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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~

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思いもよらぬ方向

 ―――― 夢を視た。


 何故だか分からないけれど、これは夢だとはっきり分かる。


 情景こそリアルだけれど、離れた場所からそれを視ているのだ。

 それも、少し高い位置から。


 しかも知らない人たちを。

 さらには、その場所には、現実にありえないものまでいた。


 そのためか、夢を視ながらにして、これが夢だとはっきり言い切ることができたのだともいえるだろう。


 木に囲まれた湖の傍で、楽しげに語らう一組の男女がいた。


 その二人を見守るように佇む背に翼の生えた不思議な白い馬。


 恐らくは、天馬とかいうものなのだろうけど、その背中に翼がなければ普通の馬と変わらない気がする。


 その風景や人物たちは夢ということもあって、少しだけぼんやりしていた。

 でも、なんとなくそこにある雰囲気で、その表情ぐらいは分かるような気がする。


 その二人は、とても穏やかで幸せな時間をそこで過ごしていた、と。


 でも、そんな平穏は唐突に終わってしまうのだ。


 銀髪の男性が、戦いに出ると決意を告げた時、金髪の女性はその場で泣き崩れてしまった。


 個人的には不思議に思う。


 彼の前で泣く前に、相手にその理由を問うなり、「行かないで」と止めるなり、もっと他にすることがあるだろうに……。


 いや、その理由なんて分かっているし、その立場的にも、彼女に彼を止めることはできなかったという事情も分かる。


 その共通の敵が現れるまでは、彼女のいる国と、彼のいる国は長く争ってきたらしいのだから。


 その共通の敵はかなり強大だった。


 人類未曾有の脅威ともされるその存在が、憎み合っていた国同士が手を取り合って対抗することにつながるのだ。


 いつの世も、巨大な敵の前に同盟は結ばれるのである。


 そして、それだけ敵が大きいことを理解し、世界を揺るがすほどの影響力を持つ相手だと分かっていても、彼はその剣を取るしかなかった。


 その立場上、自らが剣を持って立ち上がらないわけにはいかなかったのだ。

 だが、彼にとって立場以上に大きな理由もあった。


 彼は、自分にとって大事なものを守りたいからこそ、戦う決意をしたのだ。

 その中には当然、その彼女も含まれている。


 だからこそ、彼女はその時に、泣く以外の反応を見せるべきではなかっただろうか?

 結局、泣いている彼女を置いて、彼は戦いに赴くことになる。


 そして、その先に希望はない。

 そんなものがあれば、仲が悪かった国たちが、手を取り合うようなことはなかっただろう。


 誰もが絶望視するような戦いに彼は参戦したのだ。

 いや、参戦するしかなかったのだ。


 だけど、その果てにあんな結果が待っていようとは、その場ではただの傍観者であったわたしにも予想が付かなかった。


 始めは、ファンタジーとしてはありふれた展開だと思っていた。


 争いが絶えなかった国々を嘲笑うかのごとく、強大な共通の敵が現れ、一時的に手を結んだことにより、本来なら会うはずがなかった二人が出会うことになる。


 高貴な立場にいる婚姻前の男女が、二人きりで会うことなど本来は許されないらしいが、二人は誰も立ち寄らない場所を見つけ、お互いに逢瀬を楽しんでいたように見えた。


 彼女は彼を想い、その彼も彼女をとても大切にしていた。


 そして、彼は戦いに向かうことになる。


 それが誰にとっても最善だと強く信じて。

 そう思い込まなければ、その足が止まってしまうほどの絶望に向かって。


 そして、残した彼女だけは護られると願って。


 だが、残念ながら残された彼女は、それを最善だとは思えなかった。


 危険な戦いに連れては行けないと、彼は彼女をその国に置いていった。

 そのことが、彼女にとっては思うところがあったのだろう。


 そして、彼の前で汐らしく泣いていた人間とは思えないような行動に出るのだ。

 これは、彼だけではなく周囲も予想外だったことだろう。


 なんと友人たちを巻き込んで、大暴走を始めるのである。


 少なくとも、わたしの目にはそう映った。


 そして、その行動の結果、なんとその世界は救われてしまう。


 いや、その世界が救われたことそのものについては、良かったと素直にわたしも思うのだ。


 だけど、残念ながらそこから先のことが問題だった。

 彼も彼女も、救われない結果となってしまう。


 全てが終わって、「ハッピーエンド」「めでたしめでたし」というのは物語の中だけで、当然ながら、現実は違う。


 一つの話に結末があっても、さらにその先も続いていく。

 それも複数の物語が同時に並行しているのだ。


 誰にとっても納得できるように綺麗な話として終わるようなことはまずないということは、わたしも短い人生の中で理解しているつもりだった。


 でも、わたしはそこに至るまでの姿をずっと見てきて、その一組の男女にしっかり感情移入していたためか、そんな基本的なことも忘れていたのだ。


 そして、これがわたしにはどうにもできない夢の中の話だということも頭から抜け落ちていた。


 だから、その衝撃はとてつもなく大きかったのかもしれない。


 互いに幸せになりたいと願いながら、そのために多くの犠牲を払ったにも関わらず、結局幸せになることができなかった二人。


 そして、その周囲にいた人々も、ある意味では様々な部分において、犠牲者だと分かっている。


 でも、登場人物が全員、自分のことしか考えていないため、その悲劇は大きく膨らみ、悪い連鎖を止めることができなかった。


 そのことが、その夢を見ていることしかできなかったわたしからすると、かなり腹立たしく思える部分だったりもする。


 視ていることしかできなかったからこそ、見えたものがある。


 そして、何度もっと周りを見てくれと叫びたかったことだろう。


 少しでも、互いのことを考えられたら何か違ったかもしれないが、そんな余裕は誰も持てなかったのだ。


 それだけ、人々の心が疲弊しており、さらには重圧を背負っていた人間が多かったことも一因だったのかもしれない。


 結果論になってしまうのだが、誰一人として救われた者がいないなんて、まるで出来の悪いお芝居を見せられている気分になる。


 観劇者の心を揺らそうと、悲劇を狙いすぎたあまりに、誰も納得できない結末になってしまったような、そんな物語。


 そんな救いのない話を誰が好んで見たいものかと思う。


 誰かが作った物語ならば、せめて、二人で幸せになれないまでも、主人公ぐらいは救われても良かったのではないだろうか?


 登場人物が全員救われないなんて、後味も悪すぎる。


『わたしなら……』


 もっと違う道を選びたいし、選ぶだろう。


『そうでなければ……』


 あんな結末では、誰も救われないし、何も報われないではないか。

 誰もがそれぞれ頑張ってきたのに。


 自分でも分かっている。


 これはただの夢なのだ。

 だから何が起きても不思議じゃないのは分かる。


 だけど、こんな展開は許せないし認めたくない。

 こんなの受け入れられるはずがない。


 わたしは、彼女みたいに育ってこなかったから。


 いや、同じ立場だったなら、違う道を選んでも、恐らくは、あの悲劇を避けることができなかったかもしれない。


 それだけ、彼女を取り巻く状況は、視ているだけのわたしにとっても、複雑で難解でもあった。

 理解できなかった面も多い。


 背負うものが大きいというのは、それだけ縛られるということなのだろう。

 平和な世界で育ったわたしには全く理解できないものだったけれど。


 それでも……。


『わたしなら、あなたとは違う道を選ぶと思います』


 なぜそんなことを口にしていたのかも分からない。

 まあ、これは夢だ。


 だから、自分の言動に突っ込んでも仕方ない。


 だけど……。


『そうね。アナタならきっとワタシと違う道を進んでくれることでしょう』


 そんな声がどこからか聞こえた気がして……。


 ―――― わたしは、目が覚めたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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