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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~

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温泉旅行での告白

「可能性?」

「俺は、お前のことが好きだってことは嘘じゃない」


 来島がそんな真面目な顔して言ったから、わたしもちゃんと応えよう。


 それが彼に対する礼儀だと思うから。


「男女交際とかそういった話なら、無理」

「即答だな。少しは考えろよ。そして、少しぐらいは期待を持たせてくれよ」


 彼はそう言って笑うが、わたしは下手に期待を持たせる気はなかった。


「二股宣言の時点で、わたしには無理」

「ぐ! そっちか」


 思いの外(ほか)、ダメージが大きかったようだが、これは当然のことだろう。


 そりゃ、わたしも、格好いい人を見たら目を奪われる。

 実際、周囲には気になりそうな人もいるし。


 でも、恋愛につながるかと言えば別だ。


 目を奪われるような見た目の良い異性というものは、言葉は悪いが、ワカが言う「観賞用」みたいなものだから。


「言わなかったら違ったか?」

「しっかり理由を含めて聞いちゃった後で、そんな質問されても頭の中はリセットできないからねえ。ただ……元々、来島はワカのことが好きだって思ってたから、どちらにしても難しかったと思う」


 いろんな女の子と一緒に歩いているのは何度も見たけど、誰に対しても同じような対応をしていたことを知っている。


 でも、ワカに対してだけは、いつも言葉も態度も違うのだ。


 あそこまで露骨な反応の違いを見せつけておきながら、わたしのことも好きとか言われても、その言葉の真偽はともかく、正直、信用は難しい。


「一番じゃなきゃ駄目ですか」

「駄目ですねえ」


 それは当然のことじゃないだろうか?


 わたしは、「俺の一番は別の女だが気にすんな」と言われても、受け入れることなどできない。


 わたしの度量はそこまで、でかくないのだ。


 そうなると、「わたしも一番じゃないから、他を当たってね」としか言いようがない。


「笹(・)さ(・)ん(・)の(・)一(・)番(・)も(・)お(・)前(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)のに?」

「え?」


 でも、来島のその言葉で、思考が一瞬停止した。


「笹さんは前の彼女かは分からんが、少なくともお前を一番には見てないだろ?」


 その言葉で、わたしはじっくりと考え直してみる。


 九十九がわたしのことを一番に思っていない。

 それは当然だ。


 実際は本当の彼女ではないのだから。


 そして、わたしはそれを承知している。

 それが傍目にも伝わっていれば、確かに、彼の言うのも分かる気がする。


 彼からすれば、「一番じゃなくても付き合えるなら、俺にしとけ」ってなるのもおかしくはない……のかな?


 でも、九十九と付き合うことになったのはこちらの事情というものがある。

 そして、その事情に他人は巻き込めないのだ。


「九十九の一番じゃないのは分かってるよ。それが九十九を振った彼女さんか、ぜんぜん違う人かまでは知らないけれど。前の彼女さんに振られた時、落ち込んでるのは見たからね」


 あの日、誕生日に再会した時に九十九は確かにこう言ってたのだ。


 彼は、「彼女に会いに来た」って。


 結局、わたしの事情に巻き込んでその事自体も有耶無耶にさせちゃったけど、あの言葉を聞いた以上、未練がなかったとは思えない。


「まあ、キ(・)ス(・)ま(・)で(・)し(・)た(・)仲(・)だったみたいだからな」


 …………なんですと?

 そこまでは知らなかった。


 うっかり、いらない情報まで頂いちゃった気がする。


 でも、そっかあ。

 付き合ってる男女だから、そんなこともしてるよね。


 でも、そうかあ……。


 …………なんだろう、この複雑な感覚は。


 そして、来島は九十九の彼女さんのことも知っているのか。

 現実に存在する人間だったらしい。


 いや、そんなことでわたしに嘘を吐く理由なんてないのだけど、見たこともないのだから……ないよね?


 あれ?

 もしかして、わたしが入った夢の中で夢魔が変身していた女性?


 でも、あまりよく覚えていない。

 あの時は、九十九を助けることでいっぱいいっぱいだったし。


「で、笹さんが良くて、俺が駄目な理由は?」

「来(・)島(・)が(・)九(・)十(・)九(・)じ(・)ゃ(・)な(・)い(・)か(・)ら(・)」


 九十九は魔界人だ。

 だから、何があっても守ってくれるとわたしを思ってる。


 それに仕事だし?


 彼女みたいなことは何もできませんが、それでも良いと九十九は言ってくれた。

 まあ、本命が別にいるなら、そんな言葉になるのも分かる。


 それに、彼氏のふりも残りわずか。

 わたしが人間界にいる間のことだという話だったからね。


 でも、わたしが言ったその言葉に、来島が分かりやすく驚愕した表情を見せた。


 ……それに対して、ちょっと罪悪感がずっしりと背中に乗っかかる。


 わたしは来島自身を見て答えたわけじゃない。


 単に状況を見て、そう判断しただけなのだ。

 ただの人間じゃ、わたしの事情に巻き込まれ、最悪、命を失う可能性もある。


 それは、卒業式で、嫌というほど実感してしまった。


 恋愛感情の有無はともかく、自分のせいで誰かに何かあるっていうのは、かなり嫌だった。


「来島のことは嫌いってわけじゃないんだよ。多分、好きなんだと思う。でも、ごめん。いろいろと考えてみたけれど、やっぱり無理だった」


 彼が人(・)間(・)で(・)は(・)な(・)く(・)魔(・)界(・)人(・)だ(・)っ(・)た(・)ら(・)、事情も考え方も違っただろう。


 でも、九十九の話では、魔界人であっても半端な人ではあの紅い髪の男の人に勝てないと言っていた。


 九十九も、準備なしでは抵抗が精一杯だとも。


 魔界人であってもそうなのだから、これから先、この世界で平和に暮らしていく彼のことまで考えるような余裕は今のわたし自身にない。


「思ったより、ザックリ刳(えぐ)りに来たな。こう心臓に悪い方向で」


 来島は胸を押さえながらもそう言う。


「二股宣言の後じゃなかったら、それなりに嬉しかったとは思うよ」


 いや、宣言後だったけど、実際はかなり嬉しかった。


 わたしは今までに異性から好意を向けられたことはなかったから。


 それも友人だと思っていた来島からである。

 ちょっとだけ照れくさくて、頬がにやけてしまいそうになるのも仕方がないことだろう。


「そこはしくじったと自分でも思う。いや、今、言うつもりはなかったんだ。お前が変なことを聞くからついポロッと出ちまったんだよな。もっと育(・)て(・)た(・)か(・)っ(・)た(・)んだけどな」


 来島が少し、悔しそうな顔をする。


「……わたしも、ちょっと踏み込みすぎた。ごめん。でも! ワカには言わないから安心してね」

「俺が気にしてるのはそっちじゃ……まあ、良い。少しは罪悪感があるってことか?」

「わたしも聞き出したかったわけじゃないから」


 なんとなく聞いて、返ってきた答えがあまりにも意外すぎて思考が混乱していたけど、元々、わたしの無神経な質問がいけなかったのだ。


 ワカへの恋心を育て中の彼に申し訳ないことをしたと思う。

 第三者が自分の本心を知られているって考えたら、心穏やかではいられないだろう。


 下手をすれば、恋の芽を摘んでしまうことになりかねない。


「じゃあ、その罪滅ぼしをしてほしいんだが?」

「罪……滅ぼし?」

「少しだけこの腕に収まれ」


 来島は軽く両手を広げた。


「……その腕に? ……え?」


 その言葉の意味は分かる。


 でも、それはどうなのだろう?

 仮にも振った相手……だよね?


 二番目でも。


「変なことをするわけじゃねえよ。少しだけ、抱きしめさせてくれ。それとも、それすら許さないか?」


 少し考えて……まあ、それぐらいならと了承することにした。


 ぼふっと彼の胸に身体を預け、素直にその腕に収まる。


 九十九とは違う匂いがするし、雄也先輩ともなんか違う。

 そのことがどこか不思議な感じがした。


 気のせいか、少しずつ熱くなってきた気がする。

 汗がじっとりと滲んで、さらに、少し息苦しさを感じた。


 その感覚に、思わずちょっとだけ逃れようとしたが、彼の腕が力強く締めつけているため、離れることもできない。


 仕方がないので、彼の気が済むまでこのままでいるしかないようだ。

 許可したのは自分なのだから、少しばかり熱いぐらいは我慢しよう。


 それにしても、他人と長い時間、くっつくのって結構、熱いんだね。


 友人たちとひっつく時は意識したことがなかったけれど、相手の体温が全身を巡るみたいな、変な感覚がする。


 そうしてどれくらい経ったか……。

 彼がようやく手を緩めてくれたので、わたしは解放された。


「悪かったな。高田はもう彼氏持ちなのに」


 来島は顔を逸しながらもそう言った。


「大丈夫だよ」


 彼氏とは言っても本当に名前だけなのだから。


 だけど、この場で彼を選ばなかったこと。

 わたしはこの選択を後悔しないと思う。


 そりゃ、少しぐらい心が動いた音が聞こえた気もするけど、これから先、起こることを考えたら、これで良かったのだ。


 わたしは、無理矢理にでもそう思い込むことにしたのだった。

鈍感……というより思い込み、とだけ。

そして、何故、このタイミングで言ってしまったのだと個人的には同情したいところ。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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