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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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【第46章― 祭りの後始末 ―】風に煽られて

この話から第46章です。

「どうした?」


 目の前の金髪の王さまが余裕の笑みを浮かべて問いかける。


 だが、わたしはそれどころではなかった。


「ぅぐぐぐっ」


 両拳を握り、足を踏ん張って、歯を食いしばりながらも目の前にある圧力に耐える。


 気を抜けばすぐに吹き飛ばされそうなほどの風圧に襲われながらも、何とかその場に踏みとどまった。


 腕も、足も、信じられないほど重い。


 指こそ、なんとか動かせるけど、少しでも身体を動かそうと、別の場所に力を入れれば、この場に立っていられなくなる。


 気分は、台風時のテレビのリポーターだった。

 いや、あの人たちも、絶対、ここまでの風に煽られたことなどないだろう。


 髪や服どころか、顔の頬肉すら、強制的に後方へ動かされて、突っ張っている。


「これぐらいの風には()()()()()()()()。ではもう少し、出力を上げるぞ」


 まだ上がるの!?


 そんな疑問は風と共に去りぬ。


 さらに国王陛下の身体から発生する暴風によって、わたしは()()()身体が吹き……、いや、()()()()()()()


 自分も風を出しているためか、それがブレーキとなって壁に叩きつけられることはないが、それでも勢いよく風に飛ばされる感覚に慣れるはずもない。


 改めて、九十九は凄いと思ってしまった。

 彼は何度もわたしの風に吹き飛ばされているのだから。


 どうしたら、こんなものに慣れると言うのだろうか?


「そろそろ辞めるか?」


 温和な外見や声とは裏腹に、わたしに向かって挑発的な言葉を投げかける金色の髪の王さま。


 風属性最高位の魔力を持っているこの方は、間違いなく、この世界で一番の風魔法の使い手だろう。


 魔法国家の王女である水尾先輩が、可愛く見え……、いや、彼女の魔法もあまり可愛く見えないけど、目の前に立ち、体内魔気の放出されただけで、この全身に震えがきたのは、真央先輩以来だった。


 さらにこの方は、わたしに向かって魔法を放つ。


 魔法で防御をせず、これに耐え続けろというのだから、なかなか酷な話だが……。


「続けます!」


 わたしはセントポーリア国王陛下に向かって、言い放った。


 簡単に止めるぐらいなら、始めからこんなことはやらない。


 セントポーリア国王陛下は一瞬、目を見張ったが、口元にふっと柔らかい笑みを浮かべた。


 そこで、油断してはならない。

 もうわたしは知っているのだ。


 この王さまは、穏やかに笑った直後の攻撃が……。


「うっ!」


 わたしは咄嗟に声をかみ殺して、歯をグッと食いしばる。


 この視えない攻撃に口を大きく開けることなどできない。

 一瞬で、上顎ごと跳ね上げられ、顎が外れるほどの衝撃を受けてしまうから。


 既に、一度食らった後だった。


 風と言うのは本当に厄介だ。

 視えない空気の流れ。


 水尾先輩の透明な火はそれでも、熱を持ち、空気を揺らがせるが、この王さまの放つ魔法は、ただの空気の流れ。


 だから、その動きが完全に見えないのに、大砲のように、強力な空気の塊が次々に襲い掛かってくる。


 時には拳大に。

 時には、針のように細く。


 そして、時には……。


「ぐぅっ!?」


 信じられない。


 この部屋にある壁の全てが一斉に押し寄せ、わたしを圧し潰しに来たかのような四方からの衝撃に、一瞬、思考が止まった。


 実際は、壁は少しも動いていない。

 周囲の空気が、わたしごと圧縮しようとしただけ。


 強くて弾力のある風船に隙間なく囲まれ、圧し潰されたらこんな感覚になるかもしれない。


 身体が、巨人の手に握りつぶされたかのようにみっちりと締め付けられ、わたしはそのまま倒れる。


 先日、大聖堂の地下で見せた魔法は風魔法ばかりだったが、今は、風だけではなく、空気を利用した魔法も使ってくる。


 寧ろ、この方は風よりもこっちの方が得意なのではないかと思うぐらい的確に。


 どことなくおっとりとしていた印象だったこの王さまは、じつは見た目よりえげつない思考の持ち主だと分かり、思わず、こんな状況だと言うのに、口元が緩んでしまう。


 やはり、あの母が選ぶような人は、普通で真面目なだけの人間ではなかった。


 そのことに対してかなり安堵してしまうわたしの思考はどこかおかしいかもしれないが、嬉しく思うのだから仕方ないね。


 それに、明らかにか弱い少女に容赦なく遠慮なく加減なくその力を行使するその姿は、まるで、誰かさんのようだと思えてしまった。


「かはっ!!」


 床に向かって両手を付き、途中で止まりかけた空気の塊を肺から外に押し出すように咽せる。


 大丈夫。

 これぐらいで死ぬような身体ではない。


 わたしが知る限り、魔界人の肉体は、半分の血でも結構、頑丈なのだ。


「まだやるのか?」

「当然です!!」


 わたしは髪を乱しながらも叫ぶ。


 こんな機会は滅多にない。

 だから、ここで退く理由はなかった。


 それに、この方相手に、無様な姿など見せられるはずもない。


 わたしを護る人間が誰一人いないこの場所で、


 わたし以上の魔力の持ち主が、


 視たこともない魔法を遠慮なくぶっ放す。


 そんな状況は恐らく、今後、二度とないのだろう。


 確かに、今のわたしは魔法をほとんど使えない。


 だけど、これから先のわたしは分からない。


 一つでも多くの魔法を見て、いつかのために備えたかった。


 これは、同じ風属性の九十九や雄也先輩にも、魔法国家の王女である水尾先輩と真央先輩にもできないこと。


 風属性の王さまの魔法をこの身に受けて、少しでも魔法耐性を上げる。


 ついでに、互いの魔力が干渉しあって、それぞれの攻撃力、防御力が増大する可能性があると言う魔力感応症とやらで、自分の風属性の魔力をとことん上げてやるのだ!


 わたしはそのつもりでこの場に立っている。

 何度、吹っ飛ばされても負けないように。


 何よりも……、この人の魔法をもっと見たい。

 そんな願望も抱いてしまった。


 それにしても……、()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と感心してしまう。


 少し前に大聖堂の地下で見た魔法とは威力が段違いだった。


 あの時もかなりの威力を持っていたセントポーリア国王陛下の魔法は、この場所に来て、最大級のものとなっている。


 そう、今、わたしは大聖堂にはいなかった。


 いや、それどころか、保護を受けている法力国家ストレリチアでもないし、勿論、少し前に滞在していた機械国家カルセオラリアでもなかった。


 今のわたしは、セントポーリア国王陛下のホームグラウンドであり、わたしにとっては敵陣に等しい場所。


 早い話が、風の神ドニウの加護が最も強いとされるシルヴァーレン大陸の中心国、剣術国家セントポーリアにいたのだ。


 しかも、セントポーリア国王陛下の居城であるセントポーリア城。

 そのセントポーリア城の地下にある王族専用の契約の間と呼ばれる場所。


 セントポーリア国王の許可がなければ誰も立ち入ることも許されないようなとんでもない場所にて、そのセントポーリア国王陛下より直々に、魔法の指導という名の……、なんだろう? 伝授とかそう言ったものに近い何かを受けていた。


 別に、改めてセントポーリア国王陛下の娘と認められたから……とか、うっかり神剣「ドラオウス」を抜けたからとか、王位継承権が絡んでいるとかそんな小難しい話ではなく……、もっと単純に、わたしの「風属性の魔力が強いから」らしい。


 あの情報国家の国王陛下の話では、恐らく、風属性の魔力だけを見れば、この世界では二番目だろう……ってぐらい。


 もう、その時点でいろいろと突っ込みどころしかないのだけど、下手に突っ込めば自分で自分が埋まって納まるための墓の穴を掘りかねないので、そこは深く考えないことにした。


 その辺りを深く追求してこないのは、情報国家の国王陛下とセントポーリア国王陛下の優しさみたいなものだろう。


 あるいは、あの2人が抱くわたしの母に対する何らかの感情からくるものかもしれないけど、せっかくの厚意だ。


 わたしは素直に甘えさせてもらうことにしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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