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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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知らなくても良い知識

「あ~、酷い目に遭った」


 九十九は肩を動かしながら、そんなことを言った。


「今回の場合は、九十九の自業自得だと思うよ」


 わたしとしてはそう言うしかない。


「分かってるよ。それでも……、一度、王様ってやつの魔法を見てみたかったんだ」

「好奇心は身を滅ぼすって言葉は知っている?」


 明らかに魔力が違うことは分かっているのに。


「よく知ってる。だけど、袋詰めの居心地の悪さは今回、初めて知った」

「一生知らなくて良い心地だね」


 既に知っている身としては、いろいろと複雑である。

 わたしの場合、主にこの横にいる彼のせいだが。


「縄とか箱詰めは経験あるのだが……」


 だが、彼はとんでもないことを言ってきた。


 まあ、彼にそんなことをしそうな相手はなんとなく分かるのだけど……。


「それも知らなくて良い知識と経験だと思うよ」


 わたしたちは、大聖堂の一室……、いつもと少し違った部屋でそんなどうでもいい会話をしていた。


 ここにいる理由としては単純なもので、雄也先輩の状態が悪化したのだ。


 なんでも、精神的な負荷が原因だったらしい。


 考えるまでもなく、情報国家の国王陛下にかけられた重圧のせいだろう。


 雄也先輩の顔色が一気に悪くなったかと思うと、大神官である恭哉兄ちゃんが血相を変えて部屋に飛び込んできてくれたのだ。


 そのおかげで持ち直したようだが、それがなければ、状況はもっと悪くなっていたかもしれない。


 恭哉兄ちゃんは、重篤な患者に対して、その部屋に気配察知の術も施しているそうだ。


 雄也先輩に限らず、周囲に心配をかけまいと我慢してしまう患者と言うのはどうしてもいるらしい。


 何度、「無理するな」、「我慢するな」と言っても、自分が無理や我慢をしている自覚がないければ、その言葉に何の効果もない。


 それを聞いていた時に、何故か自分の耳が痛くなったのは何故だろう?

 それを話している時の恭哉兄ちゃんの目線が妙に鋭かったせいかもしれない。


 それにしても、情報国家の国王陛下に対して有無を言わさず追い出したあの手腕は見事だと思う。


 まあ……、あの情報国家の国王陛下に説教をできるような人はこの世界でもそう多くないとは思うけど。


 そして、九十九にかけられていた魔法を解呪してくれたのも、恭哉兄ちゃんだった。


 実は、古代魔法だったらしい。

 なんてものを一般人に使ってくれたのだろうね、あの王さまは。


「それで、さっきの情報国家の国王陛下の魔法は、九十九にとって経験になった?」

「まあな。悔しいが、魔法の知識が全く違う」

「魔力じゃなくて?」

「魔力の違いは始めから分かっていたことだ。だけど……、お前に使われた魔法はオレも気付けなかったんだよ」

「わたしに……、使われた魔法?」


 はて?

 いつ、そんなものを使われたかな?


「その髪に付いている金粉」

「ああ、これも魔法なのか」


 なんとなく髪に手をやると、まだキラキラした粉が落ちてくる。


「追跡魔法を確実にするために魔法具を使ったようなもんだ。確かに髪の毛は魔力を保有していると言われているが……、こんな使い方があるとはな」

「それでも、あまり良い気分じゃないけどね」


 他人の髪の毛を頭に(なす)り付けられたようなものだ。

 なんとなく、わたしでも忌避感がある。


「人毛のヅラみたいなもんだろ?」


 でも、九十九はそこまで気にならないようだ。


「ヅラって……」


 それとはちょっと違うような気がする。


「魔法の知識が全く違う……か。水尾先輩みたいな感じ?」


 身近にいる魔法の知識がある人と言ったら、間違いなく水尾先輩だ。


「いや、種類が違うな。水尾さんは純粋に魔法特化だけど、あの王様は、日常的な魔法の利用方法を知っている感じだ」

「どう違うの?」


 魔法特化なら、利用方法だって知っていると思うのだけど。


「水尾さんは魔法に関してだけの知識だ。どうすれば魔法の威力が上がるとか、組み合わせればどんな効果になるとかそう言った感じだな」

「それって利用方法を知っているのとは違うの?」


 先ほど頭に浮かんだことを言ってみる。


「日常に溶け込ませることは向いていないだろ? 水尾さんのは……」

「日常に……?」


 水尾先輩の魔法を思いだす。


 ド派手で攻撃的な魔法。

 相手を確実に倒すために手を尽くされた魔法。


「あんな日常は……嫌だな」


 わたしは少し遠い目をしたくなる。


「日常的にあんな魔法を食らっていたヤツが言うと、説得力あるな」


 九十九は苦笑する。


「好きで食らっていたわけじゃないけどね」


 できればもっと食らわないようになりたい。


 反撃は望めなくても、やはり熱かったり痛かったりするのは嫌なのだ。


「でも、この国に戻ってからはあまりその機会もなくなったよ」

「まあ、いろいろ忙しいからな」


 わたしは、カルセオラリア城での怪我はほとんど治った。

 自己治癒能力が回復しきったらしい。


 だけど、油断をすると自分の部屋にすら、乱入してくるような人がいる状況で、カルセオラリアが隠し続けているような魔法国家の王女たちと接触することはできない。


「でも、本来は、魔法国家の王族直々の魔法を見ることができるのはかなり凄いことなんだぞ」

「水尾先輩だけでなく、この国の王女殿下も、たまに魔法を放ちますよ?」

「……お前の周りが規格外なだけだからな? あれらを標準と思うなよ?」

「規格外とな」


 結構、酷い言い方だ。


 九十九にとっても彼女たちは友人だと思うのだけど。


 まあ、確かに王族という本来雲の上の存在が、周りにゴロゴロしているってことは、普通の環境にないことぐらいは流石に分かっている。


 もう二年半以上この世界にいるのだ。

 何も知らずに来た頃よりはずっと、その辺りも分かっているつもりである。


 そう考えると、人間界での出会い、縁ってやつに感謝だね。


「でも、そんな国なら……、わたしが魔法を上手く使えない理由も……分かるかな?」


 魔法国家の王女である水尾先輩は、わたしの想像力が足りないと言う。


 恐らくは自分が魔法を使えると思えないのではないか、と。


 その双子の姉である真央先輩は、わたしの魔力が大きすぎて、上手く扱い切れてないんじゃないかと言う。


 どちらにしても、わたしが魔法を使うまでにはまだまだ時間がかかりそうだということだ。


 考えてもみれば、魔法を使えない世界で10年も過ごしてきたのだ。

 自分が使えないという思い込みを払拭するのに時間がかかるのは仕方ないと思う。


 出力調整できなくても、それっぽい魔法ができるようになっただけマシだろう。


「どうだろうな。情報国家だから、知っている可能性もあるが……、教えてくれるかは別だと思うぞ」


 ああ、そうか。

 情報には対価がいるって言ってたっけ。


「……九十九のレシピ本と引き替えにならどうだろうか?」

「ふざけるな? お前の漫画の方が良いと思うぞ?」


 わたしの言葉に、笑顔で返す九十九。

 彼も手強くなったと思う。


「まあ、ダメもとで聞いてみるか。分かれば、ラッキー……、ぐらいの感覚で」

「記憶のことだけでなく、そちらも言うのか。弱みの全てをさらけ出そうって正気かよ」

「どうせすぐバレるのだから、自ら暴露した方が早いって」


 わたしの弱み?

 もともと強くはないのだ。


 それも今更だろう。


 そして、あの情報国家の国王陛下を相手に隠し事などできるはずもない。

 それは、九十九だって分かっているはずだ。


 あの雄也先輩だって……、身体が弱っているとはいえ、あの国王の重圧に負けてしまったのだから。


「わたしにできることなら、なんでもするよ」


 もうこのまま、足手まといでいたくはないのだ。自分の身はちゃんと自分で護れるようになりたい。


 あの母だって自分の場所でその身を危険に晒しながらも戦っている。


 その娘のわたしがいつまでも安全な場所にいるわけにはいかないよね。


「……お前はまた……」


 頭を押さえながら、どこか呆れたような力が抜けたような九十九の声。


「へ?」


「いい。好きにしろ。オレはお前に従うだけだ」

「従う? あまり従われている気はしないのだけど?」

「オレは十分、お前に従っているつもりだが?」


 九十九は不敵に笑う。


 確かに、我が儘をある程度叶えてもらってはいるのだけど、それを「従う」とは言わない気がする。


「わたしは結構、あなたから酷い扱いされている気がするのだけど……」


 主に袋詰めとか。


「そうか?」

「うん。あなたはもっと女性の扱い方を学んだ方が良いと思うよ」


 彼の未来の彼女さんに同情する。

 もしかして、彼が人間界で振られたのって、これが原因なんじゃないだろうか?


「面倒だ」


 たった一言で全否定。


「それに、オレが女扱いしないのなんて、お前ぐらいだから問題ねえよ」

「それはそうでどうなのかな?」


 だけど、わたしは後に知る。


 彼の言葉の真意を。


 彼がわたしを「女性扱い」してなかったことには()()()()()()()()()()()()のだ。


 そして、わたしがそれを理解した時には、もういろいろと後戻りできなくない状態になっていたのだけど。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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