【第43章― 世界会議後夜祭 ―】知らないことが多すぎて
この話から第43章に入ります。
よろしくお願いいたします。
「やあ、シオリ嬢」
大聖堂の地下にて、わたしは満面の笑みを浮かべている殿方から声を掛けられた。
「……実は、お暇なのでしょうか? イースターカクタス国王陛下」
「いや、こう見えてもかなり多忙の身なのだ」
わたしの皮肉交じりの言葉に、少しも堪えた様子もない情報国家の国王さま。
まあ、相手は会話慣れしている方だ。
わたしのような小娘の言葉にいちいち動揺するはずもないか。
「それでも、シオリ嬢の可愛らしい顔を見たいために、わざわざここに舞い戻ってきただけなのだよ」
「それは、わざわざありがとうございます。このような顔で良ければ、いくらでもご堪能くださいませ」
これが本心ならば、少しは嬉しいのかな?
でも、残念ながら、社交辞令と分かっている言葉を本気で受け止めるほど、わたしは純粋でもないようだ。
「でも、わたしなどより、母の顔の方が良いのでは?」
「あっちはガードがかなり固いのだ。かなり厄介な護衛がいるからな」
情報国家の国王陛下はわたしの言葉を否定しなかった。
やはり、わたしより母に会いたいのだろう。
まあ、旧知の仲らしいから当然ではある。
寧ろ、下手に誤魔化さない分だけ、好感は持てるかな。
何より……、顔が好みだからある程度のことは許せる気がする。
我ながら現金だよね。
「厄介な護衛……ですか?」
「おお、俺と同じぐらいの権力を持っていて、すっかり可愛くなくなった男だよ。俺の頼みも聞いてくれなくなった」
それに該当しそうな殿方って、一人ぐらいしかいませんよ?
普通、中心国の王さまと同じぐらいの権力、権限を持っている人間自体がほとんどいない。
同じ中心国の王さまたちぐらいだろう。
大神官である恭哉兄ちゃんは、持っている権力の種類が違うし、何より、彼自身は基本的に権力には固執せず、王族どころか貴族より下であろうとする。
ただ、そんな大神官の態度を見て、自分の方が上だと思い込んでしまうことはかなりの問題であるのだけど。
当人たちの意思はともかく、周囲はそう思わない。
その点について気を付けていないと酷い目に遭う可能性があることは、既に何度も実証されてしまっているのだ。
主に、彼の信望者たちの手によって。
「シオリ嬢は、今日もツクモが一緒か」
情報国家の国王陛下は、後ろで一言も言葉を発さない九十九を見る。
「彼はわたしの専属護衛ですので」
基本的に九十九と雄也先輩以外にわたしの護衛ができるような人間がいない。
そして、雄也先輩は現在、病床の身。
そうなると、九十九を四六時中引っ張り回すことになるのは仕方ないだろう。
まあ、ある意味、いつものことだと言えるのだけど。
「他に護衛は?」
「今、わたしのために動ける護衛は彼だけですね」
水尾先輩は護衛とは少し違うし、何より、情報国家の人間に会わせるわけにはいかない。
魔法国家の王族が生きていることを知れば、あの面倒そうなクリサンセマム国が動く可能性があるので、そういった意味でもあまり動かしたくはない。
あの王さまたちは、アリッサムの三人の若き王女たちを探しているらしい。
自分の側妻とするために。
あの会議でやり込められた感が強い王さまは34,5歳だったはずだ。
対するアリッサムの王女たちは上から22歳の方と、18歳の双子の三人。
個人的には、正直、歳の差を考えていただきたいと思う。
アリッサムの第一王女たちの婚姻事情を考えれば、そこまでの拒否感はないのかもしれないけれど。
確か、第一王女の婚約者だって同じぐらいの年代だったと聞いている。
クリサンセマムの国王は現在、ご正妃がいらっしゃるらしいけれど、魔界では第二、第三夫人とかは珍しくない。
亡国の王女としてはそれでも扱いとしてはかなり良いだろう。
親と言う後ろ盾を亡くせば、周囲はどうしてもその相手を無力な子供と軽く見る。
そして、この世界では自活の手段がない若い女性が選べる道は多くない。
自立できるような意識とそれに伴う才能がなければ、あまり考えたくはないけれど、誰かに囲い込まれるか、自分の身体を売ることも選択肢に入るそうだ。
この辺りは、人間界で言う義務教育のような読み書きなどの基本的な知識が誰でも得られるわけではないところにもあるだろう。
何でも、女性に勉学は不要だと言う考え方は、王族、貴族ならばともかく、一般市民には珍しくないという話である。
そのことに対して「女性の可能性を摘むな! 」と言える程度の教育を受けさせてもらったことに感謝したい。
「シオリ嬢に仕えることができて、幸せだな? ツクモ」
情報国家の王は意味深な笑みを浮かべるが……。
「はい。望外の喜びです」
淀みなく、躊躇いなく九十九はそう答えた。
……いや、本心からじゃないよね?
いつも、彼は「わたしに振り回されている」と言っているぐらいだし。
「だが、ここまでシオリ嬢が愛らしいと、従者としては苦労が絶えないだろう?」
困ったことに、この情報国家の国王陛下は凄く自然にお世辞を言いなさります。
社交辞令と分かっていても、好みの顔した殿方に褒められると悪い気はしないね。
「……と、言いますと?」
九十九が疑問を投げかける。
「簡単なことだ」
「ほへ?」
情報国家の国王陛下はわたしの手を引き、そのまま抱き寄せる。
わたしは、特に深い疑問を持たないまま、情報国家の国王陛下の腕の中に納まってしまった。
その一連の動作のなんと手慣れていらっしゃることか。
思わず感心してしまうほど見事な動きだったと思う。
「ここまで無防備で、可愛らしい主人を持つと、このように言い寄られることも少なくはないだろう?」
いや、あまり言い寄られてはいませんよ?
あの元「青羽の神官」を除けば、「聖女の卵」と知られていないわたしに興味を持つような殿方なんて……、ああ、トルクスタン王子がいたか。
でも、確かに求婚してくれたけれど、彼は「高田栞」を望んでくれたわけではなさそうだとは思っている。
情報国家の国王陛下は、まるで小動物を可愛がるかのように、腕の中にいるわたしの頭や頬を撫で回している。
特に頭を念入りに撫で回されている気がするのは、気のせいではないだろう。
母でもここまで執拗に撫で回さない。
うん。
これって、絶対、言い寄られているとは違う気がするよね。
この行為は嫌悪感というほどでもないが、どことなく腹立たしい気持ちになるのは何故だろうか?
異性扱いと言うより、明らかに子ども扱いされていることだけはよく分かる。
「そうですね。確かに気苦労は絶えません」
九十九は溜息交じりでそう言った。
「ただ、私を挑発したいだけなら、わざわざその無防備で無警戒な主を使って行わないでください」
へ?
九十九を……挑発?
「彼女に手を出すなら、わざわざ私の前で見せつける必要はないでしょう?」
「そう言った趣味の輩もいるぞ?」
「イースターカクタス国王陛下は、そう言った趣味をお持ちのようには見えませんので」
な、なんだろう?
九十九に……、雄也先輩が重なっている気がする。
いや、違うか。
わたしの前では、九十九がその面をあまり見せていないだけで、彼らはもともと、似ているのだ。
「イースターカクタス国王陛下は、私に対して何をお望みですか?」
「ふむ、こちらの思惑はバレてるのか。思ったより、勘も良いな、ツクモ」
情報国家の国王陛下は、そう言いながら、わたしを解放する。
「単純なことだ。俺はツクモの能力が見たい。そして、その真価を問うなら、シオリ嬢を餌に煽る方が最適だろう?」
本人を前に、なかなか酷い話だ。
この王さまは、九十九のためにわたしを使ったということを認めたのだ。
だけど……、そこまで買われている九十九って、実は、かなり凄くない?
「最適かもしれませんが、悪趣味だと思います」
九十九は不満を隠さずに答えた。
確かに良い趣味とは思えない。
でも……、そこに害意はないのだろう。
この部屋は契約の間だから、結界は作動しないのは当然だが、わたしの魔気の護りは間違いなく抑えてもいないのに反応しなかった。
そして、本気でわたしを使って九十九を挑発するのならこんな愛玩動物のような扱いをしなくても、もっと他にやりようもある気がする。
「そこは許せ。怒らせて暴走させる方が確実だからな」
「それで、何をお見せすれば、イースターカクタス国王陛下は納得されますか?」
「情報開示に抵抗がないんだな」
「自分が持っている技術など、そう珍しくはないものなので」
……そうかな?
この王さまは、九十九が技術を持っているからこそ価値があると思っている気がするのだけど?
そして、このまま、ここで素直に教えても良いか判断に困る。
何よりもわたしには、この王さまが何を考えているのか全く予想もつかなかったのだ。
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