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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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面白い結果

『なかなか面白い結果になったぞ』


 1時間()ほど経過した時、イースターカクタス国王陛下はそう言いながら、隣室より姿を見せた。


『各々の立場もあるから、詳細についてはこの場であえて語らない。まあ、顔を見れば一目瞭然だがな』


 イースターカクタス国王陛下がそう言うと、その後ろにいた人たちの表情が数名、変わったように見えた。


『そして、点数については、当事者たちには伝えていない。まあ、大神官は流石だとだけ言っておこう』

『お褒めの言葉を頂き、ありがとうございます』


 その時点で、大神官がかなり良い成績だったことは分かるが、褒められた恭哉兄ちゃんは表情を変えなかった。


 ワカが得意げな顔をしている方が気になるぐらいだ。

 まあ、自分の好きな人を褒められると、自分のことのように嬉しい気持ちはよく分かる。


『それで、件のチトセ嬢だが……、こちらも見事なものだ。世界各国について、よく学んでいることが伝わってくる』


 そう言って、イースターカクタス国王陛下は母に向き直る。


 どうやら、母も良かったらしい。

 そのことに少しほっとする。


『お褒め頂き、恐縮です』


 母は表情を崩さずに一礼した。


 だが、イースターカクタス国王陛下はその後にとんでもないことを告げる。


『チトセ殿()、我がイースターカクタスに来る気はあるか? 才ある女性は歓迎する』


 何、いきなり人の母親を口説いていらっしゃるのでしょうか?!

 さり気なく「嬢」から、「殿」に変わっていますよ?


 そして、そのイースターカクタス国王陛下の言葉で、周囲が騒めいたことが分かる。


 他の従者たちではなく、母に自ら誘いの声をかけたことで、その成績が彼らよりも上であることを示しているとも取れたのだ。


『御冗談を。私などお連れになれば、国は騒ぎになりますよ』


 だが、母は動じることもなく、笑顔を返す。


 どちらかと言えば、いきなり自分の連れてきた秘書に対して、目の前で引き抜きをかけられたセントポーリア国王陛下の方が分かりやすく表情を変えていた。


「見事な手腕だね」


 オーディナーシャさまがその光景を見て、ポツリと漏らす。


「少なくとも、高田の母上が有能であることをそれとなく、示してくれた」

「でも、イースターカクタス国王は女性好きだって噂もあるでしょう?」


 オーディナーシャさまの言葉にワカがそんなことを言うが……。


「若宮、その情報は古い。イースターカクタス国王陛下は近年、軽い口調で女性を惑わすことはあるが、基本は真面目だと聞く。女好きなのはイースターカクタスの王子殿下の方だ」


 九十九が間髪入れずにイースターカクタス国王についてそう補足した。


「あ~、私の情報は確かに古いかもだわ。城を出る前の話だった」


 それは古い。

 ワカが城を出る頃って、もう、10年ぐらい前の話になる気がする。


「ケーナは、もう少し、考えて話したら? 口説かれたのは、た……いや、シオリの母上なのだからね」

「あ~、そうだった。ごめん、高田!」

「いや、大丈夫だよ」


 ある程度、気に入った人間にそう声をかけるのはあのイースターカクタス国王の習慣のようなものなのだろう。


 母も本気にした感じではなかった。


 それに……、あの方がわたしにかけてきた言葉はもっと直接的で分かりやすいお誘いだった。


 ―――― 寵姫にならないか?


 だっけ?

 二十歳に満たない小娘を揶揄うにしても、質の悪い冗談だと思う。


 さらに続けて……、自分の息子の正妃にならないか? と、まで言われている。


 それに比べれば、母に対して言った言葉はまだマシだと思うのですよ?

 同じ口説き文句でも、純粋な「お誘い(スカウト)」だったのだから。


「それにしても……、シオリの母上は大したものだね。他国からの引き抜きにあう程度にデキる人なのだから」

「……娘はそれも知らなかったけどね」

「高田……、確認したいことがあるのだけど……、母君は、貴女が『聖女の卵』になったことは知ってるの?」


 ワカは難しい顔をしながら、尋ねてきた。


「伝えていない」


 わたし自身は手紙に書いた覚えはない。


「じゃあ、後で構わないから伝えた方が良いかも」

「なんで?」

「母君がセントポーリア国内でかなりの信頼と肩書を持ったってことは、娘のためだとは思うのだけど、高田自身もそれなりの肩書きを背負った。それがセントポーリアに伝わったら、あのバ……、いや、クソ王子が喜んでしまう」

「……そうだね」


 ワカの言葉の酷さはともかくとして、その辺りについては、雄也先輩にも言われていることだった。


 わたしの肩書きが重くなれば、セントポーリアの王妃さまにとっては都合が良くなってしまうらしい。


 そして、うっかり背負ってしまった「聖女の卵」と言う肩書きは、わたしが「聖女」に至る可能性を秘めている。


 それは、「聖女」の血筋であることを誉れとしているセントポーリアと言う国ではこの上ないものだろう。


 その場合、わたしの出自も意思も関係なく、「聖女」の血をセントポーリアの血統に入れるため、無理矢理の婚姻も考えられるそうだ。


「母が、自国の深部に関わって、その娘が『聖女の卵』。ヤツにとっては垂涎の的ってやつよ。自分の魔力が多少低くても、妾腹でも貴族の血が流れ、それなりに魔力が強い高田なんて、一粒で何度も美味しく感じる御馳走でしかない」

「ケーナは本当にセントポーリアの王子殿下が苦手なんだね」


 苦々しく言いきるワカに対して、オーディナーシャさまは困ったような顔をする。


「まあ、確かに良い空気は纏っていない王子殿下だとは思うけど……、脅威になりそうな気配もない……ってのが、少し前にお会いした私の感想かな」

「ナーシャからは、ほとんど魔力を感じないから、アイツも本性は見せないわ」


 ワカは溜息交じりにそう言った。


 確かにオーディナーシャさまの魔力はあまり強くないが、実は、楓夜兄ちゃんと同じ精霊使いである。


 魔力だけで相手を判断しているとしたら、少し見る目がないと言わざるを得ない。


 あの恭哉兄ちゃんだって、法力国家が誇る大神官でありながら、魔力は一般貴族並みらしいし。


「私なんて、小さい頃からあの男の贈り物送り付け攻撃を食らっているからね。貴族並みに魔力が強い笹さんや雄也さんも相当な目に遭ったんじゃない?」

「オレは……、あの王子にほとんど近づかなかったからな。でも、兄貴は、オレに話したことはないが、かなり酷い扱いを受けていたとは思っている」


 わたしの背後で、九十九がそう思い出すように言う。


 その言葉で……、わたしは何故かその光景が見えてしまった気がした。


 あの王子に拘束された雄也先輩は…………。


『スカルウォーク大陸の中心国について、現在はカルセオラリアとなっておりますが、残念ながら城は崩落し、城下も半壊となっております。以上のことから――――』


 わたしたちが別の方に話を進めていた間に、会合は始まっていたらしい。

 それぞれの思考を中断し、わたしたちは緑色の水晶体へと向き直る。


「九十九、カルセオラリアの現状は分かる?」

「先ほど聞いた通り、城は跡形しかないほど大崩落し、城下も人が住める状況にない」

「先ほど聞こえたよりもかなり酷いよ!?」

「そのまま伝えたら、確実に中心国ではなくなるだろうが。だから、少し表現を和らげて伝えているんだよ。それを、現場調査までした情報国家がとう捉えるか……だな」


 九十九は難しい顔をして答える。


「笹さん、死者は出ているんだっけ? この国で自殺した第一王子殿下以外で」

「第一王子殿下を除けば、死者、行方不明者は共にないと聞いている」


 そう言えば、行方不明の扱いになっていた人も、つい最近、この城で再会した。


「重傷者は?」

「重傷者は治癒され、軽傷者もいなくなったはずだ。これは、手配が早かった大神官のおかげだな」


 ……ここに嘘吐きがいますよ?


 軽傷者はともかく、重傷者を真っ先に癒したのは、ここにいる彼なのに。

 しかもその中には、今、会合に参加中のカルセオラリア国王陛下までいるのだ。


 ああ、この場で思い切り叫びたい。

 わたしの護衛がかの国を救ったのだと。


「それなら、カルセオラリアを救った手柄はこの()だね」

「ほへ?」


 ワカがそう言うが、何故、その結論に達したのかよく分からない。


「何を呆けているの? 高田。貴女が命がけでこの国に転がり込んだために、あのベオグラが動いたのよ? 少しはその功績に胸を張りなさい」

「そうそう。まさに『聖女』だよ、シオリ」


 2人からそう言われても……、わたしがしたことは本当に無我夢中でこの国へ飛び込んだだけだ。


 そこにわたしの力なんてほとんどない。


 あの転移門を使うために、その近くまで移動させてくれたのは、雄也先輩だったし。


「でかい男二人を抱えて転移門を使うなんて、少なくとも私にはできないことよ、高田」

「ワカならできそうだけど……」

「いや、ケーナも私も、身の丈以上の行動で誰かを救おうなんて考えないから」

「そうですか? ワカはともかく、オーディナーシャさまは目の届く範囲の人間を救おうとする人だと思いますよ?」

「何故、私を除く?」

「ワカは……、国民も大事にするけど、一番大事なのは大神官さまだから」


 秤にかければ、間違いなく恭哉兄ちゃんが一番重くなる。

 それは、既に証明されていることだった。


「ああ、なるほど。確かにケーナは大神官最優先主義だね」

「いや、そこで納得するな、ナーシャ!!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ王女殿下。


 たまには、わたしたちだって、彼女を揶揄いたくもなるよね?

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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