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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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魂の精製だけは

「結論から言えば、第一王子がマオリア殿と行っていた実験については、私も知っていた」


 カルセオラリア国王陛下は、高田に向かってそう切り出した。


「其方がこのカズトルマによって転移させられたあの場所……。多くの人ならざる者たちが漂うあの空間を提供したのも、私だ」


 そこには、先ほどまでの迷いがある瞳とは違うものがあった。


 この国王は、寸前まで迷っていたが、彼女が自分の従者に力強い持論をぶつけていた姿を見て、覚悟が決まったように見える。


「それは……、彼らの目的に、陛下も賛成されていたということでしょうか?」


 カルセオラリア国王陛下の……、いや、カルセオラリア国王の言葉にも動揺を見せず、高田は問いかける。


 少し前、あれほど取り乱していた女と同じ人間だとは思えなかった。


 彼らの未来を奪ったかもと、関係もないのに巻き込まれたことに対して、恨み言を何も言わずに、ただ自分だけを責めていた少女。


 だがそれは、先に真央さんやトルクスタン王子から話を聞いていたために、その心に余裕ができたのかもしれない。


 心構えがある分だけ、あの時とは決定的に違うのかもしれない。


「いや……、協力はしたが、賛成はしていない」


 その言い分はどうだろうか?


 完全に部外者のオレからすれば、場所を提供している以上、ただの責任逃れとしか聞こえない言葉だ。


 「死人は(Dead men)どんな(tell)話もしない(no tales.)」……。それを知る当事者は既にこの世にいないのだから。


「アレは、生命の(ことわり)から外れている行いだ。神より怒りを買うことも考えられた。そうなれば、我がカルセオラリアが滅んでいた可能性はあっただろう」


 そこについて、疑問が湧く。


 どう転んでも、国が滅ぶ可能性があると分かっていたのに、何故、止めなかったのか?


「国が滅ぶ可能性があることが分かっていて、何故、国王陛下は、王子殿下を止めなかったのでしょうか?」


 高田も同じように疑問を持ったらしい。


「第一に、無理だと思った」


 国王は即答する。


 なかなか酷い理由だった。

 そして、それが一番目に来るのかよ。


「神に人間を創ることができても、人間が道から外れた手段を持って新たな生命を創り出すことなどできぬ。その昔、世界が滅びの危機に陥った時、似たようなモノを創り出そうとしたが、できたのは、中身のない器だけだったと記録されている」

「器……、だけ……ですか?」

「人間の肉体に関しては近しいモノが出来上がったらしい。だが、それを動かす力……。魂と呼ばれるモノが宿らなかったと、史書には残っている」


 高田の純粋な疑問に、カルセオラリア国王は丁寧に答えてくれる。


 ……どうやら、この方は説明好きらしい。


 嘘か(まこと)か分からないが、大神官の話によると、魔界人は生まれる前に「聖霊界」と呼ばれる世界から、神によって肉体に魂を送られるらしい。


 その送り方は、まさに神の気まぐれ。


 ただ肉体に送る(放り込む)だけの神がほとんどだが、加護を与える神もいたり、その運命に悪戯(干渉)したりするそうだ。


 中には、高田のように、「分魂」と呼ばれる「神力(ちから)」を授かったり、「ご執心」と呼ばれる呪いを受けたりすることもあるが、それらはかなり稀らしい。


 そんな稀少な事例が二つ同時ってどれだけレアなヤツなんだろうな、この女。


「造られた肉体(うつわ)動力(たましい)が宿らなかった事例について、王子殿下はご存じだったのでしょうか?」

「カルセオラリアの人間は、身分に関係なく知っている話だ。人間と精霊、人間と魔獣など、他種族間の生物を掛け合わせることはできても、魂の精製だけはできない……と」


 今、さらりととんでもないことを言わなかったか? この国王。


 さり気なく、異種交配は可能って言ってるぞ?


 人型に近い姿になれる精霊ならともかく、かなり離れているものが多い魔獣……、獣相手って、どんな剛の者だよ?


「それでも……、できないと言われたら、挑戦したくなってしまうところが技術者、研究者の厄介なところでね。魂の研究や創造などの挑戦は今も続いているんだ。まあ現在は、古文書を掘り起こしても、人間の肉体を創り出すことすら難しいみたいだけどね」


 カルセオラリア国王の言葉に、従者も続けた。


 つまり、今回はたまたま外部の人間が目撃したから露見することになっただけで、もしかしたら、国内の至る所で似たようなことが行われていた可能性もあるってことか。


 いや、もしかしなくても、先ほどの異種交配の話からすれば、もっとタチの悪い物が生み出されている可能性もある。


 異形の合成獣とかが生まれていてもおかしくはない。


 だが、同時に……、妙に納得できるものがあった。


 今回の件は、思ったよりも王族を責める声が聞こえていなかったのだ。

 あれだけの目に遭って、傷ついても、国民はほとんど文句を言わずに口を閉ざしていたのだ。


 普通なら、暴動や反乱が起きてもおかしくないような状況だったのに。


 オレはそれを、相手が王族だったからだと思っていた。


 その上、経緯や詳細は伏せられてもいたために、正しい情報もなく、それぞれがまとまった判断ができなかったためだとも思っていたのだ。


 だが、違う。


 実は、あんな事態を引き起こす可能性は、王族に限らず、城下にいる誰にでもあったと言うことなのだろう。


 たまたま王族だっただけで、実際は、国民同士、「同じ穴(Birds of)の狢( a feather)」というヤツだったのだ。


 それなら、確かに互いに責めることはない。「今日は人の( Today )身の上、( you ,)明日は我が身( tomorrow )の上( me .)」とも言うからな。


「先ほど、国王陛下は『第一に』とおっしゃいましたが、二番目の理由についてもお聞かせ願えますか?」


 高田が、やんわりと先を促す。


 本当は彼女自身も混乱しているはずなのに、それでもその姿を見せない。


 奥底でずっと感情をぐるぐるとさせたままでいても、それを表面には出さなくなった。


 それは、水尾さんのように、他者の体内魔気に敏感ではなければ気付かないような感情の制御。


 ここまで見事に隠しきることができれば、相手が王族であっても、簡単には見抜けないだろう。


「第二か……」


 カルセオラリア国王はフッと一瞬、その表情を緩めたが……。


「どのように歪な形だとしても、自身が持つ探究心や追究心、何よりも好奇心は、他者の介入ぐらいで容易に止められぬものだ」


 そう言いながら、高田を強い瞳で見据えた。


「それに、己れが納得せぬまま、周囲からの過干渉による邪魔や妨害があれば、意固地となったことだろう。自身の行為が害悪だと理解した上でな。だから、応援もしなかったが、強く反対もできなかった」


 その理論は理解できなくもないが、納得はしたくない。


「それは国王としての立場ではなく、親としての意見……、ということでしょうか?」

「……と言うと?」


 高田の問いかけにカルセオラリア国王は感情のない顔で問い返した。


「一国の王ならば、その相手が王族であっても、国を脅かすような行動を看過してはならないでしょう? それが一個人の知的欲求を満たすためだけの行為なら、尚のことです」

「一個人の知的欲求を満たすためだけのことなら、其方の言い分は正しい」


 カルセオラリア国王は溜息を吐く。


「だが、第一王子が子を成せない身体と言うのは、それだけ問題なのだ。そして、これが、第三の理由に繋がる。神の怒りを買ってでも、我が国には、あの愚息の血を引く子が必要だった」


 つまり……、世継ぎ問題になるわけだ。


「第一王子殿下に後を継いで頂いた後、トルクスタン王子殿下の子やメルリクアン王女殿下の子を養子にする……ではいけなかったのでしょうか?」

「それは、長い目で見れば、未来への後継者問題に繋がる。何よりも……、あの二人の子では、周囲が認めぬ」

「周囲?」


 カルセオラリア国王は俯く。

 テーブルの上で握られた両拳が震えて見えるのは気のせいではないだろう。


「トルクスタンは……、機械製造よりも、()()()調薬が好きな男だ」

「そうですね……」


 おいおい、父親から不毛とまで言われてるぞ、トルクスタン王子!


「メルリクアンは……絶望的に機械の製造の才がない。壊すことには長けているようだがな」

「はあ……?」


 おいおい、城下での様子では、結構、不器用だとは思っていたけど、絶望的とまで言われてるぞ、メルリクアン王女!


「そんなあの二人の血では、周囲が納得しない!」


 ちょっと待て、オッサン!?


「人為的に造られた生命体の方が、周囲は認めがたいと思いますよ」


 高田が、ぐうの音も出ないほどの正論を言い切った。


「俺も何度かそう言ったんだけどね。陛下も、第一王子殿下も聞き入れてくださらなかったんだよ」


 従者がわざとらしいほど深い溜息を吐きながら、そう言った。


「ある意味、成功すれば、機械国家の技術の喧伝になるってさ」

「機械国家の王族が『阿呆』って宣伝にしかならないと思うのだけど……」


 身も蓋もないような言葉を高田は容赦なく続ける。


「高田さんはなかなか、旨いことを言うね」

「ごめん、不敬だとは思ったけど……、流石にここまでだと言いたくもなる」


 そんな彼女の言葉にオレも心底同意したかった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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