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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 主従関係変化編 ~

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短時間で確実な成果

「俺は別に特別なことは言ってないぞ」


 トルクスタン王子は澄まして答えた。


「嘘つけ」


 兄貴はジロリと彼を睨む。


 今は、兄貴とオレ、そしてトルクスタン王子の三人だけが部屋にいた。


 高田や水尾さんと真央さんは別に話があるらしく、別室へ行っている。

 また「乙女の秘密」とか言うのだろうか?


 そして、前のメンバー以上に「乙女」要素が減ったと思うのはオレの気のせいではないだろう。


「お前はどんなことを言って、国王陛下やメルリクアン王女殿下を脅した?」

「人聞きが悪いことを言うなよ。俺はお前じゃないんだぞ」


 だが、脅す以外の強硬策を使わずに、穏便な手段で説得できるものだろうか?


 しかも、その許可を得るための時間はあまりかかっていないのだ。

 まさか、兄貴も当日に戻って来るとは思っていなかっただろう。


 トルクスタン王子は、短時間で確実な成果を上げたことになる。


「25歳までだ。カルセオラリアが中心国に戻るかどうかの判定を受ける日までには帰れと言われた」

「長いな」


 兄貴が驚いた。


 トルクスタン王子が25歳になるまで、正しくは、あの会合の日から5年以内か。


 トルクスタン王子は兄貴と同年。

 少なくともまだ4年はある。


 確かに長いな。

 数日そこらの話ではなく、まさか、年単位の話とは思わなかった。


「王位継承権を放棄されるよりもマシだということだろう」

「やはり、脅しか」

「いや、今回は本当に何も言ってないぞ」


 兄貴の言葉にトルクスタン王子は首を振る。


「ただ国王も、俺が一度決めたら曲げないことは承知だ。無駄な問答は避けたのだろう。まあ、条件は付けられたけどな」

「条件?」

「さっき言った期限を守ること。それと、ローダンセに行くこと」

「ローダンセ……、だと?」


 ここで、何故、弓術国家ローダンセの名が出てくるのか?


「ローダンセの王族に仕えている王妹の息子と孫たちがいるんだよ」

「ローダンセにいるカルセオラリア国王の妹と言えば……、『アリトルナ=リーゼ=ロットベルク』様か」

「すぐにその名前が出てくるお前が凄いよ。まあ、アリトルナ叔母上の……孫だから、俺から見れば従兄妹の息子たち……、だな」


 この辺りは、オレにまったく足りていない部分だ。

 

 積み重ねていた知識の量も違うが、記憶力も違いすぎる。

 現在の王族ならともかく、他国に嫁いだ親戚筋まで覚えていられない。


「アリトルナ様には息子が一人、『エンゲルク=サフラ=ロットベルク』様だけだったはずだ。ならば、その子はローダンセ第三王子に仕える『ヴィバルダス=ミール=ロットベルク』様とローダンセ第五王子に仕える『アーキスフィーロ=アプスタ=ロットベルク』様か」

「なんで、そこまで知っているんだ?」

「単なる趣味だ。王族の縁戚関係は従者ほど入れ替わらん」


 確かにそうだけど、そこまで覚えている理由が分からん。


 ローダンセの第三王子「カルムバルク=ラニグス=ローダンセ」様と、第五王子は「ジュニファス=マセバツ=ローダンセ」様、というのは覚えている。


 ローダンセ国王の息子と娘は全部で11人と数が多いから、その全てを覚えているだけでも褒めて欲しい。


 それにしても王子が8人と王女が3人……。


 産ませすぎだろうと言いたいが、さらにローダンセの王子、王女はその全てが母違いというとんでもない王族だ。


 もしかしたら、まだ(ほか)にもいるかもしれないし、今後も増える可能性もある。


 会合でそのローダンセ国王を初めて見たが、まあ、王族らしく、普通の優男だった。

 あまり逞しくは見えなかった。


 それにセントポーリア国王陛下とイースターカクタス国王よりは年上と聞いているが、あの方々ほどではなくとも、もっと若いように見えた。


 魔界人は年齢不詳が多いのでそのこと自体は可笑しくない話なのだが。


「俺の身に何かあれば、そいつらにカルセオラリアの王位が転がる可能性があるからな。特に、エンゲルクはカルセオラリア国王の甥で、俺の従兄妹だ。年齢も42歳と若い。ちゃんと伝えねばな」

「そんなことは通信珠で事足りるだろうが。もしくは転移門を使え」


 確かに出向く以外の方法だってある。


 それを使わないと言うことは何か理由もあるのだろう。


「アリトルナ伯母上は転移門の技術をお持ちだ。嫁ぐきっかけも、ローダンセ城にある転移門の点検に行って見初められたわけだからな」

「転移門の技術? なるほど。それなら、息子や孫に伝わっている可能性もあるということか」

「用件が用件だけに、通信珠は使えん。傍受されても困るからな。転移門を使用すれば、目立ちすぎる。だから、お前たちの旅に便乗させてもらった方が俺の都合も良いんだよ」


 どうやら、思い付きではなく、ちゃんと理由はあるらしい。


「言っておくが、ローダンセに寄る予定はない」

「分かっている。だが、進路については、シオリが決定権を持っていると聞いている。なんとか口説くさ」


 オレたちには特に明確な行先はない。

 セントポーリアの王子から逃れられればどこでも良いのだ。


 一度は定住地にこのストレリチアも考えたが、それは高田が「聖女の卵」となってしまうまでの話だった。


 城や大聖堂から離れても、ストレリチア国内にいる限りは落ち着くことができないだろう。


 つまり、残念ながら、このグランフィルト大陸での生活は難しいと言うことだ。


 水尾さんと真央さんが共に来るなら、彼女たちをアリッサムの第一王女の元へ届けることが最優先となるだろう。


 後は、それから考えれば良い。


 その気になれば、流浪の民のように、定住を持たず、あちこちを旅して暮らすこともオレたちならできるのだ。


 そして、現状はそれに近い。


 だが、それでは高田があまりにも可哀そうだ。


 それに、彼女自身は何も悪いことはしていないのに、逃亡者のような隠遁生活を送らせるのは勿体なくもある。


 だから、いつかはどこかで落ち着かせたいというのがオレの個人的な意見だった。

 兄貴には言ったことはないけれど。


「ローダンセは王族が多い。そんな国に行って、亡国の王女たちとされる者が無事でいられると思うか?」


 水尾さんと真央さんは、消滅したとはいえ、元中心国の王族である。そして、その魔力も潤沢だ。


 そんな彼女たちは、どこへ連れて行っても、王族たちの醜い争いに巻き込まれる可能性は高い。


 そして、それは、中心国の王の娘である高田も同じことが言えるのだ。


「第一、第二、第三王子は愛妾の息子で、第四王子が正妃の息子だ。そして8人の王子たちの中で、婚約者が決まっているのはその第四王子のみ。第一、第二王子のために秘密裏に魔力が強いアリッサムの人間を探しているという話は聞いている」

「つまり、彼女たちにとっては最悪な場所だと知っているだろ?」


 ……と言うか、国王も考えて子供を作れって話だよな。


 正妃が子を産む前から別の女に産ませたら、争いごとに発展することは目に見えてわかるだろうに。


「それでも、クリサンセマムよりはマシだ。あの国王陛下は子を産ませることしか考えてはくれない」

「事情だけを見れば、ローダンセも似たようなものだ。後継者争いのために分かりやすい既成事実を作ろうとするかもしれん。時はもうないのだからな」


 兄貴が言った「時はない」。

 それは王位継承の話だろう。


 ローダンセの第一王子である「オルヴァルド=キュロス=ローダンセ」様は今年23歳と聞いている。


 第二、第三がその一つ下。

 しかも生誕は数日違いの22歳。


 正妃の産んだ第四王子は、20歳。


 その第四王子が25歳になるまでに婚約者を見つけ出し、王位継承権第一位だった者が国王より譲位されるそうだ。


 そして、厄介なのは、その権利は歳若の弟王子たちを含めて全ての王子に等しく権利があるらしい。


 しかし、一番下の第八王子はまだ1歳。

 王位が転がり込んでも摂政を立てるしかないだろう。


 さらに厄介なのは、今から王子が生まれた時だ。


 そうなると、もう収拾がつかなくなりそうである。


「ま、こちらにもいろいろな思惑があるってことだ。今、俺に話せるのは悪いが、ここまでだな」


 そう言って、トルクスタン王子は笑ったのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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