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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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愛に溢れている

 いろいろとやるせない気持ちになる。


 これまでの事情は分かった。

 そこに至るまでに経緯やその背景も含めて。


 だけど、それらを深く知れば知るほど、もっと他に方法はなかったのか? と、思ってしまう。


「私の話は以上だ。まあ、後半のほとんどは、お喋りな従者が言ってしまったがな」


 カルセオラリア国王陛下はそう言った。


「いえ、僅かでも御心が窺い知れて良かったと思います」


 モヤモヤしたものは確かに残っている。


 でも……、何も知らなかった時よりはずっと良い。


「恨み言は?」

「ございません」


 恨む気持ちなど始めからなかった。

 わたしは、ただあの人の気持ちを少しでも知りたかっただけなのだ。


「時間を取らせてすまぬ。本来なら、こちらから出向くべきことなのだが……」

「いいえ。国王陛下が動けない事情も分かりますから」


 頭の中に金髪の王さまの顔がちらついた。


 情報国家の国王陛下が同じ屋根の下にいる状況で、国家の事情をべらべらと外部の人間に話すことなどできないだろう。


 いや……、それらがなくても、普通に考えれば、王さまという立場にいる人間が、謝罪やお礼のためにわたしたちを訪ねるというのは、いろいろとおかしい気がするのだけど……。


「ところで、高田さん」

「何?」

「キミは一度も俺と陛下の関係を尋ねないね? そんなに興味が湧かないことかい?」


 妙に笑顔で、湊川くんはわたしに確認する。


「言いたくないことだと思っていたから」


 誰でも、一つや二つ、隠したいことはあるだろうと思っていた。

 だから、あえて触れなかったのだ。


「親戚かな……と思っていた」


 ただの臣下にしては、親しすぎる気がした。


 しかも王子たちならともかく、彼の年齢を考えると国王陛下に臣従年代ではない気がする。

 実際、先ほど別の部屋にいた従者たちは、かなり年上のように見えたから。


「実は、()()


 彼は、ここにきて笑顔で爆弾発言をかましてくれた。


「はいっ!?」


 あ、あれ!?

 それって……?


 思わず、すぐ傍の国王陛下の顔を見てしまう。


「外部の人間にあまり、馬鹿なことを言うな、カズトルマ。私の血を引く人間は、三人……いや、今は二人だけだ」


 わたしの視線を感じたのか、国王陛下はあっさりと否定した。


「いや……、まさか、本気にされるとは思わなくて……。素直だな、高田さんって……」


 その湊川くんの表情で、わたしは彼から揶揄われたことに気付く。


 酷い話だ。

 うっかり本気にしてしまったじゃないか。


 そして、同時に妙に納得してしまったし。


「俺の顔だって、魔気だって、この陛下とは全然、違うだろ? それでも信じてくれるとは思わなかった」

「魔気はともかく魔界人って顔は兄弟でも似てないことがあるから……」


 魔界人の顔は、親子兄弟姉妹でも全く似ていないこともあるのだ。

 それは、生まれる前の「祖神」の影響だと聞いている。


「本当に可愛いなぁ、高田さんは……」

「嬉しくないなあ……、その言い方は……」


 褒められている気がしない。


「そんな可愛い高田さんは、トルクスタン王子殿下の嫁になる気はない?」

「ああ、それ? もう当人に断ったよ」

「は? こっ!?」


 その話を知らなかったのか、湊川くんはカルセオラリア国王陛下を見る。


「トルクスタンは、そこのシオリ殿に振られたらしい。その報告は私にも届いている」


 カルセオラリア国王陛下は涼し気な顔のまま、そう答えた。


 ちゃんと報告していたのか、トルクスタン王子殿下。

 わたしに求婚したことも、断られたことも。


「えっと、その理由を聞いても良い? 」

「それについては、いろいろあるけど、最終的にはわたしだけでなく、護衛たちも含めて国に利用される未来しか見えないと言えば、納得できる?」


 本当はそれだけではないのだけど、一番、説得力があるのはこれだろう。

 それ以外に余計なことを言っても仕方ないのだ。


 実際、湊川くんは、九十九を見て……溜息を吐いた。


「すっげ~、この男、愛されすぎ」


 一言、そう呟いた。


 いや、わたしの護衛って、九十九だけじゃないのだけど?

 ちゃんと「たち」って言ったよね?


「よく分からんが、オレ、愛されてたのか?」


 それまで黙っていた九十九がポツリと言った。


「さあ?」


 そんなことを真顔で聞かれても本当に困る。


 できれば、これ以上深く追求せずに、このまま黙っていて欲しかった。


「いや、かなり愛されてるだろ? その自覚はねえのか?」

「ないな。日頃から魔法の的にされるような愛ってどんな愛情だよ」


 九十九は心底不機嫌な顔でそう言った。


 そして、その言葉に心当たりがあるために、わたしは何も言えない。

 つい最近も、彼を吹っ飛ばしてしまったし。


「あ~、え~っと? 壊れるほど……いや、壊したくなるほどの愛?」


 流石に予想外の答えだったのか、湊川くんも明後日の方向を見ながら、そう言った。


「そんな激しい愛情ならいらん。それに、オレにも選ぶ権利はある」


 確かにその点については、申し訳なく思う。


 護衛の仕事をさせているため、彼の選択肢を減らしている原因は間違いなくわたしにあるのだから。


「だけど、()()()()()()()()()()()()()、かなり()()()()()()()()()()()と思ったんだが……」

「「は? 」」


 湊川くんの言葉に、わたしと九十九は短く返す。


「ああ、そうか。これ……。残念ながら試しに刷った5部しかないけれど、ちゃんと渡しておくね」


 そう言って、彼はその手にある物を召喚した。


 そして、その手にしていたのは……、わたしが初めてまともに描いた漫画を本にした物だったのだ。


 わたしは震える手でそれを受け取る。

 まさか……、この手にできるとは思っていなかった物が、この手にある。


「かなり遅くなったね。そして……、それだけしかなくてごめんね」


 彼の謝罪に対して、わたしは無言で首を振った。


 恐る恐るその本のページを捲り、丁寧にゆっくりと中身を確認する。


 それは拙くて、あちこちに粗も目立つけれど、確かにわたしが生まれて初めて最後まで描ききったものに間違いなかった。


「ありがとう。これを守ってくれて……」


 思わず、本を抱き締める。


 潰さないように、でも、しっかりと。


「あんな状況でこれを守るのも大変だったでしょう?」


 わたしが飛ばされた後、どれくらいの時間、機械が動いていたかは分からない。


 でも、わたしが見た時点ではまだ、印刷の途中だったし、当然ながら、製本もされていなかった。


 わたしを、ウィルクス王子殿下の元へと運んだ後も、彼は本を創り続けてくれたのだ。


「うん、正直、死ぬつもりだったし、実際、死にかけた。でも……、『お絵描き同盟』だからね。同盟相手の大事な作品だけは守らないと」


 そう言って、彼は笑った。


「いや、ちょっと待て」


 そこで、文字通り、割り込んでくる九十九。


 そのまま彼は、湊川くんとわたしとの間に立った。


「無粋な従者だな。ここは、感動の場面だろ? 部外者は黙って見守ってくれよ」

「死にかけたお前がどうやって助かったのか。まだ聞いていなかった」

「そう言えば……、そうだね」


 少なくとも、わたしは、彼のことは行方不明としか聞いていなかった。


「あ~、俺が助かった理由? 単純な話だよ。城が崩れ始めた時には俺は既に城にいなかったんだ」

「は?」

「城が崩れる直前に死にかけてね。この国に治癒ができる人間は限られているから……、内密に城下の聖堂から国境の町ベゴルベオにある聖堂に移動していたんだ。俺はあの有事の時、いなかったんだよ」


 なるほど……、彼はそれで、行方不明扱いだったのか……。

 でも……。


「なんで内密に?」

「俺がやられた理由が理由だったからね。誰にも言わなかった。暫く聖堂で休んでいたのだけど、戻ってきてびっくりだよ。城が無くなっていたのだから」

「それを『びっくり』という軽い言葉ですませるのはお前ぐらいだ、カズトルマ」


 カルセオラリア国王陛下は溜息交じりでポツリと言った。


「もし、お前に何かあれば……、私は聖霊界でどれだけの人間に詫びなければならぬのだ?」

「あ~、その時は俺も聖霊界で一緒に詫びるから問題ないですよ」


 カルセオラリア国王陛下の言葉は重く、それに反して、湊川くんの言葉はかなり軽かった。


 なんという温度差がある会話なのだろう。


 でも……、湊川くんを大事に思っている人の一部は、既に亡くなっているのだなと理解した。


「だから、城が崩れている時、意識を失っていた俺が、仕えるべき人間を守れなかった理由は分かってくれたかい? その原因はキミにもあるんだよ、護衛くん」


 何故か九十九にそんなことを言う湊川くん。


「なんで、オレが原因なんだよ?」

「死にかけたって言ったろ? キミからのボディーブロー、本当に痛かったよ。一瞬、息が止まる体験なんて、するもんじゃないね」

「……あれはお前のせいだ」

「九十九……、何、やったの?」


 どうやら、嘘でも誇張でもなく、本当に九十九のせいで、城が崩れる前に、彼は怪我を負っていたらしい。


「大丈夫だよ、高田さん。彼のやった行いは正当だから。もうちょっと手加減してほしかったけどな」

「え……? でも……、死にかけたのでしょう?」


 それは過剰な制裁だった可能性もあるのではないだろうか?


 そう考えると……、わたしはなんとも言えない気持ちになるのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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