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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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誘う声

「まさか……、倒れるとは……」


 セントポーリア国王陛下は目の前で崩れ落ちた高田を抱き抱え、沈痛な面持ちでそう言った。


 その姿を見て、少しだけ胸が痛む。


 今まで、母親が自分のためにひた隠しにしてきたことを、知らなかったとはいえ、自分自身を持って伝えてしまったのだ。


 それも、誤魔化すことも言い逃れもできないほど完璧な状態で。


 確かに母親自身からは、「自分自身のことは話しても良い」といわれていたが、これは別問題だろう。


 母親自身はずっと隠していたのだから。


 だから、そのまま感情とともに爆発しそうになったのだ。


 だが、その結果、周りにもたらす被害を彼女自身は理解できている。


 そのために、混乱しながらも、自分自身で「魔力の暴走」と呼ばれる現象を抑えようとしていた。


 だからオレは……。


「ツクモが、誘眠魔法を使ったのだろう?」


 情報国家の国王が問いかける。


「はい」


 それを誤魔化す気はなかった。


 あんな状況でオレにできることなど限られている。


 本来、「誘眠魔法」はこの国や城にある結界に攻撃魔法と見なされる可能性はあるが、幸い、ここは大聖堂の地下にある契約の間だ。


 ここに限り、魔法に対する結界は働かないようになっていることをオレは知っている。


 高田は、自分の心よりも周囲を気遣った。

 それなら、オレは彼女の護衛として、その意思を尊重する以外の選択はない。


「ツクモが……?」


 どこか呆然としたまま、セントポーリア国王陛下はオレを見る。


 オレがやったことは、彼女に対する攻撃だと受け取られても仕方がないことだ。

 まだ何もしていない高田を、オレは魔法を使って無理矢理、眠らせたのだから。


「そうか……」


 セントポーリア国王陛下はそれだけ言って、腕の中にいる高田をぎゅっと抱き締める。

 その胸中は、オレには分からない。


「ツクモを責めるなよ。こいつは最善を選んだだけだ」

「分かっている。感謝こそすれども、恨み言など吐く気はない」


 情報国家の国王の言葉にセントポーリア国王陛下は彼女を抱き締めたまま、顔を上げずに返した。


「……効果はどれぐらいだ?」


 睡眠効果のことだろう。


「分かりません。この魔法を彼女に使うことはないので」


 高田は魔法耐性が高い。

 いや、高くなった。


 万全の体勢でいる時の彼女の精神に作用するような魔法は、もう水尾さんぐらいしか使えないと思っている。


 だから、不意を突かない限りは、こんなに簡単にオレの魔法で意識を奪うことなどできないだろう。


 今回は、彼女が混乱し、精神的にも弱ったために魔法に対して無防備となったから効いたのだ。


 そんな高田に有効なのは、薬である。

 それについてはオレたち兄弟と違って、彼女はほとんど慣らされていない。


 だから、睡眠薬、睡眠導入剤はかなり効果的が見込まれることだろう。


「それにしては手慣れていたが……」

「以前、似たような場面に遭遇したことがありまして……」


 あれは、セントポーリア城下の森で、水尾さんを発見した時だった。


 謎の集団によって、国が消滅し、自身も傷つきながらも、他国へ移動してきた彼女は、突然のことに、混乱し、その膨大な魔力を暴走させかけたところを……、千歳さんによって眠らされたのだった。


 何もできなかったあの頃よりは成長した――――。

 オレは、そう思っても、良いだろうか?


「とりあえず、ハルグブン。シオリ嬢をなんとかしよう。それでは彼女も落ち着いて眠れまい」

「…………分かった」


 そう言って、セントポーリア国王陛下は高田を抱えたまま立ち上がると……。


「彼女を安全な所へ……」


 そう言いながら、オレに彼女を託してくれた。


 ずっしりと、腕に重みが伝わる。

 もう何度、抱えたかも分からない彼女の身体は、今までで一番重く感じた。


「それでは、御前、失礼します」


 オレは一礼し、退室しようとしたが……。


「待て」


 情報国家の国王に止められる。


「ツクモ、シオリ嬢を置いたら、またここに来い」

「……はい」


 それは、オレに用があると言うことか。しかも、高田がいない場で。

 恐らくは……、彼女の出自についての話となるだろう。


「兄は……、無理か」


 情報国家の国王は探るような視線を向ける。


「申し訳ありませんが、難しいと思います。自分の身体もまだ碌に動かせないみたいですから」


 あらゆる意味で、今の兄貴では無理だ。

 これ以上、状態を悪化させたくもない。


「ならば、通信珠で良い。話を聞かせてやれ。ユーヤは聞く必要がある。いや……、ユーヤこそ聞く義務がある」

「…………分かりました」


 セントポーリア国王陛下より命令に近い言葉を受けた以上、兄貴も無関係ではいられない。


「それでは、改めて、御前、失礼いたします」


 再び、オレは二人に礼をして、退室した。


****


「栞ちゃんが、神剣『ドラオウス』を抜いてしまったか……」


 兄貴は途切れがちな溜息を吐く。


「悪い。完全にオレのミスだ」


 その剣の鞘にそんな機能があることは知らなかった。


 いや、普通は知らないことなのだろう。


 だが、問題はそこではなく、彼女の近くにいながらも、その行動を止めることはできなかった点にある。


 悔しいが、オレ自身も、あの剣をよく見たいと言う欲求があったことも否定できなかった。


「それは当然だ」


 兄貴は容赦なく言い切った。


「だが、それよりも、今後の対策を一つでも多く考えろ。その中には使えるものもあるかもしれないからな」


 兄貴は力強く言い切った。


 胸部が痛むのか、時折、顔を歪めながら。


「昨日の分の報告書の追記がこれで、今日の分についてはもう少しだけ待ってくれ」


 流石にさっきの今で纏められる時間はなかった。

 いや、大筋は纏めたが、詳細をまだ記録できていないのだ。


「分かっている。どちらかといえば、ここからが本番だ。リヒトを付けてやりたいが、指名されたのはお前で、俺にもこの場で介助が欲しい。悪いが、ここで音声だけ拾わせてくれ」

「おう」


 オレは目線を、少しずらす。


「高田のことは頼んだ」

『分かっている。シオリは、俺がここで護る』


 褐色肌のリヒトは強い意思を秘めた瞳を向けながら、頷いた。


「情報国家の国王と、セントポーリア国王陛下は、何を話す気か……、予想は出来るか?」

『それを俺が言う立場にない』


 それが、分かっていれば対策の立てようもあるだろうが、リヒトは首を振る。


 基本的にこの男は、他人の心を読んでしまっても、必要以上に語りはしない。

 オレたちと接した僅かな期間で、かなりの判別、そして、判断が自分でできるようになった。


 ズルはできない。


『それぞれに思惑がある。それを事前に俺が口にしてしまえば、その場でツクモが混乱するだろう』


 まるで先を視たような発言に、オレは苦笑する。


「そうだな。その通りだ、リヒト」


 もともとオレは、「(I’ll )たと( just )こ勝( wing )( it)」の人間だ。


 難しく考えるようにはできていない。


 それならば、「なる(Que )ように( sera )なる( sera)」で臨むしかないだろう。


「通信珠の許可が下りたのは、幸いだったな」


 これまでの会話もリヒトを通して知っているとは言っても、離れた距離での通訳はいろいろと大変だったことだろう。


 それに、リヒトが読めるのは、心の声なのだ。


 実際に、口から出る言葉ばかりではないし、発言者本人が思ってもいなかったことを口にされた時なども、聞こえないらしい。


『大丈夫だ。あの曲者たちを前に会話しなければならないツクモほどではない』

「セントポーリア国王陛下も、曲者か」

『ああ、相当な食わせ者だな。さり気なくシオリに剣を渡したことからも分かるだろう』


 そのリヒトの言葉で、オレも気付く。


「……あれはわざとだったのか」

『期待半分といったところか。シオリが剣に興味を持たなくても、さらにその剣を抜こうとしなくても、これまでとは状況が変わらないのだ。ならば、賭けに出ても損はない』


 確かに、セントポーリア国王陛下は、無理に抜かせるようなことはしなかった。

 どちらかと言えば、警告したぐらいだ。


 だが……、それでも高田は抜いてしまった。


『ただ……、アレはユーヤであっても、止められない。シオリはあの剣に引き寄せられたみたいだからな』


 その言葉には救われる。


 その横で、兄貴は「こいつを甘やかすな」とか言っているけど。

 だが……、リヒトはさらに言葉を続ける。


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ここまでお読みいただきありがとうございました。

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