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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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会わせたくない

「行くのかよ」

「うん」


 高田は力強く頷いた。


「お前をこんな目に遭わせたきっかけを作った人間だぞ?」

「彼がやったことは、わたしをウィルクス王子殿下の元へ送ったことだけ。実際、危害を加えられてはいない。それに……、上からの(めい)ならば、下の人間は従うしかないでしょう?」


 彼女は、そんな正論を言うが、オレは納得できない。


 少なくとも、きっかけなのだ。

 ヤツが突然、高田に近づいたのは、そのためだったとも言える。


 オレは、彼女がどれだけ、絵を……、漫画を描くことを楽しんでいたのかを知っている。


 そんな純粋な気持ちを利用したことは、オレには許せなかった。


「実はさ。リヒトから先に言われていたんだよ。彼がわたしに近づこうとした理由」

「は?」


 彼女はさらりと言うが、オレはそれが信じられなかった。


「トルクスタン王子殿下に近づいてきた他国の人間たちを、カルセオラリア国王陛下から調べて欲しいって言われていたらしい」


 それは、オレたちのことか?

 だが……。


「王子殿下じゃなくて?」

「うん。父親の、カルセオラリア国王陛下の方。まあ、当然だよね。第二王子殿下が利用されても困るだろうから」


 そう言った意味では、トルクスタン王子がオレたちに近づいてきたのも、実は、そんな理由があったのかもしれない。


「そろそろ危険かもしれないから、気を付けろって忠告されてはいたのだけどね……」


 長耳族のリヒトは人間の心が読める。

 それは言いかえれば、どんな人間の企みも、事前に分かると言うことだ。


「分かっていて、罠に嵌ったのか?」

「いや……、まさか……、強制転移をされるとは思わなくて……」


 どこか気まずそうに視線を逸らす高田。


 ああ、うん……。

 自分でも阿呆だったことは分かっているようだった。


「オレに一言、先に言えよ」


 どうせ、言わなくても大丈夫だと思っていたのだろうけど。


「言えば、九十九は警戒して、彼に会うなって言ったでしょ?」


 だが、ちゃんと理由はあったようだ。

 オレに止められたくはなかったと彼女は言う。


 そして、多分……、言っただろうな。

 その方が確実に安全だから。


「それは、すっごく嫌だったの」

「そこまで、あの男に会いたかったのか?」


 そこに罠があるかもと分かっていても?


「……うん」


 高田は少しだけ、頬を染めてそう答えた。


 その表情に少しだけ胸がざわついた。


「それだけ、気兼ねなく漫画を描けたのって、初めてだったんだよ!」


 力強く拳を握り締め、力説する彼女。


「……そうか」


 平常運転過ぎて、呆れてしまうが……、これがこの女だった。


 そして、いつもと変わらない彼女を見て、酷く、ホッとしてしまうそんな自分もかなり嫌だ。


「それで……、あの男に会うのか?」

「ご指名だからね」

「止めておいた方が良いと思うぞ?」

「うん……、でも『お絵描き同盟』の名前を出してきた以上、同盟者としては会わないわけにはいかないよ」


 そう言いながら、彼女は無防備に笑う。


 一度は罠に自分を罠に嵌めたような相手に対して、何故、こんなことを言えるのか?


 オレには、その辺りが本当に理解できない。


「それに……、九十九がいるから大丈夫でしょ?」


 そして、その信頼は嬉しくもあるが、重くもある。


「そのオレの目の前で、お前は強制転移されたのだが?」

「それは、カルセオラリアでしょ? ここはストレリチアだよ?」

「相手は機械国家だ。どんな魔法道具を隠し持っているか分からないだろうが」


 日本刀を隠し持っていた男を思い出す。


「心配性だね、九十九は……」

「お前が、不用心なだけだ」


 もっと警戒すべきだと思う。


 できれば、誰の目も届かないところで、ずっとじっと大人しくしてくれたら、どんなに楽だろうか?


 そうすれば、他人と関わらず、無闇にその心も身体も傷つくこともないのに。


「どちらにしても、彼がわたしを呼び出した理由は知りたいところなのですよ」


 その気持ちは分からなくもないが、やはり、反対したい。


「リヒトにでも聞けよ。すぐ分かるぞ」

「それは……、何か、違うでしょ?」


 それは……、分かっている。


 単純にオレが、あの男に彼女を会わせたくないだけだ。


「九十九が心配してくれるのも分かるけど、彼も他国で阿呆なことはしないと思うよ。大神官さまも、一応、彼を知っているワカも黙っていないだろうし」

「若宮もアイツのこと、知っているのか?」

「同じ中学校出身だからね。知っていたはずだけど……」


 そう言えば、そんなことを言っていた気がする。


「まあ、彼に会ってみましょう。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』って言うし」

「『君子危うきに近寄らず』、『命あっての物種』……って言葉を知ってるか?」

「ぬう……」


 どうも納得できないらしい。

 この女には、「石橋を叩いて渡る」という言葉も贈るべきだろう。


「じゃあ、雄也先輩に相談する?」

「……それ、お前が言えば、兄貴は反対できないって、分かっていて言ってるだろう」


 寧ろ、勧めるかもしれない。


 高田の言う通り、他国で馬鹿をやるようなヤツは少ない。

 だから、ある程度安全ではあるのは分かっているのだ。


 それに今の状況で馬鹿なことをやらかせば……、明日に控えた会合を前に、機械国家の存続自体が危うくなるだろう。


 今、この国には中心国の王たちが集まっているのだ。


 他国間の諍いであっても、自分たちがいる場所で、度を超す愚行を見逃すほど甘くはないと信じたい。


「九十九は、どうしても反対?」

「どうしてもじゃねえよ。単純に、もう少し、考えろって言ってるんだ」


 考えたところで、結論が変わるとも思っていない。


 どうせ、オレがどれだけ反対したところで、いつものように、高田は思いのまま、突き進むのだ。


「それで……?」

「ふえ?」

「アイツはどこで待ってるって言ったんだ?」


 オレがそう言うと、彼女は分かりやすく表情を変える。


「城内の『藍羽(らんう)()』」

「ああ、なるほど……。カルセオラリアの国王に付いて、この国に来たってことか」


 どの国も同じなのかは分からないが、この国では、中心国の王族が来た時のために、それぞれ専用の部屋を用意しているらしい。


 例えば、セントポーリアなら「橙羽(とうう)()」、イースターカクタスなら「黄羽(おうう)()」というように、それぞれの大陸神の御羽(みはね)とやらに合わせた名前がついている部屋らしいが、詳しくはよく分からん。


 因みに中心国以外の国も大陸の象徴色(シンボルカラー)に合わせた部屋が用意されているけど、そこには「羽」という言葉が付かないそうだ。


 カルセオラリアはスカルウォーク大陸。

 大陸の象徴色(シンボルカラー)は「藍」。


 そして中心国と言うことで、「藍羽(らんう)()』」。

 そこにカルセオラリアの国王陛下と、外交補佐や事務官、その従者たちがいるはずだ。


「場所は分かるか?」

「流石に……、『御羽(みはね)()』は分かるよ」


 神々を模した柱に囲まれた城。


 その五階が「御羽(みはね)()」と呼ばれる中心国の王族たち用の豪華客室が並んでいる通路がある。


 その扉を開けると、さらにいくつもの部屋があり、王族たちのくつろぐ部屋だけではなく、従者の控室や簡易厨房などもあって……、それだけでも一般庶民の家を越えるほどと言うのだから、いろいろおかしい。


 部屋の入口となる扉の間隔も……、オレたちが以前借りた部屋が何部屋も入りそうなほどあいているのだ。


黄羽(おうう)橙羽(とうう)の部屋だけは気を付けないとね」

「そうだな」


 言い替えれば、気を付けるのはその二箇所だけだ。


 イースターカクタス国王とセントポーリア国王陛下がいると思われる部屋。

 どちらもうっかり鉢合わせると面倒なことになりそうな予感しかない。


 そして、ある意味、セントポーリア国王陛下の方が、オレは、会いにくかったりする。


 兄貴と違って、10年以上もご無沙汰しているのだ。

 魔界に還った時も挨拶すら、行かなかった。


 ……まあ、タイミングもなかったと言うか……?


「大神官様は、『御羽(みはね)()』の結界は特別だって言っていた。本当に、中にいる人の気配が分からないね」

「特殊な結界が結ばれているらしいからな」


 各国の王族を専用の場所に押し込め……、いや、集めているのはその結界の関係らしい。


 王城の中では、地下に次いで、強固な結界が存在する場所。


 まあ、他国に来てまで魔力を暴走させるような王族はいないと思うが、それぞれの魔力が干渉しあう可能性はある。


「……っと、『藍羽(らんう)()』はここだね」


 オレたちは、深く濃い青色の羽が描かれた扉の前に立った。


 神の絵ではなく、藍色の羽が舞うような彫り物がされている。


「まさか……、こんな所に縁があるとは思っていなかったけど……」


 本来、他国の王族に呼び出されでもしない限り、来ることはない通路。


「つ、九十九!? この扉、金属のよく分からないものが付いているよ!?」

「落ち着け。それはただの『ノッカー』だ」


 高田が指さすのは、どう見ても訪問者が来た時に使う金具だった。

 どうやら、呼び鈴ではないらしい。


「……こんなの漫画の世界だけだと思っていた……」


 そう言いながら、どこかぼんやりした表情の高田が金具に向かって手を伸ばす。


「ちょっと待て。オレが使う」


 オレは、彼女の手を握って止めた。


「ほへ?」


 不思議そうにオレを見る高田。


「これ自体が罠だったら困るだろう?」


 それを考えない方が不思議なのだが?


「うぬう……。わたしもこれ、使ってみたい」


 好奇心が勝っているらしい。


 阿呆か、この女は……。

 これは、ただの音を出す道具にすぎないのに。


 だが、そんなオレたちの間に……。


「相変わらず、仲が良いね」


 そんな声が聞こえたのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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