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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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知りたいと思う気持ち

 今日も高田が、大聖堂の地下に行きたいと言ったので、オレは了承した。


 下手に部屋にいて、オレが手出しできないような高貴なる身分の人間に襲撃されても困るのだ。


 そして、その読みは当たっていたと思う。


「やあ、シオリ嬢」


 大聖堂の地下にて、彼女は、妙に笑顔の男に声をかけられた。


「……実は、お暇なのでしょうか? イースターカクタス国王陛下」


 高田にしては、珍しく棘のある言葉だった。


 それも無理はない。


 書物庫で待ち伏せされたり、会合が終わった直後に半強制的に連れられたり……と、この情報国家の国王は何かと彼女に関わろうとしている。


 確かに母親の友人であっても、彼女からすれば、ほぼ初対面に等しいオッサンだ。

 快くは思えないのだろう。


「いや、こう見えてもかなり多忙の身なのだ。それでも、シオリ嬢の可愛らしい顔を見たいために、わざわざここに舞い戻ってきただけなのだよ」


 確かに国王が何日も城を開けられるものではない。


 普通は……。


 それだけの価値を高田に見出していると考えるべきか。

 単に千歳さんの娘だからなのか。


 その辺りの判断ができない。


「それは、わざわざありがとうございます。このような顔で良ければ、いくらでもご堪能くださいませ。でも、わたしなどより、母の顔の方が良いのでは?」


 高田は、自分よりも千歳さんが理由と考えているのか、そんなことを口にした。


「あっちはガードがかなり固いのだ。かなり厄介な護衛がいるからな」


 その言葉から千歳さんに接触を試みてはいるのだろう。


 そして、同時に高田の護衛は特に厄介ではないと言われている。

 つまり、オレは相手にならない……、と。


「厄介な護衛……ですか?」

「おお、俺と同じぐらいの権力を持っていて、すっかり可愛くなくなった男だよ。俺の頼みも聞いてくれなくなった」


 ……一国の王と同じような権力を持っている時点で、それは、もはや護衛ではないだろうと言いたいが、そう言いたくもなる気持ちは分からなくはない。


 余談だが、オレは、千歳さんを通してセントポーリア国王陛下の予定に合わせて、昨日、ちゃんと挨拶とこれまでの報告に行くことができた。


 流石に、同じ場所にいることを知っているのに顔も見せない状態は、無礼だし不敬でもある。


 お会いした時は、驚かれはしたが、同時に妙に納得もされた。


 そして……、ありがたくも任務継続を言い渡されたのだった。


「シオリ嬢は、今日もツクモが一緒か」


 オレの方をチラリと見て、国王はそう言った。


「彼はわたしの専属護衛ですので」

「他に護衛は?」

「今、わたしのために動ける護衛は彼だけですね」


 確かに兄貴が動けない以上、オレだけとなる。


「シオリ嬢に仕えることができて、幸せだな? ツクモ」


 どういう反応を期待しているかは分からないが……。


「はい。望外の喜びです」


 無難な返答を返す。


 こんな所で、本心を伝える気などなかった。


「だが、ここまでシオリ嬢が愛らしいと、従者としては苦労が絶えないだろう?」

「……と、言いますと?」

「簡単なことだ」


 そう言いながら、情報国家の国王は高田の腕を引いた。


「ほへ?」


 彼女はいつものように奇妙な声を出し、そのまま、情報国家の国王の腕の中に納まってしまう。


 彼女は、そろそろ警戒心を言うものを持っていただきたい。


 具体的には、そんなに簡単に捕まってるんじゃねえ!!


「ここまで無防備で、可愛らしい主人を持つと、このように言い寄られることも少なくはないだろう?」


 どこか挑発的で敵愾心を煽るような物言いをし、情報国家の国王は彼女の頭や顔を無遠慮に撫でまわす。


 まるで犬猫など愛玩動物に対するような扱い。


 そこで、ようやくオレはこの国王の目的になんとなく気付いた。


「そうですね。確かに気苦労は絶えません。ただ、私を挑発したいだけなら、わざわざその無防備で無警戒な主を使って行わないでください」


 確かにオレに喧嘩を売る気なら、高田を使うことが一番だ。

 それは認めるけどな。


 だが、オレのような小物の反応を見ようとするその理由は分からない。


「彼女に手を出すなら、わざわざ私の前で見せつける必要はないでしょう?」

「そう言った趣味の輩もいるぞ?」

「イースターカクタス国王陛下は、そう言った趣味をお持ちのようには見えませんので」


 高田は不快感を見せてはいるが、拒絶、拒否の意思は見せていない。


 それに……、あの時のように、見えない位置で彼女に対して振るわれる暴力とは全く違うのだ。


 頭を撫でられすぎて、少しあの黒い髪の毛が乱されているのが気になるぐらいだ。


 この程度でオレが煽られると思うなよ。


「イースターカクタス国王陛下は、私に対して何をお望みですか?」


 本気でオレを煽る気があるのなら、もっとえげつない手段も使えるだろう? 情報国家の国王陛下なら。


「ふむ、こちらの思惑はバレてるのか。思ったより、勘も良いな、ツクモ」


 そう笑いながら、情報国家の国王は、彼女を解放する。


「単純なことだ。俺はツクモの能力(ちから)が見たい。そして、その真価を問うなら、シオリ嬢を餌に煽る方が最適だろう?」

「最適かもしれませんが、悪趣味だと思います」


 なんで、どいつもこいつも彼女をそっとしておいてくれないのか?


「そこは許せ。怒らせて暴走させる方が確実だからな」


 ああ、暴走を促す気だったのか。


 それなら、読みは甘い。


 オレを暴走させるなら、彼女を可愛がる姿を見せるのではなく、抗うことができないほどの理不尽な責め苦を見せるべきだった。


 ()()()()()()()()()()に対して、オレはあまり怒りを感じないのだ。


「それで、何をお見せすれば、イースターカクタス国王陛下は納得されますか?」

「情報開示に抵抗ないんだな」

「自分が持っている技術など、そう珍しくはないものなので」


 オレが護衛としての能力が足りてないことは百も承知だ。


 兄貴の手助けがあって、ようやくそれっぽく見せられることができている自覚もある。


 オレは能力的に「(攻撃型)」ではなく、「(防御型)」でもなく、「装具(補助型)」だ。


 誰かの足りない部分を補う役目。


 水尾さんのように派手な魔法を操ることに憧れもしたが、17年も生きていれば、ある程度の諦めもつく。


 オレは主役になれるタイプではない。

 脇役で十分なのだ。


「そうだな……、俺の見たいもの……か。ツクモの任務がシオリ嬢の護衛だと言うのなら、その腕が見たい」

「護衛の……腕?」


 何かの魔法を見せるとかはともかく、「護衛の腕」とはまた抽象的な表現だな。


「具体的には?」

「ここは大聖堂の地下……。ここで使う魔法は、王族であっても部屋の外には影響がないことは知っているか?」

「はい」


 魔法国家の王族である水尾さんが遠慮なくぶっ放しても、ビクともしない部屋だ。


 まあ、契約の間と言うのはもともとそんな部屋なのだが。


「俺が今からいくつか魔法を繰り出すから、それからシオリ嬢を護ると言うのはどうだ?」

「「え゛……?!」」


 予想外の話にオレと高田の声が重なった。


「時間はそうだな……。十二分刻(5分)……、いや、六十分刻(1分)ぐらいが妥当か?」


 その言葉を舐められているとは思わない。


 王族は理不尽な存在だということをオレは知っている。

 そして……、目の前の人間がその頂点に近い位置にいることも。


 水尾さんの時とは違って、相手の弱点も知らない。

 それに、不意を突けば勝てる相手と言うものでもないのだ。


「つ、九十九……?」


 高田がどこか不安そうな顔を見せる。


 彼女にだって、分かっている。

 この申し出を受ける理由などどこにもない。


 受けても何も得られるものはないのだから。


 だけど、高田は知らない。


 本来なら、王族どころかその頂点、しかも中心国の国王が手合わせをしてくれる機会など、ありえない話なのだ。


 水尾さんが付き合ってくれていることで麻痺をしている部分はあるが、本来、彼女のような血筋の人間がオレたちを相手してくれていること自体が、いろいろな奇跡の果てにあることを忘れてはならない。


「……ちょっとだけ巻き込まれてくれるか?」


 オレは高田に向かって、そう言った。


 本来、護衛の身で頼めることではない。

 護るべき彼女を危険に晒す行為など許されることではないのだ。


 だが……。


「酷い護衛だね」


 それでも、彼女は笑ってくれるのだ。


「話はついたか?」

「はい。イースターカクタス国王陛下のその胸をありがたく、お借りします」


 オレがそう言うと、目の前の国王は何故か笑った。


「前向きな解釈だな、ツクモ」


 そう言って、国王はオレの前に腕を突き出す。


「今から六十分刻(1分)だ。死ぬ気で護りぬけ」


 その言葉が合図だった。

ここまでお読みいただきありがとうございました

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