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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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従者からの忠告

「先ほどは、ありがとうございました」


 松橋くんと別れた後、すぐに雄也先輩にお礼を言った。


「キミたち親子を護るのが俺たちの役目だから、礼は良いよ」


 そう言って、彼は笑った。


「駄目ですよ。役目でもちゃんとその度にお礼は言わないと。守られることを当たり前にしたくないんです。だから、今後も言います」


 あまり、助けられる機会がない方が良いのだが、現状でそれを望むことはできない。


 守られなければ生きていけない以上、せめて、彼らの手を煩わせないようにはしなければいけないのだ。


「なるほど……。栞ちゃんの気持ちはわかったよ」


 そう言って、雄也先輩は微笑んでくれた。


 なんというか、微笑みが似合う人だよね。

 そして、いろいろと整いすぎて、かなり緊張する。


 隙がないと言うか……。


 友人である高瀬も、わたしやワカに隙を見せようとしないが、それでも年相応な部分はある。


 でも、この人は、2歳も上ということもあって、今の所、あまりそんな緩いところを見せてくれない。


 強いて言えば、九十九がいる時は、ちょっとだけ違う雰囲気なので、やっぱりその存在を恋しく思ってしまった。


「それにしても……、彼は、素直だね。夢魔が憑いたのも分かる気がするよ」

「まあ、話したことはほとんどなかったですけど、聞こえてくる評判はそんな感じですね。夢魔は素直な人間に取り憑くのですか?」

「魔界の夢魔は、純粋で穢れの少ない魂を持つ生命力が強い人間を好むと言われているね」

「ああ、なるほど」


 松橋くんは、彼女と付き合うまでは、爽やかな弓道少年だった。


 そして、たまたま目をつけられた九十九も、穢れが少ないかは分からないけれど、素直だし、魔界人ってこともあるから生命力もかなり強そうだ。


「彼があれでは……、従者たちも心配だろう」

「従者……たち?」


 従者って付き従う人のこと……、だよね?


「あの結界の維持をサポートしていた子たちがいた。多分、あれは彼の従者……、俺たちみたいな護衛だと思う」


 雄也先輩は後方を気にしながらそんなことを言った。


 そうか……。

 護衛って従者になるのか。


「……ってことは、やっぱりまだ……、他にも魔界人がいるんですね」

「そう言うことだね。しかも、彼と同じ制服、栞ちゃんと同じ制服……の2人組」


 それは……、昨日までわたしと同じ中学校に通っていたことを意味する。


「あの……、紅い髪の男の人が言っていたのも本当だったんですね。あの場に、魔界人がいるって……」


 あの紅い髪の人は魔界人をあの場で見つけ出すために現れたと言っていた。


 つまり、少なくとも3人、夢魔である渡辺さんを入れれば、4人の魔界人があの場所にいたことになる。


 3年間、通っていたのに、まったく気付かなかった。

 いや、分からなくてもおかしくはないのだろうけど。


「噂をすれば……かな」

「え?」


 雄也先輩の視線の先には、校門に立って、明らかに誰かを待っている男女の姿がある。


 わたしと同じ中学校の制服を身に纏った2人は、まっすぐにこちらを見ていた。


 そうか……、あの2人も魔界人だったのだ。


 それを妙に納得してしまう。

 いや、驚きすぎてわたしはどこかおかしくなってしまったのかもしれない。


 でも、魔界人ってそんなに身近にゴロンゴロンしているものなのだろうか?


 もしかして、わたしが知らなかっただけで、実は、日本全国津々浦々、魔界人三昧?


「どうしようか?」

「え?」


 雄也先輩がわたしのことを気遣うように問いかけを続ける。


「あの校門を通らずに進むルートもあるよ? それなら魔法を使う必要もない。伊達にこの高校に2年も通ってないからね」


 このまま校門に向かわず、回避して別の方向から外に出る。

 それも選択肢の1つだと言う。


 確かに、また絡まれても嫌だし、面倒だとも思う。でも……。


「いえ、あの人たちはわたしたちを待っているのかもしれませんから。多分、逃げない方が良い気がします」

「そうだね。何か言いたそうな顔をこちらに向けている辺り、キミに用があるのは間違いなさそうだ」


 だが、何と声をかけたものか……。

 知らない顔ではないが、いざこうなると何を話していいか分からない。


 そんなことを考えているうちに校門の前まで来てしまった。


 仕方ない。


「さようなら、()()()()()()()


 あれこれ考えた挙句、2人に無難に挨拶して通り過ぎようとした。


「シオちゃん」


 だが、真理亜から口を開いた。


「何?」


 それを無視するのもおかしいので、反応する。


「もし、シオちゃんが本当に魔界人じゃないのなら、これ以上、魔界に関わらない方が良いよ」


 抑えているが、迫力のある声。

 空気がチリリっと音を立てた気がした。


 それは、いつもの真理亜の表情とも声ともあまりにも違いすぎて、わたしは彼女の顔を改めて見る。


 いつものどこか幼くて可愛いらしい顔ではなく、今の真理亜は年相応に見えた。


 そして、彼女はわたしの側にいる雄也先輩のことなど構わずに言葉を続ける。


「魔界は人間が興味本位で首を突っ込んで良いところじゃない。あの紅い髪の人みたいな人間だっている。だから……これ以上、魔界人に近付かないで」


 それは、まるで警告だった。

 危ない目に遭いたくなければ、関わるなとある意味当然の言葉を口にしている。


 彼女が友人としてその言葉を口にしたのか、魔界人として言ったのかなんて分からない。


 だけど……。


「真理亜、ご忠告どうもありがとう。わたしも自分の身に火の粉が降りかからなければ、本当に魔界という名の異世界とは無縁だったはずなんだけどね」


 そう笑顔を返す。


「シオちゃん……」


 その言葉をどうとったのか……、真理亜は目を逸らした。


「高田さん」


 低くて心地良い声が耳に響く。


純一(ジュンイチ)をそっとしといてくれて、ありがとう」


 階上くんはお礼を言った。


「彼がそう望んだから。責任は自分でとるとも言っていたし。魔界のことをよく知らないわたしが口を出していい話ではないから、この件に関してお礼は言わなくていいよ」


 そもそも……、彼のためにしたことじゃない。


「でも……、もし、またわたしの周りにいる人間に、あの夢魔が手を出すなら話は別だよ。わたしは非力だけど、なんとかしてみせる」

「非力……?」


 わたしに言葉に真理亜が眉を顰めた。


 そんな顔をされても困る。


 わたしは十分、非力だと思うのですよ?


 魔法も使えない、無力な人間って言ったほうが良かったかな?

 でも、そこまで卑下したくもないんだよね。


「真理亜」


 階上くんが、それを諌めるように言った。


 それを見て、少しだけ、わたしの胸がざわついた気がする。

 ……うん、それはきっと気のせいだ。


「分かってる。高田さんの彼氏にはもう手を出させない」


 そう言った彼の顔も、いつもとはほんの少しだけ違った。


 ここにいるこの2人は、わたしが知る人間ではなく、魔界人なのだというように……。


「シオちゃん……。それでもボクは、人間が魔界に関わって欲しくない」


 もう一度……、念を押すように彼女は言った。

 でも……。


「ごめん、真理亜。それは……無理……かな」

「どうして?」

「わたしにとって()()()()()()()が魔界に関わっている以上、まったくの無関係ってわけにはいられない」


 わたしはともかく、母親が魔界の王様と関わってしまった以上、何も知らない呑気者ということもできないだろう。


 まだ見たことはないけれど、わたしの母上は魔法が使えてしまうらしいし。


「大事な……人……?」


 真理亜が戸惑いの表情を浮かべる。


 わたしの言葉をどんな意味に受け止めたかは分からないけれど、詳しく事情を説明する義務はない。


 卒業式については微妙なところだけど、夢魔の件に関しては、こちらは巻き込まれた側なのだ。


「話はそれだけ? ワカを待たせているから、そろそろそちらに向かっても良い?」

「え? あ? ……うん……」


 真理亜はまだ何か言いたそうな顔をしていたけど、これ以上追求せずに頷いた。


「じゃあ、改めて。さようなら、真理亜、階上くん」

「うん……。バイバイ、シオちゃん」

「さよなら、高田さん」


 そう言って、2人と別れた。


 この2人と人間界で対面するのは、この時が最後となる。


 それから、かなりいろいろあった後。


 今日のことについて完全に忘れた頃に、意外な形での再会となってしまうのだが、それはまだ先の話であった。

栞は「大事な人」という言葉を「母親」のつもりで言いましたが、真理亜は別の人だと受け取りました。

事情を伝えていないので、仕方ありませんね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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