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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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自分でも知らないうちに

「ところで、シオリ嬢。先ほどの質問についてだが……、魔法が使えない者が身近にいるのか?」


 その問いかけに、一瞬、真央先輩の顔が思い浮かんだが……、黙って首を振った。


 先ほどの質問については、彼女は関わっていない。


「自分のことです」


 そして、これについても嘘は言っていない。


 実際、質問した時は、わたしが魔法を使えない理由について、知りたかったわけだし。


「シオリ嬢が? それだけの魔力を有していて?」


 驚いた顔で確認する情報国家の国王陛下。


 わたしが魔法を使えないと言うのは、それだけ意外なことらしい。


 しかも、ある程度抑えているはずなのに、それなりに魔力があることまで気付かれているようだ。


「魔法は全く反応なし……のタイプか?」

「いえ……、魔法が使えない……、というより、使いこなせないのです」


 わたしは溜息を吐いた。


 言われてみれば、わたしの場合、少し前と違って、使えないと言うよりは使いこなせないという方が正しい。


「なるほど、魔法は使えないわけではないのだな」

「出力調整が下手で、風魔法以外がさっぱりです」

「出力調整が下手……、と言うのは?」


 さらに質問を重ねる情報国家の国王陛下。


「基本的な『風魔法(うぃんど)』で、対象を吹っ飛ばします」

「基本的な魔法で、対象を、吹っ飛ばす? それは目標物を?」


 何故か、さらに強く念を押しながら確認する。


「いいえ。人間を……」

「……その人間は無事か?」


 なかなか酷い質問が来た。

 でも、確かに心配な点だよね。


「今のところは無事です。相手を吹っ飛ばすだけで傷つけてはいません。あと……、風属性魔法に対して耐性がかなり強いらしいので、その相手は無傷です」


 九十九は……、わたしの風魔法で怪我することはほとんどない。


 空気の塊を飛ばし、彼の意識を吹っ飛ばしたことはあるけれど、それは怪我などではなく、瞬間的に激しく脳を揺らした結果らしい。


 だが、それは情報国家の国王陛下にとってはかなり不思議な話だったらしい。


 そして、いきなり目の前で笑い出された。

 その笑いで、九十九が思わず顔を上げた姿が視界の端に映る。


「魔法耐性のない無機物ではなく、魔法耐性がそれなりにあるはずの人間を基本的な魔法で吹き飛ばしてしまうのか。それは凄い! そんなことは、俺にも、恐らくハルグブンにもできないだろう」


 それは喜んで良いことなのだろうか?

 しかも思いっきり笑われてしまったし。


「シオリ嬢、キミは()()()()()()()()()()()()()()()()()()と見た」


 さらにそんな不思議なことを言われた。


「本当に魔法の才能というものがあるのならば、相手を吹き飛ばすなんて酷いことをしていないと思いますが……」


 だからこそ悩んでいるのだ。


「小さい魔法を大きくすることはかなり難しい。大きい魔法を小さくすることは本人の意思でどうにかできることだ。本来なら……」

「わたしの意思が弱いってことでしょうか?」

「違うな。対象が人間だと言うのなら分かりやすい。その相手はシオリ嬢が吹き飛ばしたいような人間か。吹き飛ばしても怪我一つ負わない人間か。吹き飛ばしても許してくれるような寛容な人間か……、のいずれではないか?」


 そこまで言われて考えてみる。


 わたしから的にされる九十九は、吹き飛ばしたくなるような人間ではない。


 彼は、風にも巻き込まれて吹き飛ぶことはあっても、怪我はしない。


 それに……、万一、怪我を負っても「気にするな」と笑みも見せてくれるだろう。


 ああ、わたしはこんな所でも、彼に甘えていたのだ。

 そんなことも自覚していなかったなんて、本当に嫌になる。


「なるほど……、シオリ嬢。話を聞く限り、キミはかなり理性的な女性らしい」


 目に涙を浮かべるほど笑いながら、情報国家の国王陛下はそう口にする。


「理性的?」


 わたしではなく、少し離れたところで九十九が怪訝そうな顔をした。


「吹っ飛ばす対象は、シオリ嬢にとって怪我をさせたくないが、吹っ飛ばしても大丈夫な相手であることは間違いないな。つまり、()()()()()調()()()()()()()()のだから、何も問題はなさそうだ」

「へ?」


 微調整ができている?


「これまでの話を聞く限り、キミは心優しい人間だ。だから、その対象はある程度気を許した相手だろう。そして、その上で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()のだと思う」


 そう言いながら、情報国家の国王陛下は九十九へ一瞬だけ視線を動かした。


 まあ、バレるよね。

 九十九ぐらいしかそんな相手はいないだろうし。


「つまり、わたしの性格が悪いってことは分かりました」


 わたしがそう言うと、情報国家の国王陛下は何故か苦笑する。


「確かに、いい性格であることは間違いないな。相手を測った上で、ギリギリの線を攻めるなど、なかなか高度なテクニックだと思う」


 そんな技術を身に着けた覚えはない。


「では……、わたしはどうしたら……?」

「原因が本当にそれなら、対象者を変えるだけで問題は解決する。魔法耐性が弱い相手なら、やはり、魔法の威力を弱めなければ、どうなるかは想像しなくても分かるだろう?」


 その言葉に、わたしはゴクリと何かを飲み込んだ。


 魔法耐性が高い相手だから、その相手を吹っ飛ばす。

 それならば……、逆に魔法耐性が低い相手ならば……?


「で、でも……、その相手以外にも思うように使えていないのです。わたしはもっと小さい魔法を使いたいのに」


 九十九以外でも……、まともな魔法にならない。


 尤も……、相手は水尾先輩である。

 彼女の魔法耐性は、確実に九十九よりも高いだろう。


「それはアレだ……。最初に意識した風魔法が……、かなりの強さだったのだろう。だから、その印象が強すぎて、逆にそれより小さな自分の魔法が想像できないのだ」


 そう言われて思い出す。


 わたしが最初に自分でも使えると意識した風の魔法……。それは迷いの森で、「昔のわたし」が表れた時だった。


 あの時、わたしは自分の手から魔法が出る姿を見て……、「ああ、これならできる」と思った記憶がある。


「そして、風魔法以外の魔法が使えないというのなら……、シオリ嬢にとって、それ以外の『魔法』とは、自分では使えないものだと思い込んでいる可能性はあるな。なるほど……、ある意味、()()()()()ということか」

「嬉しくないです」


 さらに褒められている気がしない。


「その思い込みを消す方法は何かありますか?」


 いつの間にか、九十九が傍に来てそんなことを聞いていた。


「思い込みの強さによるが……、一番、手っ取り早いのは、上書きだな。それ以上の強い思いを植え付ければ良い」


 そこで情報国家の国王陛下は少し考えて……。


「うってつけの人材がいる。そいつを呼んでくるから、シオリ嬢はツクモと少し待っていてくれ」


 そう言って、すぐに部屋から出ていってしまった。


「行動派だよね……」

「そうだな」


 なんとなく、その姿を二人で並んで見送ることになったけれど……。


「あ、手紙! ……返し損ねた」


 九十九は手に握ったままの紙を見てそう言った。


「戻って来るみたいだからその時、返せば?」

「……そうだな」


 小さく呟きながらも九十九はその紙から目を逸らさない。


「何が書いてあったの?」

「……兄貴やオレの生活の記録。結構、細々したことを報告していたみたいだ」

「ほほう。九十九と雄也先輩の成長記録ってことか」

「お前の名前もいくつかあったわけだが……」

「そうなの?」


 考えてみれば、わたしには過去の記憶がないのだから、それはそれで気になる。


 小さい頃のわたしはどんな子供だったのだろうか?

 ……いや、そんなのわざわざ見なくても良いか。


「多分、実際はこれ以上持ってるな。オレに見せても問題ないことを抽出している感じだと思った」

「なんでそう思うの?」

「オレたちが城に来た時の記録がねえ。普通なら、それは結構、大事なことだと思うんだよ。千歳さんやお前の周りに知らない人間が表れたんだからな」

「なるほど……」


 確かに生活の記録と言ってしまうほどの内容なら、そんな出来事こそ記録して報告すべきだろう。


「あの時、本当はミヤドリードがどう思っていたのか……知りたかったんだけどな」


 九十九は少しだけ淋しそうに言った。


 それだけ……、彼にとっては大事な人だったのだろう。

 覚えていなくて、本当に申し訳ないね。


「ところで、九十九……」

「なんだよ?」

「目、腫れてる」

「うおっ!? マジか!!」

「マジですね」


 九十九は目を押さえる。


 その姿が、少し可愛く見えて、つい笑ってしまった。


「うお~、かっこ悪ぃ……」


 そう言いながら、彼は自分に治癒魔法をかける。


「たまになら良いんじゃない?」

「阿呆。護衛が主人の前で泣いた跡を見せてどうするんだよ」

「わたしは護衛の前で泣く主人だけど?」


 どちらかと言うと、そちらの方が問題なのではないだろうか?


「なんだったら、肩ぐらい貸すよ。九十九より低くて申し訳ないけど……」


 わたしは冗談めかして言った。


 九十九は一瞬、変な顔をしたが……。


「それなら、ちょっと肩を貸せ」


 そう言って、わたしの肩に手を置いたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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