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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 主従関係変化編 ~

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神装を纏って

「失礼致します。栞さんをお連れしました」


 入室の合図をした後、大神官が先に来ていた雄也先輩に対して、丁寧に挨拶する。


 わたしは、真夜中と言うこともあって、いつもと違う雰囲気となった大聖堂の会堂をふらふらと歩いてみた。


 今回の儀式の内容的に、あまり表に出せないこともあって、時間は日が替わる少し前。


 そして、点けられる照明は不自然ではないように、毎夜、一晩中、点いている小さな9色の明かりのみ。


 会堂内は、薄暗いためにかなり不思議な雰囲気となっている。


 いつもは「7」という数に拘るこの国だが、この場所の光だけは少し違う。


 お約束(いつも)の「赤」、「橙」、「黄」、「緑」、「青」、「藍」、「紫」に加え、「白」と「黒」の玻璃の「火屋(ほや)」で覆われた9つの灯火器が周囲に置かれているのだ。


 神さまの「御羽(みはね)」と同じ9色。


 創造神の白、各大陸の7色、そして、それ以外の神さまたちの色の明かりを一晩中灯し続けることで、「神たちはいつも神櫃(しんぴつ)を見守っている」ということになるらしい。


 それなら、黒の明かりをもっと多く点けるべきではないだろうか?

 黒の「御羽(みはね)」を背負う神さまが一番多いのに。


 因みにその「神櫃(しんぴつ)」と呼ばれる祭壇の上にある箱には、創造神の「御羽(みはね)」が納められているそうだ。


 恭哉兄ちゃんですら、実際に開けたことはないらしい。

 何でも、開けない方が良い気配がする箱……だとか。


 それでも、好奇心に負けないのは凄いよね。


 だから、その「神櫃(しんぴつ)」の中に、本当に創造神の「御羽(みはね)」が納められているかどうかは誰にも分からない。


「栞ちゃん」


 後ろから呼びかけられて振り返ると、そこには大神官と打ち合わせを終えたっぽい雄也先輩が立っていた。


「今日は、本当に来てくれてありがとう」


 仄かな明かりしかない場所で、美形の笑顔は無駄に幻想的だと思ってしまう。


 この状態を絵に残せないものか。

 わたしの技術的に無理かな。


「いいえ。未熟ですが、お手伝いさせていただきます」


 わたしは、雄也先輩に一礼する。


「ごめんね。女性であるキミにこんなことを頼んで……」


 それだけ、雄也先輩にとってはこの儀式が大事なことだったのだろう。


「いえ……、本格的にできなくて申し訳ないです」

「本格的?」

「わたしが男なら、本来の儀式通り、ちゃんと裸でできたと思うのです」


 どうせならそこまで拘りたかった。


 雄也先輩にとって、大切な儀式だって分かっているから。


 でも……、流石に、いろいろ無理がある。

 男だったらそんなことを気にしなくても良かったと思うのに。


「……先ほどまで迷っていたけど、今は、キミが女性で心底良かったと思ったよ」


 ぬ?

 何か間違えたかな?


 何故か雄也先輩が困った顔をしていらっしゃる。


「栞さん、そろそろお召し替えの方をお願いいたします」

「あ、はい」


 実は、「神装(しんそう)」を着るのは初めてだったりする。


 いつもは「神舞(しんぶ)」を踊る時や、ちょっとしたお披露目などの時は、「神子(みこ)装束」と呼ばれるものだった。


 だが、今回は略式ではあるが、自分が主体となって行う儀式ということで、本格的な衣装となる。


 仮縫いで布を軽く当ててはいたけど、完成品はまだ見ていない。

 少しだけワクワクした。


「お手伝いは必要でしょうか?」

「頑張りますけど、無理な時はお願いします」


 儀式に使うような服って、どことなく和装に似ているのだ。


 だから、慣れないと一人で着替えるのは、結構、大変なのである。


 今回は、手伝いのための「神女(みこ)」をお願いすることもできない。


 だから、わたしの着替えを手伝うことができるのは、服の仕組みまで知っている恭哉兄ちゃんだけになる。


 大神官となると、神女(みこ)の衣装各種の着付けまで知っていると言うことになるのだが、その部分を深く追求してはいけない。


「手伝い?」


 雄也先輩が疑問を持ったようだ。


「服です。今回の『神装(しんそう)』を含めて、『聖女の卵』が身に着けるような衣装って着用が難しいものが多いので」

「……手伝い?」


 さらにもう一度、疑問形。

 心なしか声の高さも少し変わった気がする。


 恭哉兄ちゃんに着替えを手伝わせることに抵抗がないわけではない。

 着る練習をしておけば……という話である。


 ただ……、今回の衣装については、恭哉兄ちゃんに任せていたのだけど、大神官からの特注と言うこともあって、職人さんが妙に拘ってしまったらしく大変だったそうな。


 そのため、ギリギリに仕上がったらしいので、お着替えの練習できなかったのは仕方ないよね。


 間に合っただけ良しとしよう。


「とりあえず、控えの間で着替えてきますね」


 わたしはそう言って、着替えに向かった。


 新しい服って、妙にウキウキするよね?


****


 控えの間に入ると……、暗かった。


 うん。

 考えれば分かることだね。


 わたしは、近くの「照明石」を探して、軽く触れる。

 石は仄かに光って、周囲だけをほんのりと照らした。


「うわあ……」


 わたしは思わず声をあげてしまった。


 仮縫いはサイズ確認のためだけに、ただの白い布の組み合わせでしかなかったが、出来上がったこれは凄く綺麗なものだと言うのが、薄暗くてもはっきりと分かる。


 薄い布でできたその服は、わたしがよく着ているような「神子装束」よりかなり長めで、落ち着いた感じのものだった。


 いや、丈が短く広がりやすい「神子装束」は、提供してくれるワカの趣味が多分に入っているから仕方ない。


 ん?

 つまり、この衣装は、恭哉兄ちゃんの趣味……ということだろうか?


 この辺りは、あまり深く追求してはいけない気がした。


 そして、仮縫いの段階でなんとなく、分かっていたけど、やはりこの形だったか。


 身体のラインがある程度くっきり出てしまう残酷仕様。


 合わせがあるため、裾は広がるようになっていることが救いだけど、これが似合う体型でないことに関しては、誠に申し訳ないと思う。


 帯は和服で半幅帯と呼ばれる細めの帯サイズ。

 でも、素材は少しだけふわふわしているのであまり帯っぽくない。


 浴衣の子供向けの帯に似ているが、アレとは少し違う気がする。

 ……違うよね?


 ありがたいことに、既に帯の形が作られている作り帯だった。


 そして、この帯はまるで花のように広がっていて可愛い。

 自分が着るなら無難な形になってしまったことだろう。


 そして、このタイプの服ならわたしだけでも何とか着ることはできそうだ。


 しかし……、この服は、今後使うかどうかも分からない。

 一度だけの儀式にこれだけのものってどうなのだろう?


 贅沢な話だ。

 いや、九十九の時にも着る可能性はあるのか。


 薄布を着て、さらに「神装(しんそう)」という名の儀礼服を纏う。


 これが……水に濡れても大丈夫な素材……か。

 見た所、そんな感じには見えない。


「おおう?」


 着るまで気付けなかったけれど、裾の左右に浅いスリットが入っている。


 これは……、間違いなくわたしより長身スリムな水尾先輩や真央先輩向けの服ではないだろうか?


 背の低いわたしにはあまり似合わない気がする。


 でも、よく考えたらこの姿を見るのは、恭哉兄ちゃんと雄也先輩だけだった。


 二人なら、似合っていない服を見ても、気まずそうに目を逸らすなど微妙な反応はしないだろう。


 九十九だったら、ちょっと不機嫌そうな顔をするかな?


 「似合わない」とはっきり言わなくても、「露出多い」って……あれ? これじゃあ、一般的な父親の言葉か。


 でも、彼のイメージが母親と父親が同居している……、って感じがするのだから仕方ないね。


「よし!」


 お着替え完了!


 今回の目的は着替えではなくその先だ。


 うん。

 その先……だね。


 実は、大問題があるね。


 今からわたしが行う「湯成(ゆなり)の儀」。


 日頃のお礼に、背中を流すようなものだと割り切りたいけど、詳しく聞けば、本来は全身を洗い流す儀式らしい。


 よく考えなくても、異性間では軽くセクハラ行為だよね?


 雄也先輩は平気かもしれないけど、わたしはそんなことを自分の母親にもやった覚えがないのだ。


 相手は水着を着てくれるとは言っても、結局のところ、半裸の殿方に触れる……って、かなり難易度が高いと思うのですよ。


 それでも、一度引き受けた以上はしっかりと頑張ろうか!

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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