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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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王たちの語らい

「随分、話が弾んでいたみたいじゃないか……って、どうした? 歳か?」

()より年上の貴方には言われたくないな」


 突っ伏しながらも、剣術国家の国王は情報国家の国王に答えた。


 近くには酒瓶が転がっているが、酒の入ったグラスは一つなので、彼女がいなくなった後で、飲み始めたのだろう。


「もう少し、何かが違えば……、俺はチトセやシオリともっと一緒にいられただろうか?」


 酒を飲んでいるとはいえ、剣術国家の国王らしくない言葉に、情報国家の国王は、彼にしては珍しく言葉が喉に詰まった気がした。


 彼との付き合いは互いが、王子時代からの話だ。


 尤も、今のような付き合い方になったのは、互いが国王になった後、一人の女性が影響しているが、少なくとも、お互いの少年時代を知っている程度には、交流があった。


 それでも……、そんな腑抜けたことを言ったことは……少ない。


「随分、切れ味が悪いじゃないか、剣術国家の国王陛下ともあろうものが」

「もともと(なまく)らだからね。俺の剣は……」

「神獣でもぶった切るような剣を携えて、何を言ってやがる」


 少なくとも、この世界において、神獣と呼ばれるような生き物に傷を付けられるようなものは限られている。


 有名どころで言えば、魔法国家アリッサムに伝わっていた神杖「ディナウ」、法力国家の大神官が持つ聖杖「ラジュオーク」、弓術国家ローダンセが秘蔵する神弓「ウォブ」、そして、剣術国家の王が携える神剣「ドラオウス」。


 尤も、実際、どれも神が遣わす神獣に向かって使用されたという記録はない。


 ただ一つ、剣術国家の国王が携えている神剣「ドラオウス」を除いて……。


「ダルエスラーム坊は……使えるか?」

「無理だ」

「そうか」


 その短い会話だけで、二人には通じていた。


 それ以上の言葉はいらないのだ。


「そんなにシオリ嬢を気に入ったのか?」

「ああ。母親に苦労させている原因に対しても、物怖じせず、キラキラした愛らしい瞳を向けてくれた。あの娘を気に入るなという方が俺には無理だ」


 剣術国家の国王は溜息を吐いた。


 いっそ、もっと普通に自分を責めてくれるような娘だったら良かったのに……。


「あの頃のチトセによく似た瞳で、『母との話をもっと聞きたい』って言われたら……、もう駄目だった」


 そう言って、突っ伏したまま、右手で顔を押さえる剣術国家の国王のその姿は、まるで、思春期の少年のようだと情報国家の国王はやや呆れてしまう。


 確かに、あの少女は、人の懐に入るのがうまい。


 そして、それが、全く計算されていないというのが、情報国家の国王にとっては羨ましくもある。


「シオリ嬢は、俺からの申し出に対して、そんな可愛いことを言ってくれなかったぞ」

「貴方に言えば、見返りを求められるからだろう」

「彼女に求める気はないのだがな」


 チトセの娘からそんなものは必要ない。

 ()()()()には既に返しきれない恩が数多くあるのだから。


「また明日も会ってくれる、とも」

「それは良かったな」


 情報国家の国王は笑いながら、近くにあったグラスをとる。


「久しぶりに飲むか」


 そう言いながら、少しの間、二人は飲み交わしたのだった。


****


「そろそろ、真面目な話をするから……。顔を上げろ、ハルグブン」

「シェフィルレート王子には渡さないぞ」


 剣術国家の国王は、身体を起こすなり、そう言った。


「おいこら。話題は間違ってないが、最後まで言わせろ」

「貴方の息子の評判を、俺が知らないと思うか?」

「……思わん」


 彼の息子は……、まあ、他国に聞こえるほどの浮名を流している。


 それが情報国家特有の表向きの造られた顔ならば問題ないが、彼は、表も裏も、艶聞しかないのだ。


「愛妾ばかりの親衛は止めろと言ってはいるのだが……」


 彼の息子は、身の周りに男を置かないことでも有名であった。


 当人曰く「周囲の油断を誘えるし、大多数の男の口は見目の良い女で軽くなる」と、一応、もっともらしい理由はあるために、情報国家としては、強く言えない部分はあった。


「チトセのことを言う前に、自分の息子の躾をしておいて欲しいものだな」

「チトセにも似たようなことを言われたな。もっと、息子を躾ておけと」


 勿論、チトセはそんな意味で言ったわけではない。


 彼女も、友人の放蕩息子と言っても、王族の枕添いにまで口を出す気はなかった。


「次代については、お互い、頭が痛くなるな」

「俺は痛まない。隠居した後など、知らん」


 にべなく剣術国家の国王は言い捨てた。


「真面目な剣術国家の国王のお言葉とは思えませんな」

「もともと押し付けられたようなものだ。国は好きだし、国民も愛しているが、王族という歴史は好きじゃない」


 特に自国の歴史を深く学ぶほど、その気持ちは強くなっていく。


「その点については、同感だな。俺も好きで国を継いだわけではないが……、お前みたいに『王族滅べ』とまでは思っていない」

「その『王族の約束事』によって、我が国同様にいろいろと面倒ごとになった方が何を言う?」

「うるさい。これだから、いろいろと知っているヤツは面倒なんだ」


 表沙汰にできない醜聞の数では、困ったことに、情報国家も剣術国家には負けていなかった。


 どの国にもある光と影。

 それは歴史を重ねれば重ねるほど色濃くなっていく。


「お互い様だろう? 少なくとも、共通の秘め事があるってことだよ、情報国家の国王陛下。まあ、俺はチトセほど貴方の事情に明るくはないけどね」

「あいつには丸裸にされたからな」


 情報国家の国王は目の前のグラスに入っている液体を口に含みながらそう言った。


「……チトセは、()()()()()()()()()()()()だからね」

「そっちは()()()()()だろ。こっちは精神的な話だ」

「分かってるよ。グリス王は、チトセに悪さはしない。その後が怖いことを知っているからね」

「そうだな」


 カランと目の前のグラスが音を立てる。


 いろいろと突っ込みどころの多い会話ではあるが、困ったことにこれが事実なのだから、仕方ない。


「だが……、シオリ嬢の相手はどうするんだ? あの時の子だから、確か……、今、17歳だろう? まさか、あの兄弟2人とは言わないよな?」


 それはそれで、面白そうだとも情報国家の国王は思う。


 少し話しただけでもあの兄弟は面白いのだ。


 弟は弟で素直で純粋な反応が楽しく、兄は兄で、強くあろうと虚勢を張ろうとする姿が実に楽しかった。


 だが、これに関しては人物の面白味でなんとかなる問題ではない。


 何より、彼女は決まり事を重視するセントポーリアの人間だ。

 どうしても、当人が知らない様々な制約はある。


 尤も、それをなんとかする抜け道も、情報国家の国王は知っているが、この堅物がそれを容認するかは別の話なのだ。


「誰にもやらん」

「は?」

「誰にもやらんと言っているんだ。ダルエスラームには勿論、ユーヤやツクモなどあの娘が信頼している人間でも、この国の大神官のような男であっても……」

「いや、お前……、それはシオリ嬢が気の毒すぎるだろう」


 他国がこぞって引き抜きたがるほどのこの国の大神官。

 そして、そんな男でも、ダメという国王。


 それでは、笑えるぐらい、彼女の選択肢がないような気がする。


 そう言えば……、この男は物欲が少ない割に、これと思ったモノに対しては、呆れるぐらい独占欲が強かったよなと、今更ながら、情報国家の国王は思い出す。


 一つのモノにほとんど執着しない自分にとっては、眩しい限りであるのだが。


「ところで……、お前、そんなに飲んで大丈夫か?」

「今は、飲みたい気分なんだよ」


 先ほどから、ペースがいつもより早い。


 それに口調がどことなく幼くなっていたと思ったら……、剣術国家の国王は、既にほろ酔い状態であった。


「お前……、本当に王族らしくないよな。酒に弱すぎる」


 この世界では、アルコールを含んだ飲食物は、自分の能力を一時的に上げるため、好まれる傾向にあった。


 肉体もそれを理解しているのか、かなりの美味さを感じるようになっている。


 ただ……、体質と言うものはどうしてもあるようで、情報国家の国王は酒に強く、剣術国家の国王は、普通だった。


 ……普通である。

 決して、弱くはない。

 寧ろ、一般的には強い部類に入る。


 単純に情報国家は、そのお国柄のため、幼い頃より慣らされているだけだ。


 そして……。


「チトセよりは強くなりたいなあ……」

「あの女と張り合うな。アレは『(トネパラス)(ジュウジ)』だ」


 世間では「酒飲み」の異名である「(ジドラル)(キエネス)」と呼ばれている情報国家の王だったが、かの女性はそれを凌駕する。


 過去に情報国家の国王を酔い潰した唯一の異性だった。


「いつか…………とも、……飲めるかなあ」


 再び、机に突っぷしながらも、どこか夢見心地で呟く剣術国家の国王。


「……その時は是非、ご相伴させていただきたいものだな。シオリ嬢と飲む酒は旨そうだ」


 新たな酒をグラスに注ぎながら、情報国家の国王も答えたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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