初めての共同作業
「「お暇なのですか? 情報国家の王」」
「ハルグブン、シオリ嬢。二人して、声を揃えて言うなよ」
剣術国家の国王陛下と模擬戦をし、母の話をした次の日。
わたしはまた、剣術国家の国王陛下と会うことになった。
今回は、母はいない。
そして、わたしの連れは、いつものように九十九だけ。
今日は母がいないため、九十九は壁に寄る必要もなく、わたしのすぐ傍に控えている。
そして……、何故か今日も笑顔の情報国家の国王陛下がいた。
「こんな面白い物を見るなと? 無理だろ」
「本当に暇なのだな、情報国家の王」
「暇は作るものなんだよ。それに、そろそろ、シェフィルレートにも仕事を振らねばならないからな」
「ああ、シェフィルレート王子は、もう18歳だったな」
「お前のとこのダルエスラーム坊もだろ。少しシェフィルレートの方が生まれは早いが……」
わたしはチラリと目配せをする。
それを受けた九十九は溜息を吐きながら、小声で言った。
『セントポーリアのダルエスラーム王子は、知っていると思うが、お前より10か月ほど上だ。そして、イースターカクタスのシェフィルレート王子は、それよりさらに半年ほど早かったと思う』
九十九は、何気に各国の主要人物の情報が頭に入っている。
こんな時は本当に助かるね。
『少しはお前も覚えろ』
『わたしは各大陸言語を覚えるので精いっぱいなんだよ』
スカルウォーク大陸言語がなんとなく分かるようになったから、今度はウォルダンテ大陸言語だろう。
もしくは、フレイミアム大陸言語か。
既に基礎が入っているライファス大陸は最後らしい。
「ただ、シオリ嬢の攻撃手段はほとんどないらしいから……、このままやっても昨日の二の舞になるだけだろう。そこで!」
「「そこで?」」
わたしとセントポーリア国王陛下の声が重なる。
それがなんとなく、気恥ずかしい。
「シオリ嬢とツクモが、共闘して、ハルグブンに挑め」
「「はい?」」
今度は、わたしと九十九の声が重なった。
「なるほど……、それも面白そうだ」
セントポーリア国王陛下はニヤリと笑った。
「陛下! それは、いくら何でも無理ですよ」
九十九が反応する。
「何故だ? 俺はツクモの今の力も見たいのだが?」
「実力が違いすぎます!!」
「おっや~? ツクモは、シオリ嬢の護衛だろう? もともと主人を護りながら戦うものではないのか?」
情報国家の国王陛下が九十九を揶揄うように言う。
「それとこれとは話は別です」
だが、九十九はその程度では揺らがない。
既に一度痛い目を見ていることもあるだろう。
ところが、ここで、とんでもない方向から指摘が入った。
「だが、先日ツクモは、ここでグリス王と勝負をしたのだろう?」
「ぐっ!!」
確かにアレは護衛と関係ない部分の話だった。
「それならば、受けてくれるよな? ツクモ、シオリ」
そう言われてしまえば……、残念ながら、九十九は「国王陛下」に逆らえない。
セントポーリア国王陛下は、見た目によらずなかなか強かだった。
まあ、会合でもそんな感じだったけどね。
「情報国家の国王陛下が、簡単に情報を提供して良いのですか?」
わたしが、情報国家の国王にそう言うと……。
「その結果、得られる情報が大きいからな」
あっさりとそう返された。
そこに守秘義務はないらしい。
いや、確かに内緒にするほどのことでもないのだけど。
それに、国王陛下に口止めをしたわけでもないからね。
「それに……、ツクモと共闘経験はないだろう?」
「言われてみれば……、確かにないですね。彼の横に立てるほど、わたしがまだ強くないので」
いつも一方的に守られるだけだった。
彼が前に立って庇われることが普通だったのだ。
だけど……、確かに守られるだけでは成長できないのは確かである。
「それならば、ちょうどよい機会だと思わないかい? シオリ嬢」
金髪の王さまは微笑む。
この顔はズルいな~。
「騙されるな、高田!」
「ごめん、九十九。わたしが、やってみたい」
そう言うと、九十九が押し黙る。
「……お前、攻撃手段ないだろ?」
「うん、ない」
わたしは素直に頷く。
「その時点でオレがすっげ~ハンデを背負うって分かってるか?」
「分かる」
さらに頷く。
「お前を護りながら、陛下に攻撃ってかなり辛いぞ」
「でも、やってみたいでしょ? 他国の王さまもだけど、自国の王さまの魔法を間近で見る機会なんてないから」
「…………ないな」
「せっかくだから、一緒にやろうよ。九十九と一緒なら心強い」
「お前はまた……」
九十九が頭を押さえる。
最近、この仕草が増えた気がする。
「分かりました。未熟ながら、お相手をさせていただきます」
九十九も観念したようだ。
言われてみれば、九十九と一緒に戦うって本当に初めてだった。
水尾先輩との模擬戦も、基本はわたしだけが彼女の攻撃を食らうだけとなっているし。
しかし、二人同時に相手をすることに全く躊躇いがないとは……、王さまってそれだけ凄いんだね。
「ハルグブン、手を貸そうか?」
「それじゃあ、意味がないだろ?」
それにしても……、セントポーリア国王陛下と情報国家の国王陛下は本当に仲が良いよね。
そんな経緯を経た九十九と初めての共闘結果は……。
「なかなか見事だったな」
情報国家の国王陛下が思わずそう呟いてしまうほどのものだった。
わたしは、グッと右拳を握り締める。
「話にならなかった……」
自分自身でそう言いたくなるほど、見事なまでの大敗だったのである。
それも、お話にならないというレベルではない。
開始後、5分も経たないうちに、二人して壁に叩きつけられた。
原因は分かり切っている。
普通、共闘は個々の能力を合わせて、足し算となるように思われるが、現実は違う。
組み合わせ次第では、プラスにもマイナスにもなるのだ。
そして、それぐらいのことは、わたしでも知っている。
でも、意外にも足を引っ張るのはわたしではなく……。
「敗因はツクモだな。シオリ嬢を庇いすぎる」
やはり、そう思ったのはわたしだけではなかったようだ。
護衛の本能からか、日頃の習慣か。
どうしても、九十九はわたしの前に出てしまうのだ。
確かに風魔法の耐性は低くなくても、王族の攻撃を正面から受け止めようとすれば、吹っ飛ばされるのは当然だろう。
「攻撃が前に出るのが悪いとは言わないが……、攻撃も防御も補助も回復も全て一人でやるには、相手が悪い」
情報国家の国王陛下は冷静にそう言い切る。
「いたた……」
わたしはゆっくりと身体を起こす。
そして、横で倒れている九十九の状態を確認する。
脈も呼吸も大きな乱れがないようだけど、頭は打っているかもしれない。
こんな時って、下手に動かさない方が良いかな?
「シオリ嬢は意外にも頑丈だな。傍のツクモの意識は飛んでいるようなのに……」
「叩きつけられる寸前に、九十九から庇われましたから」
ただ、そのために、自分の自動防御の働きも悪かったのだ。
どうしても、彼がちらついて、下手に防御すると、どうしても巻き込んでしまう。
「一人で戦うことが慣れ過ぎている動きだな」
セントポーリア国王陛下も衣服の埃を払いながら、そう言った。
昨日と違って、短時間で決着がついたためか、息も乱れていない。
でも、言われてみれば、雄也先輩と九十九の二人ですら、肩を並べて戦うところを見たことがない。
強いて言えば、セントポーリアとジギタリスの国境近くの村で、アリッサムの人たちに囲まれた時……ぐらいかな?
「多対一は慣れていると思います。でも……、確かに誰かと共に戦うことは不慣れかもしれませんね」
「シオリ嬢もそのようだな」
「わたしはもともと戦力外通告だったので……。魔法を使えるようになったのも数ヶ月前ですし」
「「数ヶ月前!?」」
わたしの言葉に、セントポーリア国王陛下と情報国家の国王が揃って驚きの声を上げる。
「魔力の封印を解放したのは、二年も前ではなかったのか?」
それはセントポーリア国王陛下にも伝わっていたらしい。
情報源は母だろう。
「魔力の封印を解放しても、魔法はずっと使えなかったのです。その……、どうしても、形にならなくて。解放した直後は、無駄に魔気が暴発していたために、抑え込むことを必死になっていた覚えがあります」
わたしは、いきなりの大気魔気の変化に耐えられなくて、上手くできなくて……。
そして、この場所で、水尾先輩から魔気の調節を学んだのだ。
「まだ赤子のような状態……ということか」
「いや、赤子よりも成長している分、これまで得た知識が邪魔している可能性が高い」
セントポーリア国王陛下と情報国家の国王陛下が何やら話している。
その間にわたしは九十九に近付いた。
「九十九……、生きている?」
反応はない。
でも、彼から感じられる体内魔気は落ち着いているので、命に別状はないだろう。
「いつも……、守ってくれてありがとう」
そう言って、彼の額に手を置く。
じんわりと汗でぬれているためか、前髪が少しだけ湿っている。
治癒魔法をかけようかとも思ったけれど……、わたしの治癒魔法は風で吹っ飛ばしてしまうため、この場所では壁や床に叩きつけて止めになってしまうかもしれない。
それに、見たところ、外傷はなさそうでもあるので、このままの方が良いだろう。
しかし……、共闘、協力プレイが苦手か……。
もしかして、わたしたちって相性が悪いのかな?
ここまでお読みいただきありがとうございました




