。


 トルクスタン王子は、「迷いの森」の「長耳族」そのものの存在を知っていた。


 何でも、カルセオラリア、エラティオール、バッカリスの王族はそのために国境をまたいでいる「迷いの森」に対して不可侵協定を結んでいるそうだ。


 その昔、「長耳族」は、どの大陸にも当たり前のように存在していた。


 だが、今は世界でも探すことが難しくなったのだという。

 純血に限定すれば、もう数える程度らしい。


 だが、彼らの独自の技術、文化を失わせてはならないと、スカルウォーク大陸では保護することに決めたそうだ。


 その結果……、まあ、あの森にうっかり入り込んだ人間は、「長耳族」の好きにして良いとなったらしい。


 そして、その結果、出来上がったのが自然結界……ではなく、長耳族たちの秘術による結界に包まれた森……だそうだ。


 もしかしたら、セントポーリアの城下にある森も、実は、そんな謂れがあったのかもしれない。


 「長耳族」ではなくても、そこにいた精霊がいなくなって、結界だけが残った……とか?


 さて、先ほどから何も言わない人間がわたし以外にもいらっしゃいます。


 ここを目的地としたはずの人物、九十九は一切、話さなかった。

 ……と言うか、雰囲気がどこか刺々しくて、話しかけることもできない。


 緊張しているというより……、単純に苛立っているような?


「それで、どこが良い?」


 トルクスタン王子が九十九に向き直った。


 九十九は一瞬、言葉に詰まったような顔をして……。


「オレはよく分からないので、お任せします」


 戸惑いながらそう答えた。


 確かにここでノリノリに先頭を歩かれても困る。


「そうか……。じゃあ、俺のオススメの所にするか」


 そして、ノリノリで進もうとする機械国家の王子殿下。


「「オススメ?」」


 あ……。

 火属性大陸出身者から何故か紅い冷気と蒼い冷気が漂ってくる気がする。


 あ、あれ?


 彼女たちの纏う魔気って……熱い炎でしたよね?

 こんなにひんやりするような冷気……ではなかったよね?


「その前に宿を決めろ。気が逸りすぎだ」

「おお」


 雄也さんの言葉でトルクスタン王子の足が別方向に向く。


「宿はこの街の特性上、個室タイプしかない。リヒトはどうする?」

「俺の所で。こんな所で一人にさせたくはない。お前の所は……邪魔だろ?」


 邪魔?


「いや、その辺、俺は気にしないけど。お前の方は大丈夫?」

「気にしろ。リヒトも困る。それに……、俺は買う予定はない」

「そうか? せっかく来たのに、勿体ないな」

「金は自分で出せよ」

「当然だろ」


 ……何の会話でしょうか?


 そして、明らかに先ほどより不機嫌な冷気(オーラ)を醸し出している方々がいますよ?


「マオとミオは買うか?」

「買うか!」

「買わん!」


 トルクスタン王子の無遠慮な問いかけに、真央先輩と水尾先輩は同時に答えた。


 買うとか買わないとか……、よく考えなくても、そう言うことだよね?

 その……、「敵娼(あいかた)」とか言うヤツ。


 改めて、ここがそう言うところだと理解する。


 呼び込みみたいなものは見られないけれど、今は、昼間だ。

 夜になると、別の顔を見せる街なのだろう。


 なんとなく九十九を見る。

 本当に彼は口をへの字にしたままだった。


「なんだよ?」

「なんでもないよ」


 今の彼にどう声を掛けて良いか分からない。


 こう胸の奥がモヤモヤしているのに、それがはっきりと形にならない感じ。

 なんだか酷く、気持ちが悪い。


 だけど、今は我慢だ。

 落ち着く場所を見つけたら思う存分、転がるのだ!


「顔色悪いぞ」


 何故、それを今、あなたが口にするのか?


「疲れだと思うよ」


 実は、そこまで疲れてはいない。


 今回、カルセオラリアからここに来るのに一時間と掛かっていないのだ。


 トルクスタン王子は結界魔法だけではなく、移動魔法も得意らしい。


 これぐらいの人数なら、スカルウォーク大陸内に限れば、国境から国境へ飛ぶことはできるそうだ。


 そして、例によって国境を越える時には眠らされました。

 念のために、転移酔いを起こすリヒトも一緒に。


 だから、そこまで疲れてはいないのだけど……、どうもこう、気分が……、よろしくない。


「無理するなよ。後で、ちゃんと休んでおけ」

「うん」


 分かっている。

 こんなの寝ているうちに治まるはずだから。


 だけど、そんなわたしの気分はより一層悪くなることになる。


「―――― 九十九?」


 そんな見知らぬ女性の言葉で。

例によって、言語については突っ込まないでくださるとありがたいです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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