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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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さり気なく

「ほへ?」


 目が覚めたら……、そこは見慣れない天井があった。


 周囲は妙にキンキラキン。

 さり気なくもないきらびやかな光。


 ん?

 あれはギンギラギンだっけか?


「目覚めたか?」


 そこには……、よく見知った黒髪、黒い瞳のいつもの少年……ではなく……、金髪に青い瞳の男性の姿があった。


「ふおうっ!?」


 うっかり出てしまった素の声。


 そして、目を丸くする……、剣術国家のセントポーリア国王陛下。


 しまった!!

 寝起きで油断しすぎていた。


 いやいやいや?

 何が、どうなって、こうなった?


 混乱するわたしをよそに、セントポーリア国王陛下は何故か大笑いをした。


「それがそなたの本当の姿か? シオリ」


 そう問いかけられることが、妙に恥ずかしい。


 本当の姿かと言われたら、今のは油断していました……、としか答えようがない。


 いつもは、もう少しマシだと思うけど……、九十九の態度や言葉を見る限り、間違ってもいない気がする。


「ならば、力を抜け。今は、俺とそなたしかいない。グリス王にも、ツクモにも、チトセにも場を外してもらった」

「無理です」


 わたしは思わず即答した。


 いや、普通に考えても、庶民でしかないわたしが、中心国の王さまと一対一で力を抜いてお話なんて無理でしょう?


 情報国家の国王陛下と対面する時だって、必ず九十九か恭哉兄ちゃんがいてくれたのに……。


「俺と話すのは嫌か?」

「ぐっ!!」


 なんだ?

 この三十代後半。


 今の顔と台詞は結構な破壊力だった。


「俺はシオリと話したかった。ようやく、ゆっくりと話せることを嬉しく思うぞ」

「……少しだけ……なら」


 そこまで言われて拒絶できるはずもない。


 かなり緊張するけど、それでも……、そんなわたしでも良いのなら。


「それと……、わたしは国王陛下に対しての礼儀を存じません。知らずに不敬を働いてしまうこともあると思いますが……」

「いや、そなたを見た限り、以前会った時よりも十分、礼儀を学んでいることは分かる。それに、出会った頃のチトセほどではない」


 どこか遠い目をするセントポーリア国王陛下。


 母?

 もしかしなくても、情報国家の国王陛下以外にも何か、やらかしていますか?


「チトセには、初対面で張り倒されたからな」


 その言葉に思わず、「あなたもでしたか!? 」と叫ばなかったわたしを褒めてください。


 確か、情報国家の王さまも、初対面でビンタを食らったとか言ってなかったっけ?

 わたしの母は、随分、暴力的だったらしい。


 今の母からは想像もできないのだけど。


「そ、それは……、母が大変なご無礼を……」

「いや、あれは俺も悪かった。チトセが着ていた服が見慣れなかったので、つい、その、裾を捲り上げてしまって……」


 ああ、それは、母もビックリしただろうね。


 母は、この王さまに拾われたと聞いている。


 つまり……、魔界に来ていきなりスカートの裾を(めく)られたのだ。

 当時、15歳の「普通(?)の女子高生(?)」だった母の羞恥は少し想像できた気がした。


 それでも……、男の人を張り倒すってどれだけですか?


「それまで……、同年代の女性についてほとんど知らなくてな。チトセにも大変、恥ずかしい目に遭わせたと反省はしている」

「同年代の女性を知らなかった? ミヤドリードさんは?」


 確か、母よりも先にセントポーリア城で生活していた聞いていたのだけど……。


「ミヤドリードは、チトセが城に住まうまで、俺の前にほとんど姿を見せたことがなかった。いや、俺が、それまで城内に目を向けていなかっただけかもしれない」


 戸惑いがちに説明してくれるセントポーリア国王陛下の言葉に、なんとなく、頬が紅くなってしまった。


 それって、遠回しに、母が城に来たから、城内に目を向けるようになったってことだよね?


「えっと……、その……、現王妃殿下も城に住まわれていたのでは?」

「王妃……、トリアはあの頃、北の塔からほとんど姿を見せたことがなかった。トリアが北の塔以外の場所で見かけるようになったのは……、ああ、それも、チトセが来てからだった気がするな」


 それって、王子が自分以外の女を外から連れ込んだから、現王妃さまも焦ったってことでしょうか?


 まさに愛憎劇!

 これぞ昼ドラの世界?


「他に聞きたいことはあるか? なんでも答えるぞ?」


 確かに今なら何でも答えてくれそうな気がする。


 だけど、あんまり直球なのは難しいかな。


「では、お言葉に甘えまして……、陛下は、わたしに昔の記憶がないことはご存じでしたよね?」


 確か、一度だけ会った時にそんな話をした覚えがある。


「その件に関しては、ユーヤから報告を受け、チトセからも話を聞き、さらに先日、挨拶に来たツクモからも聞いている」


 そう言って、セントポーリア国王陛下はわたしに優しい瞳を向ける。


「苦労したな」

「いえ、苦労したのはわたしではなく母です」


 わたしがきっぱりと答えると、セントポーリア国王陛下は少し目を伏せた。


「そうだな。チトセには本当に今も苦労をかけている」


 それについては否定しない。

 実際、母は必要以上に苦労をしているから。


 だけど……。


「以前、お伝えし損ねましたが、若き日の母を救ってくださったことに心から感謝いたします」


 わたしはそう言って頭を下げた。


 この方が、気まぐれで母を保護しなければ、母はこの世界で生きられたかどうかも分からない。


 もしかしたら、情報国家が保護した可能性もあるが、そうなると……。


「陛下が母を保護してくださったおかげで、わたしは今、ここで陛下とお話することができます」


 国王陛下が目をパチクリとさせた。


 あれ?

 意味が伝わらなかった?


 自動翻訳が仕事していない?


「そうか……、そうだな……。あの時、チトセと出会わなければ……、俺はこうしてそなたと話すことはなかった。それは間違いない」


 そう言いながら、セントポーリア国王陛下は目頭を押さえた。


 もし、最初の対面の時、この台詞を口にしていたら……、ここまで感動してもらえただろうか?


 いや、あの時のわたしは本当にいっぱいいっぱいで、そんな心の余裕もなかった。


 勿論、今もあるわけではないけれど、それでも、あの頃よりは成長できている気がする。


「チトセと出会った日のことを、俺は今でもはっきりと覚えている」


 国王陛下は目を押さえたまま、突然、そんなことを口にした。


「グレナダルを連れて、いつものように城下の森へと降りた時のことだ」


 あれ?

 グレナダル?


 なんとなく、その言葉の響きに覚えがあるような……?


 だけど、国王陛下は構わず続ける。


「黒くて、見慣れない服を着た娘が倒れていた。それが……、チトセだ」


 確か、出会った時は制服だったと聞いている。


 それをセントポーリア国王陛下との初対面時に、わたしが着ることになったのですが……。


「陛下は……、母がどのようにして現れたか。ご存じないですか?」

「残念ながら、俺はチトセがこの世界に呼ばれた瞬間は見ていない。恐らく……、誰も見ていなかったのだろう。それだけ……、あの城下の森は人が来ないところだ」


 そんな所で、以前、わたしは迷子になってしまったのですね。

 だけど、それすらも今に繋がっていると思うと、本当に不思議だと思う。


「ただ……、あの日。いつもよりグレナダルが騒いだ。早く、森へ連れて行けと」

「あの……、そのグレナダルさんとは一体……?」


 騒ぐって友人?


「あ? ああ、グレナダルは『翼馬族(よくばぞく)』のことだ。俺とは兄弟同然に育った。ダルエスラームが連れているグレースの二代前に当たる」

「『翼馬族(よくばぞく)』……?」


 確か……、天馬のことだったはず。


 あの時、セントポーリアの王子も天馬を「グレース」と呼んでいた。

 でも……、二代前?


「グレナダルはもういない。『翼馬族(よくばぞく)』の寿命は二十年ほどで……、子供と引き替えに死ぬ」

「……それは……」


 それが寿命だと知っていても、兄弟同然に育ったものがいなくなったなんて辛かっただろうなとは思う。


 知らなかったとはいえ、余計なことまで話させてしまった。


「そのグレナダルの今際に会わせてくれたのもチトセだった。そして……、彼女は『グレナダル』の()()()()()()()()()()のだ。そんな義務など誰も押し付けてもいなかったのにな」

「あ……」


 その言葉で気付いた。


 会合の時、九十九は母の名を「チトセ=()()()()()=タカダ」と言った。


 先ほどから耳にしていた「グレナダル」とは、母のセカンドネームに入っていた名前だったのだ。


 それで聞き覚えがあったのか。


「押しつけではなかったなら、母は自分でその名を受け入れたかったのでしょう」


 わたしは素直にそう思った。


 あの母が、押し付けられた名前で満足するはずがない。

 絶対に、自分の意思だったと思う。


 同時に、わたしの母は本当に、どれだけ……得体が知れないのだろう。


 今までわたしが知っていたのは、ほんの一面でしかなかったということらしい。


 もっと知りたい。

 できれば……、この方の視点で。


「母の話を、もっと聞かせていただけますか?」


 気付けば、わたしはそんなことを口にしていたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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