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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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確率の話

「あんたら、こいつを『あの御方』とやらに捧げるって言ったよな? 女の方が入用ってことは、『あの御方』とやらは男なのか?」


 九十九はそんなことを口にする。


『そうだよ。でも、何の目的かは知らな~い』


 いやいや、女の方を捧げるからと言って、それを望んでいるのが男って考え方はどうなの? と九十九に突っ込みたかったがぐっと我慢する。


 実際、男性だったわけだし。


『供物か何かだろうけどな。その気になれば、いくらでも女は手に入る方だ。それなのに、何故、その娘に拘ったのか』


 供物……、生贄ってことかな?


 しかも、そんな黒魔術の儀式みたいな単語が出てきたってことは、宗教関係者? それも、カルト系?


 確かに、それなら、この思い込みの激しさと、強引な展開にも合点がいってしまうんだけど……。


「オレは偶然、こいつに会ったんだが、今日でなければ駄目だったのか?」


 九十九は尚も続ける。


 こんな状況だと言うのに、声は震えず、彼は堂々としていた。


『確かに指定は今日でしたね。今日でなければ、あなたも巻き込まれずにすんだのかもしれませんが』

『あら、不運』


 いや、それを「不運」の一言で片付けますか?


 なんだかよく分からないけど、わたしがカルトな方々に狙われて、そこにたまたま居合わせた人間が小学校卒業後の約三年間、一度も会ったことがなかった九十九だったなんて……。


 数奇な巡り合わせとは言え、あんまりといえばあんまりな話。


 そんな確率はその辺での交通事故以上に低いのではないだろうか?


 彼には何も非がないのに……。

 いや、わたしにもないはずなんだけどさ……。


 それに、こんな状況だと言うのに、取り乱しもせず、妙に落ち着き払っている九十九がすっごく気になる。


 ちらりとその表情を見たけど、彼が何を考えているのか全然、分からなかった。


 そして、いろいろ口を挟みたい。

 この突っ込み魂が叫んでいる。


 でも、九十九から『黙ってろ』と言われた以上、もう少しだけ、黙っておこう。

 それに、わたしだってよく分からないまま、勝手なことをされるのは嫌だ。


「口ぶりからすると依頼人は身分が高そうだな。そいつの名前は?」


 思わず「え?! 」……っと、声に出しかけてなんとか止めた。

 九十九の口から、『身分』という言葉が出て正直驚いたのだ。


 通常、日常会話の中で『身分が高い』という言葉はそんなに使わないと思うのだけど、相手の方は気にもしなかったようだ。


『てめえに言っても分からねえよ』

『知ってても怖いしね~』


「まあ、確かにそうだな。じゃあ、代わりにあんたらの名は?」


 名前?


『聞いて、どうする気ですか?』


 わたしもそう思う。


「どうもできると思うか? 殺されると分かっているなら、せめて、相手の名ぐらい知っておきたいものだろう?」


 九十九は平然とそう言うが、彼のその理論は、わたしにはよく分からなかった。


 これって、あの漫画やゲームでよく見る「冥土の土産」ってやつになると思うけど、現実的には殺されると分かっていて、相手の名を知ったところで何になる? って気がする。


 最後の力を振り絞って、推理小説や漫画によくあるダイイングメッセージを書いた所で、こんな所じゃ発見もされないとも思うし。


 でも、相手の一人は何故か納得したようで、口を開いた。


『そうだね。じゃあ、教えてあげようか』

『待ちなさい』

『どうして?』

『妙だとは思いませんか? この人間。先ほどから、わたしたちの情報を引き出そうとしているようにも思えます』

『気のせいだろ? そんなことただの人間がして何になるのさ』

『そうそう。「魔力」だってまったく感じないし』


 ……「まりょく」って何?


 この場合、魔の力?

 それとも、魔法の力?


『それが、妙なのです。元来、ただの人間にも多かれ少なかれ「魔力」を備えているもの。しかし、この2人からはまったく「魔力」を感じません』


 つまり……、わたしにも九十九にも、「まりょく」ってやつはないのか。 


『たまにいるだろ? そんなやつも』

『確か……、一万分の一ぐらいの確率でいるんじゃなかったっけ?』

『そう、一万分の一。そんな確率の者が2人も揃うなんてこと、ありうるでしょうか?』

『え~っと、一万分の一の確率が出会う確率は……』

『一千万分の一か!?』


 違うよ!?


 これって、数学どころか計算自体は算数のレベルだよ!

 いや、確率計算だから一応、数学になるの?


 でも、ああ、これは受験生としてしっかり突っ込みたい!


 だが、そんなもどかしい気持ちを抱えたわたしと違って、冷静に相手の一人は言葉を返す。


『一億分の一。かなり低いとは思いませんか?』


 でも、人口5万ちょいの町だから、少なくともこの人たちが定義する「まりょく」とやらまったくない人間は少なくとも、5人ぐらいいることになるよね?


 ……で、たまたまその5人の中の2人が、同じ年齢だったら、学校等で一緒になる可能性が格段に上がるから、実際は一億分の一というのはちょっとばかり大袈裟だと思う。


 いや、確率は可能性であって確定計算ではないって分かっているけど! これでも、受験生ですから!


 でも、「まりょく」って結局、何……?


「なんのことだろ……? 漫画やゲームなら魔法の力……? だけど、現実的な宗教関係者の話だから、悪魔の力の方? でも、そんなの普通の人間にあるなんて思えないし」


 でも、カルト系な人たちは妄信的で、突飛な考えをするっていうのはよく聞く話だ。


 常識では考えられない持論を口にし、それを平然とやってのけるということもたまに新聞やニュースで目にしたりする。


「魔法の力じゃねえの? 昔の人間には魔法使いっていたらしいし」


 彼の口から出た思わぬ言葉に自分でも目が丸くなったのが分かった。


 つまり、九十九は、この人たち「宗教関係者」が常識から外れたことを言っているわけではなく、本当に超常現象じみたことができる可能性があると言っているのだ。


「魔法って……。九十九の口からそんな非科学的な言葉がでるなんて思わなかったよ」

「でもなんかそれっぽくねえ? 先ほどの炎や空中浮揚の理由も付くし」


 ああ、確かに。

 相手は、実際に変な現象を起こしている。


 だから、この人たちの考え方とかはどうであれ、その力は本物と考えても可笑しくはない話なんだ。


 尤も、本当に種や仕掛けもなければってことだけど。


「でも、魔法なんて……。小さいころならともかく、この歳になって信じられる?」

「じゃあ、目の前に起こっていることはどう説明すんだよ?」


 逆に真顔で問い返されて、考える。


「悪魔の力でも納得はできないことはないよ」

「それだって十分非科学的だろ。系統的には同じファンタジー部類だから、差もないかもしれんが」


 そんなわたしたちのやり取りを見て……。


『ほれ、こいつら魔力のことも知らねぇ。ただの人間だよ』

『そうそう』

『でも……』

『それともおめえは魔界人がここまで完璧に魔力を抑えることなんてできると思ってるのか?』


 ……魔界人?

 またも新たな単語が登場した。


 しかも、ファンタジー要素が増すような単語だった。


『仮にできたとしてもこの場では無意味っしょ?』

『私は、その2人の妙な落ち着き具合が気になっているのです。それに……、あの御方ほどの人が、たかが人間に興味を示されるものか、この依頼を受けたときからずっと気になっていまして』

『ああ、それはあたしも気になってた~』

『心配しすぎだぜ、おめえたち。こちらはただ、そこの娘を捕らえて引き渡せばいいだけだ。余計なことを気にかけて失敗したとなっちゃぁ、あの御方の怒りを買うことは間違いねぇんだ』

『それはいやん』

『確かに。今、考えるべきことは任務遂行ですね。そろそろ始めましょうか』


 そんな会話の後、3人が、わたしたちの方を向く。


「――――」

「え? 今、なんて……?」

「気にすんな。ただの独り言だ」


 そうして、九十九は盾になるかの様に、わたしの前に立った。


『お?』

『かぁっこい~。お姫様を守る騎士って感じだね』

『もっとも実際の騎士は殉ずることの方が多いですけど』


 今のはわたしの聞き間違いだろうか?

 九十九が言った「独り言」。


 目の前にいる3人にはまったく聞こえなかったようだが、近距離にいるわたしの耳にはこう聞こえたのだ。


「こいつらが、単純で助かったぜ」と。

話の構成上、次話も同時に更新します。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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