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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 主従関係変化編 ~

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【第49章― もう少しだけ夢を見たい ―】折り合いをつける

この話から49章です。

よろしくお願いいたします。

「高田~!!」


 そう言って、この部屋に飛び込んできた人に、わたしは抵抗する間もなく抱き着かれてしまった。


 傍にいる九十九の瞳がなんとなく、生温かい気がする。


「ミオ……、落ち着きなさい。高田が困っているよ」


 その後ろから、真央先輩の声がした。


 彼女の髪の毛は短くなっており、まるで、中学時代の真央先輩のようで、ちょっと懐かしく思えた。


 わたしにいきなり張り付いてきたのは水尾先輩の方だ。

 この行動は彼女にしては珍しい気がする。


 水尾先輩も真央先輩のように髪の毛が短くなっていた。こちらもなんとなく懐かしく思う長さだ。


 二人とも同じ長さになると、流石に双子だけあって、良く似ている。


 だけど、雰囲気は全く違うので、黙っていても区別はちゃんとつくのだけど。


「いや、久し振りで『高田』成分が足りてなかったからつい……」


 まるで水尾先輩はワカのようなことを言った。


「お久しぶりです。水尾先輩、真央先輩。お元気そうで嬉しいです」


 そう言って、わたしは一礼する。


「久しぶり、高田。また会えて嬉しい」

「久しぶりだね、高田。貴女も元気そうで良かったよ」


 水尾先輩と真央先輩も一礼してくれた。


「それと、九十九! 久し振り!」

「九十九くんも久し振りだね」

「お久しぶりです、水尾さん、真央さん」


 わたしの傍にいた九十九に向かって、二人とも挨拶する。


 だけど、九十九の目も、わたしの目もさらにその後ろに行く。


「ああ、トルク? ここまで送ってくれたんだ。すぐ、帰すから気にするな」

「いや、すぐに帰さないでくれ、ミオ」


 水尾先輩と真央先輩の背後にいたのは、カルセオラリアの第二王子であるトルクスタン王子だった。


 彼に会うのは、もっと久し振りだった。


「トルクスタン王子殿下も、お久しぶりです。ご挨拶が遅れて申し訳ありません」


 わたしが礼をする。


 いや、水尾先輩も真央先輩も完全に彼を視界に入れようとしていなかったから、判断に迷ったのだ。


「ああ、シオリもツクモも久し振りだな」

「お久しぶりです、トルクスタン王子殿下」


 トルクスタン王子から声をかけられて、九十九も挨拶をする。


 今日、水尾先輩と真央先輩が来ることは、事前に聞いていた。


 カルセオラリアの方が大分、落ち着いたために二人揃って、こちらに顔を出すという話だったのだ。


 でもまさか、水尾先輩がいきなり扉を開けるなり、飛び込んでくるとは思わなかったけど。


 だから、その点は別に良い。


 でも、トルクスタン王子まで、一緒に来るとは聞いていなかった。


 しかも、この2人の様子から、連れてくる気はなく引っ付いてきたという印象があるのだけど、どういうことだろうか?


「報告は受けていると思うけど……、カルセオラリア城下も、カルセオラリア城も表向き、復旧はしたぞ」


 トルクスタン王子が嬉しそうに報告する。


「表向き?」


 でも、わたしも、傍にいる九十九もその言葉が引っかかる。


「内部はな。それぞれの拘りが強すぎて、なかなか意見が纏まらないのだ。城は大分、落ち着いたのだが、城下に関しては収拾が付かん」


 そう言いながら、トルクスタン王子が肩を落とした。


「機械国家の人間たちだからな。その辺りは仕方ない。建てた当時から世代交代したり、本人の趣味も変わったりしているみたいだ」

「せっかくの立て直しの機会だからね。趣味が爆発している人が多いみたいだよ。当人たちが家族の中で折り合いをつけてもらうしかないね」


 水尾先輩と真央先輩が補足説明してくれるが、少し分からない。


「お前が半年前の自分の絵を見て描き直したくなるようなものだろ」

「なるほど、わかりやすい」


 流石、九十九だ。

 その説明はかなり納得できた。


 彼は本当にわたしのことをよく分かっている。


 半年前どころか、一週間前の絵でも修正したくなるのだ。


 そして、描き直した結果、前の方が良かったのではないか? と首を捻るまでがセットだと思う。


「まあ、それでも、カルセオラリアは多分、もう大丈夫だろうとは思う。国王陛下もメルリクアン王女も頑張ったし」


 水尾先輩がそう言う横で、トルクスタン王子が変な顔をしていた。


 多分、彼も頑張っていたとは思うのだけど、水尾先輩は素直に褒めてはくれないようだ。


「それで、私たちも今後のことを話したくて、ここに来たんだけど……、余計なものが付いてきちゃって。邪魔なら、すぐ帰すけど、どうする?」


 真央先輩は何がなんでも、彼を帰したいらしい。


 でも、わたしがカルセオラリアの第二王子を自分の一存で帰せるはずもない。


 困って、九十九に視線を送ると、彼は溜息を吐いて、こう言った。


「兄貴も呼んで良いですか?」


 わたしと真央先輩は頷いたけど、水尾先輩とトルクスタン王子は露骨にその顔を変化させる。


「でも、先輩なら大丈夫か」


 水尾先輩がボソリとそう言った。


「ユーヤか~。アイツがいると面倒なことになりそうなのだが、仕方ないな」


 トルクスタン王子もしぶしぶ了承してくれる。


 そんなわけで、雄也先輩もこの部屋に呼ばれることになったのだけど、これって単純に報告会ではないのかな?


 水尾先輩とトルクスタン王子の言葉。

 そして、真央先輩のなんとも言えない顔が気になったのだった。


****


「余計な者がいるな」


 挨拶もそこそこの状態で、兄貴はいきなりそう言った。

 しかも、オレから連絡を受け、状況を理解しているにも関わらず……、だ。


 やはり、数ヶ月、床に伏せたぐらいではこの口から毒を抜くことは、不可能だったとオレは思っている。


「「お久しぶりです、先輩」」


 水尾さんと真央さんが双子らしく声を揃えて挨拶をした。


「お久しぶりです、相変わらずお元気そうで良かったです、ミオルカ王女殿下」


 まずは水尾さんに挨拶をし……。


「お久しぶりです。お元気そうで安心しました。その節はお世話になりました、マオリア王女殿下」


 続いて真央さんにも同じように言葉をかける。

 まとめて挨拶しないのが、兄貴らしい。


 だけど、そこまで二人には気遣って、カルセオラリアの第二王子であるトルクスタン王子に挨拶をしないのは何故だ?


「先輩、雰囲気、変わりました?」


 真央さんがそこに気付いた。


「二十歳を越えましたから、体内魔気の変動があったかもしれませんね」


 兄貴はにっこりと笑って、そう返答する。


 確かに、数日前にあった兄貴の誕生日を境に、一気に魔気の雰囲気が変わったのだ。

 だが、その理由が分からない。


 当人は「起きたら変わっていた」と言うが、そんなに簡単に変わるものなのだろうか?


 だが、確かに、その前日は特別な変化もなかったし、その予兆もなかった。

 だから、それを信じるしかないのだ。


「生誕の儀でもしました?」

「お忘れですか? 生誕の儀を行うのは、王族ぐらいですよ?」

「……ですよね」


 でも、どこか納得できてないような真央さん。

 オレも今でも何かひっかかりがあるのだから、仕方ない。


「ああ、でも、愛らしい主人より『お祝い』は頂きました」


 そう言って、笑みを見せる。


 言われた高田は妙に顔が紅い。

 最近、ずっとこんな感じなのは気のせいか?


「祝いって何をあげたんだ?」


 水尾さんが顔を挙動不審な高田を気にする。


「大神官さまが見立てた護符(アミュレット)を一つと、今年は本を一冊……」

「ズルい、先輩!!」

「いや、貴女も毎年、頂いていたと記憶しているが?」


 この国に来たオレたちは高田から毎年貰っている物だった。


「そうだけど、なんかズルいって思ったんだよ」

「え~? ミオってそんな良いものを毎年、貰っていたの?」

「大神官が見立てただけで、大神官様の法力が入っているわけじゃないぞ?」

「いや、普通、大神官様からの法力が入った護符(アミュレット)を貰うなんて、そこにいる高田ぐらいだからね?」


 普通はいないらしい。


 だからこそ、あの護符(アミュレット)自身が、「聖女の卵」の目印になってしまうから、簡単にその法力が視えないようにいろいろと誤魔化しているのだが、真央さんの眼は誤魔化せないようだ。


 ところで、ここまできても、不自然なまでに誤魔化されている、王子殿下の存在はどう扱うべきか?


 あえて、水尾さんも真央さんも兄貴も無視しているようだが、高田は明らかに困っているようだった。


 そして……。


「そろそろ、俺の話をしても良いか?」


 トルクスタン王子が口を開く。


 だが、3人は無視を続ける。

 一国の王子の扱いとしては、どうなのだろうか?


 だが、トルクスタン王子もその3人を無視して、高田に歩み寄り。


「シオリ、お前たちの旅に俺も連れて行ってもらえないだろうか?」


 そんなとんでもないことを口にされたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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