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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 主従関係変化編 ~

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いつまでも変わらずにいたい

「珍しいね、雄也さんじゃなくて、九十九がわたしに目的地を説明してくれるのって」


 高田が目を覚ました後、今後の説明をするために、オレは一人で彼女の部屋を訪れた。


 こればかりは、オレから直接、伝えなければいけないと思ったのだ。


 それを告げた時、トルクスタン王子や兄貴がどこか沈痛な面持ちだった気がするのは気のせいだろう。


 だが、これはオレの問題だ。


「オレの私用にお前を付き合わせることになるからな」

「私用?」


 高田はきょとんとした顔で、オレにその黒い瞳を向ける。


 今から、オレが何を話すかも気付いていないのだろう。

 だから、直球で勝負することにした。


「オレが少し前に『発情期』になったことは知っているな」

「う、うん」


 戸惑いながら彼女は返事ををした。


「だけど、治ったわけではない。一時的に治まっただけだ」


 彼女の反応から、意味はある程度、伝わったと思って言葉を続ける。


「その状況を解消させる手も分かるよな?」

「う?」


 彼女はその瞳を丸くした。


 今の言葉をどう受け取ってくれただろうか?


「九十九は、好きな人ができたんだね」

「は?」


 だが、出てきた言葉は明後日の方向のものだった。

 頭が痛くなってくる。


 だから、オレは苛立ちをぶつけるように……。


「そんなもんがいないから、『ゆめの郷』を利用するしかないんだが?」


 少し厭味ったらしくそう口にした。


「はへ?」


 一瞬、呆けた顔を見せて……。


「ゆめの郷……」


 高田はどこか神妙な顔でそう呟いた。


「悪いが、立ち寄らせてくれ」


 その言葉にどれだけの精神力が必要だったことだろうか。


「わたしの、せい?」


 だけど、彼女は俯いてこう言った。


「は?」

「わたしが、九十九を縛っているから?」

「縛……?」


 高田に縛られた覚えなんかない。


 兄貴からなら山ほどあるが。


「いや、特定の相手がいないのは、わたしのせいかな~って」


 その言葉はかなり腹が立った。


「喧嘩売ってんのか?」


 思わずそんな言葉をぶつけていた。


「単にオレがモテねえだけだよ! だから、お前には一切! 合切! 関係ねえ!!」


 本当に、これっぽっちも関係ない!


「九十九がモテない? 九十九はモテるでしょう?」

「はあ!?」


 さらに喧嘩を売られた気分だった。


「わたし、小学校時代、あなたのことが好きって言っていた子から嫌がらせをされたことがあるよ。あなたに近付くなって」


 だけど、高田からこう続けられ、苛立ちの方向性が変わってしまった。


「なんだと?」


 そんな話、聞いたことはない。


 大体、オレに向かって「好き」と言う言葉を使ったのは、中学時代に付き合ったヤツと、一応、目の前の女……ぐらいだ。


 まあ、あれをカウントしても良いものか迷うが。


 ストレリチアやアリッサムの王女殿下たちの言葉は始めから信じていない。

 前者は揶揄い目的、後者はメシ目的と分かりやすすぎるから。


 だが、嫌がらせだと?

 オレの知らないところで何されてたんだ?


「言っておくけど、小学校の頃だからね」


 彼女は慌ててもう一度そう言った。


「何された?」

「小学生のすることだから可愛いもんだよ。女子トイレに二人掛かりでドアを押さえつけられたので……、跳ね飛ばした」

「跳ね?」


 今、不思議な単語が聞こえた気がしたが?


「開かないように両手で押さえるだけの子たちより、全身で体当たって押し返す方が強いに決まっているよね?」


 けろりと笑いながら言うが、結構、とんでもないことをされていた。

 だが、彼女にとっては本当に些細なものだっただろう。


 二人掛かりで閉じ込めるとか、性格の悪い女もいたもんだな。

 気が弱い女なら泣き出してもおかしくはない。


 だが、それでも堪えてないどころか魔法も使えない時期に、自分の力技のみで押しのけている辺り、この女も普通じゃないとは思う。


「お前、どうしてその時に言わないんだよ?」

「今ほど、親しくもなかったでしょう?」


 確かにそうだが……。


 それでもその問題に無関係じゃない以上、やりようはあるのに。


「それなのに……『笹ヶ谷くんに近付かないで! 』って不思議だよね?」


 もしかしなくても、それ、兄貴のことじゃねえのか?


 オレも兄貴もそこまで彼女にあからさまに近付いてはいないはずだが、常に彼女を気にしてはいた。


 だから、それを嗅ぎ取られた可能性はあるのか。


「そんなの、モテたうちに入らねえよ。ガキの頃……だろ?」


 そう言うしかない。


 他の魔界人たちに警戒されていた可能性もあるが、真実は今となっては分からないままだ。


「小学生でも、『モテた』は『モテた』で良いと思うよ」


 困ったように彼女はそう言って笑った。


 阿呆。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。


 オレが今、誰よりも欲しいのは……。


「まあ、そんな過去の話は置いておいて、今の話をしようか」


 オレの危険な思考を中断するかのように、高田は話を戻した。


「その『ゆめの郷』は、九十九だけで行くわけじゃないのね。でも、女連れで大丈夫なの?」


 そこは気になるだろうな。


「そこは女も利用できる場所はあるからな」

「女も!?」


 高田の声が思わず大きくなる。


 これ、絶対、誤解しているだろ?


「人間界にもホストクラブとかあるだろ?」

「ほ、ホスト? 高級なお酒を提供する場だっけ?」

「その認識はある意味、あってるけど……」


 何か違う気がするのはオレだけか?


 高級な酒だけを目当てにホストクラブへ行く女っているのか?


 まあ、どこかのアリッサムの王女殿下なら、「()より(団子)」になりそうな気はするが。


「なるほど酒好きな魔界人らしい施設だね。でも、わたし、お酒飲めないし……」

「誰がそこを利用させるって言った?」


 寧ろ、絶対、利用させないことで、男性陣の意見は一致している。


「お前たちは、別の宿泊施設で待機! 絶対に外に出るなよ!」

「なんだ利用できないのか」


 残念そうに呟く彼女。


「利用したかったのか?」

「後学のために少々?」


 その顔で気付く。


 いつもの好奇心旺盛な顔になっている。

 これは……。


「絵かよ」

「絵だよ。それ以外に理由はない」

「お前……」


 人の気も知らないで。


 一度くらい、痛い目に遭えば……、遭わせたくねえな。

 どうしろって言うんだ?


「どうしたの?」

「いや、オレなりにいろいろ悩んだのが阿呆みたいだなと思った」

「悩んだの?」

「普通は悩むと思うぞ」

「治療の一環でしょう?」

「そうだけど」


 そっちについての悩みは寧ろ、吹き飛んだ。


「それなら、仕方ないじゃない。わたしにはどうすることもできないのだから」


 いや、どうにかする方法はあるのだ。

 だけど、それを選ぶ気も、選ばせる気もない。


 ()()()()()()()()()のだから。


「そうだな」


 だから、彼女が「どうすることもできない」と言ってくれたことは酷くホッとしたし、少しだけ残念でもあった。


「どうした?」


 彼女の視線が少し、下に移った気がする。


「手……」


 どこかぼんやりとした言葉。


「え……?」

「触らせて」

「あ? ああ」


 また絵の資料か?

 そう思って、何気なく右手を差し出した。


 高田はそれを掴んで……、何故か、両手で揉みだしたのだ。


「お、おい?」


 なんだ?

 この行動。


 資料にしてはおかしくねえか?


 いや、こいつの行動を深く考えても痛い目を見るのはオレだけなんだが。


 さらにその手を柔らかい頬に当てられた。

 思わずビクリとなる。


 たったこれだけの行動で、なんでこんなに過敏な反応をしてしまうんだ?


「どうした?」


 オレは自分の動揺を誤魔化そうと、高田に話しかける。


「ん?」


 どこかぼんやりとした声で、高田は顔も上げずに呟いた。


「この手を知る人間が増えてしまうのが、少し、淋しいだけ……、かな」

「?」


 意味が分からない。


「誰が知っても、この手は既にお前に捧げた物だ。好きに使え」


 オレがそう言うと、高田がビクリと身体を震わせた。


「九十九の……」


 そして、俯いたまま彼女はポツリと何かを呟いた。


「あぁ?」


 思わず聞き返したが……。


「ごめん、何でもないよ」


 そう言って、顔を上げた高田は……、いつもの笑顔だった。



 もし、この時、問い質していれば何かが変わっただろうか?


 だけど、オレも恐らく高田自身も、もう少しだけ夢を見ていたかったのだろう。


 いつまでも変わらずに傍にいたいと願う子供のような甘い夢を。

この話で、49章は終わります。

次話から第50章「ゆめの郷」。


ここまでお読みいただきありがとうございました。

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