いろいろと知ってしまっても
「ところで、イースターカクタス国王陛下にお伺いしたいことがあるのですが……、よろしいでしょうか?」
「ほう? シオリ嬢はこの俺に何を聞きたい?」
情報国家の国王陛下はニヤリと笑った。
この方のことを全然、知らなければその笑みに裏があるような気がするだろう。
だけど……、今はそれを気にしても仕方ない。
「魔力は明らかに大きいし、いろいろな魔法を契約もできているのに、それでも魔法が使えない理由って分かりますか?」
魔法は契約によって使うことができる。
但し、契約自体ができないこともあるし、ちゃんと契約ができているはずなのに……、すぐに使えないことも多いそうだ。
だけど……、わたしが使えないのは、それとはまた違うらしい。
九十九や雄也先輩の話では、「昔のわたし」は、風魔法以外も使えたらしいから。
だからこれは、体質ではなく「高田栞」の心が問題なのだろう。
「個々の事例にもよるが……、原因としてはいろいろと考えられる」
迷いもなく、情報開示のための交渉をすることもなく、思っていた以上にあっさりと情報国家の国王は答えてくれた。
「勿論、その者の状態や状況にもよるから、全ての人間に該当するわけではないとは先に言っておく」
そう前置きをした後……。
「契約できた魔法が使えない理由として、一番、可能性が高いのは、その使い手の想像力が足りないということだな」
「……ですよね」
契約してもその魔法が使えない理由の上位はその魔法について、上手く想像できないこと……、らしい。
だから、魔法国家ではその契約した魔法を、使える人間に頼んで、手本として見せてもらう……と水尾先輩が言っていた。
その方が魔法のイメージを掴みやすいそうだ。
想像だけでは限界があるらしい。
だけど……、水尾先輩や九十九からわたしが使えそうな魔法を見せられても、この手から魔法はほとんど生まれることはなかった。
頭の中にイメージすることはできたのに、それが……、形にならなかったのだ。
「他には、自分の中の魔力……、体内魔気を扱えない者の話も聞く。具体的には魔力の流れが読めなくて、形にできなかったり、体内魔気が強すぎて、形にする前に全部、別の方向に溢れ出したりする者だな」
これも聞いたことがある。
わたしはこれかもしれない……、とも真央先輩に言われたから。
「魔気の護り」は働き、それを意識的に別の人間に向かってぶつけることができるのに、それをちゃんとした形にできないのはちょっと不思議……、とも言われたけど。
「魔力の動かし方が下手な人間もいるのですね」
「魔気の流れを視る眼が必要だからな。視えれば、血液のように伝わる体内魔気やその変化まで分かるはずだ」
情報国家の国王の話では、体内魔気の流れが見えていれば、問題ないような話……にも聞こえた。
でも、わたしは、魔気の流れは見えるのだ。
全身を流れた魔力……、体内魔気は手に伝わる前に何故か消えてしまうところまでしっかりと。
「それ以外なら……、少数派となるが、神に愛され過ぎた人間だな」
「ほ?」
今、なんか……、変な言葉が聞こえてきたような気がする。
しかも、それは今までに聞いたこともなかった。
もしかしたら……、水尾先輩や真央先輩も知らないことなのかもしれない。
「神に愛され過ぎると、加護が多かったり強かったりするために、体内で競合してしまうのだ。そうなると、纏まりがなくなり、別の神の加護の邪魔となる。これは……、王族に多い事例だな。大半は秘匿されるが……」
そんな秘匿されているはずのことを何故、この王様が知っているのか?
それは愚問だね。
相手は情報国家の国王陛下なのだから。
分からないことはどんどん調べまくって、行きついた結論なのだろう。
わたしはなんとなく自分の左手首を見た。
もしかしなくても……、わたしが魔法を使えない理由は、「シンショク」のせいだったのかもしれない。
ああ、なんとなくアナタは他の神様の邪魔をしそうな神様だったね。
「神の加護が強い人間は、現代魔法よりも古代魔法向きの人間が多い。古代魔法の源は神の力だからな。だが……、残念ながら、古代魔法は現存する数も少ない」
「愛されるのも、考えものということですね」
「そうなるな。本来は喜ばしいことかもしれないが、人間の身に神の愛は重く、邪魔でしかない」
情報国家の国王陛下はそう言いながらも笑った。
もしかしたら……、この方は、わたしの「シンショク」のことまで知っているのかもしれない。
「でも……、わたしの母は古代魔法の使い手でもありますが……、現代魔法も基本的なものは使えると聞いています」
「ああ、シオリ嬢の母親であるチトセが、基本的な現代魔法しか使えないのは、魔力が弱いからだ。この世界で生まれていないので、大陸神の加護も持たない」
「へ?」
母は……、魔力が弱い?
古代魔法を使えるのに?
ああ、でも確かに少し前に会話した時、母の魔力はそこまで強くなかった気がする。
体内魔気を意識もしないほどに……。
「チトセは少し例外だ。アイツは創造神の加護がある。古代魔法は魂に授けられた加護によって左右される。だから、体内魔気はそこまで強くないのに、古代魔法向きの性質になってしまった。恐らくは……、この世界で一番の使い手だろう」
「古代魔法は……魔力に関係ないのですか?」
それは意外だった。
古代魔法なんてものだから、てっきり、かなりの魔力を必要としていると思っていたのに。
「神の力を借りるのは、その魂の問題だからな。体内魔気がほとんど感じられない人間が古代魔法を駆使したという記録もある」
「つまり、わたしの母は、そんなにも凄い人間なのですね」
転移門を使わずに、星の間を移動させられた母。
それは、「創造神に魅入られた魂」と大神官である恭哉兄ちゃんは言っていた。
「驚かないのだな」
情報国家の国王陛下はわたしを見ながらそう言った。
「何を……でしょうか?」
「普通は、自分の母が創造神の加護を持っていると聞けば、かなり驚くべきことなのだが……」
「母が『創造神より魅入られた魂』の持ち主だとは大神官さまより伺っていましたから」
それが……、母が使う古代魔法に繋がることは知らなかったのだけど。
「因みに、チトセ本人にはそれを伝えたか?」
「伝えていません。知っていると思っているので……」
伝える暇もなかったし、伝えようとも思っていなかったというのもある。
「伝えていないのなら、そのまま、伝えないでくれ」
「何故……かを伺ってもよろしいですか?」
「チトセは……、自分が何故この世界に呼ばれたかを知らない。それが……、この世界の都合によるものだと知ってしまえばどう思うか……」
「どうも思わないと思いますよ」
「…………その可能性も考えた。だが……」
その姿を見て……、この王さまは本当に母のことが好きなのだなとは思った。
でも、多分、本人はそこまで気にしないと思う。
何故なら……。
「この世界に来た直後なら、気にしたと思います。でも……、そのおかげで……、母は、セントポーリア国王陛下やイースターカクタス国王陛下にも会うことができました。そのことは感謝していると思いますよ」
少なくとも、わたしならそう思う。
悲観的になっても仕方ないのだ。
情報国家の国王陛下は一瞬、驚いた顔を見せて、そのまま、わたしを抱き締めて……。
「ありがとう、シオリ嬢」
何故か、お礼を言われてしまった。
いや、普通に考えれば、自分の母親のことをそこまで考えて悩んでくれているのだから、わたしが礼を言う方なのではないだろうか?
さらにいろいろ教えてもらっているのだし。
でも、良いか。
情報国家の国王陛下が嬉しそうだから。
そして、この抱擁は、この前みたいに犬猫のような扱いではない。ちゃんと人間の扱いをされている。
わたしは、それだけでも少しほっとしたのだった。
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