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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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会合が終わったら

 その部屋の扉を閉じるとほぼ同時だった。


「シオリ嬢、偶然だな」


 金髪の……、どこか軽そうな男が声を掛けてきた。


 歳は……二十代後半に見えるが、恐らくは四十代。

 どことなく、見知った誰か……に見えて、妙に腹立たしさを感じる。


 ……まさかと思うが、この男が情報国家の国王陛下なのか?


「お芝居は苦手ですか? イースターカクタス国王陛下」


 高田は、そう言いながらも一礼した。


 オレも少し、後ろで頭を下げる。


「ほう……。先ほどとは雰囲気が変わったな」


 どことなく、嬉しそうな声。


「そこの男は? 神官とは随分、毛色が違うようだが……」

「わたしの護衛です」

「ほう? シオリ嬢の従者はどちらも黒髪と聞いていたが?」


 どことなく笑みを含んだその言葉にゾッとする。


 一度も、会ったこともない人間について、どこまで調べているんだ?


 しかも今、この男は「どちらも」と言った。

 つまり、その数が二人ということも伝わっている。


「どこからの情報でしょうか?」

「情報の出所は秘密だ。ああ、シオリ嬢が何かの情報と引き換えるのなら、考えるが?」


 情報国家らしい取り引き。


 ただでは、情報を渡さないと言うことか。


「いえ、別に……。情報源に関してそこまで興味はないので大丈夫ですよ」


 気のせいかもしれないが、高田の背後に若宮や、グラナディーン王子殿下の婚約者の姿が見える気がした。


 そうだよな。

 アイツらとずっと付き合っているのだ。


 この女だって、普通の女じゃねえよな。


「ただ、彼がわたしの護衛という事実には変わりませんので」

「なるほど……。それは確かに……」


 こうしてみると、あまり意識していなかったが、高田も随分、成長したと思う。

 特に、言葉の駆け引きというやつが……。


 これについては、水尾さんより、若宮の手柄だろう。


「従者……、いや、そこの護衛の名前を伺っても?」

「お断りします」


 情報国家の国王の問いかけを、高田がきっぱりと拒絶する。


「大事な護衛の名をお伝えできるほど、わたしは陛下を信用しているわけではありませんので」


 そんな少し間違えれば、無礼ととられかねない返答に、情報国家の国王がくっと笑う気配がする。


 高田の反応は、この国王にとって合格ラインな(悪くない)のだろう。


「流石はチトセの娘だ。反応がいちいち可愛くない」


 突然出てきたその名前に、思わず、顔を上げそうになるが、なんとか我慢する。


「だが、実に俺好みだ」


 堂々と、この情報国家の王(エロ親父)は、そんなことをのたまった。


「お褒めの言葉として頂戴いたします」


 だけど、高田は動じない。


「そこの護衛も顔を上げろ。頭を下げられるのは趣味じゃない」


 そう言われては、オレに拒否権はない。


 仕方なく、オレがゆっくりと顔を上げると、微笑みを張り付けたままの高田と、状況が面白くてたまらないと言った表情の男が目に入る。


「あえて、名前は聞かん。気が向いたら告げろ。それとも『シオリ嬢』同様、お前も仮名(かめい)を望むか?」


 そう口にする金髪の王様。

 その余裕のある口ぶりよりも、先にその青い瞳に目が行く。


 それは、兄貴より色濃く深く、何もかも見透かしたような瞳。

 自分の心の奥底まで鷲掴まれるような感覚がして、心臓が大きく跳ねた。


「いえ……、自分は無名を望みます」


 オレの扱いはその他大勢で良いのだ。

 寧ろ、目立つことは好まない。


 そう伝えると、国王は楽しそうに笑う。


「お前たちは面白いな。他国の王に名前を覚えてもらうのは『誉れ』と思う輩も多いと言うのに、自ら隠すか。だが……、逆に言えば、隠す必要があると取られかねんぞ?」


 それはそうだろう。


 そして、それは分かっていても、できるだけ自分たちの口から確定的な言葉を伝えることなどできはしないのだ。


「隠す必要があるから仕方がないではありませんか。そして、恐らく、陛下はそれもご存じの上で、わたしたちを揶揄っているのでしょう?」


 言外に悪趣味だと言わんばかりの高田の反応。


「いや、俺だって分からんこともある。何故、ここにお前たちがいるのか? とかそう言ったことだな。正直、こんな所で会うとは思っていなかった」


 そして、高田の言葉を全く否定しない国王。


 恐らくは、高田に関することだけではなく、オレや兄貴のことまで伝わっているのだろう。


「巻き込まれた結果……ですね」

「カルセオラリアか……。災難だったな」

「陛下は、王子殿下から何か伺っていますか?」

「王子……? ああ、シェフィルレートのことか。カルセオラリアで良い出会いがあったのか、珍しく楽しそうにしていたぞ」


 そう言いながら、意味深な視線をオレに送ってきやがった。


 あ~、これ。

 伝わっているな。


「その王子殿下は拉致が……、ご趣味なのですか?」


 待て?

 もしかしなくても、高田も知ってるのか?


 言ってなかったのに?


 ……情報源は兄貴やリヒト……は言わないだろうから、大神官さまか?

 いや、トルクスタン王子の可能性もあるな。


「あ~、気に入ったものをすぐ連れ帰る癖はあるな」


 その癖を治させてください。


 マジで!

 頼むから‼


「状況を考えるようにお伝えください。救助作業中にその(かなめ)となる人間を連れ去ろうなど、正気の沙汰ではありません」


 ああ、完全に伝わってるのか。


「そうだな。少し、周りの状況を読まないのは、アイツの悪癖だ。まあ、それだけ、その風属性の黒髪の男とやらを気に入ったらしいことは分かってくれ」


 分かりたくねえよ!!

 はた迷惑だ。


「アイツは苦労を知らない。大事なものを失った経験もまだないからな」


 そんなの知ったこっちゃねえ‼


「陛下は……、あるのですか?」


 だけど、高田が気になったのは、そんなことだったようだ。


「四十を超えて、傷も持たぬような人間は少ないだろう」

「40歳越え? もう少しお若いかと……」

「可愛いことを言ってくれるな、シオリ嬢。()()()()()()()()()

「いえ、お断りします」


 その軽い口調でとんでもない申し出をされたが、冗談だと分かっているためか、高田も笑顔で拒否をする。


「それならば、()()()()()()()()()()()()()()()


 その金髪の王は、さらにとんでもないことを口にする。


「アレにはまだ特定の相手はいない。シオリ嬢が来てくれるなら、願ってもない話だ。俺としては喜ばしい」


 空気が変わった。

 先ほどのような軽口ではなく、これは本気の打診だ。


 高田もそれが分かったのか、表情を変える。


「それは、国王陛下としての『(めい)』でしょうか?」

「いや、今のところは、俺の要望、いや願望……だな。」


 そこで、何故か国王はオレを見た。


「出会って間もないわたしのような者を、そこまで買ってくださったことに望外の喜びを感じます」


 高田はそう言いながら頭を下げる。


「……ですが、王子殿下のお気持ちも定かではない状態でお受けはできません。申し訳ないのですが、謹んでご辞退申し上げます」

「それは……、シェフィルレートが望めば、受けると言うことか?」

「いいえ。わたしが誰かに嫁ぐ時には、常に傍にいてくれる護衛たちの人生も左右することになるので、わたしの一存では決められません」

「シオリ嬢は……、自身の心より、護衛を優先させるのか?」

「自身の心より、護衛対象を優先させてしまう優しい護衛なので。それを理解していただけない方に嫁ぐ気はないです」


 高田は、分かりやすくきっぱりと断った。


 王子の意思より護衛を尊重すると言っているのだ。

 普通に考えれば、あり得ない返答だと思う。


 だが、この王はそれを許すのだろう。「面白い」と判断して……。


「外に出た分だけ、チトセより経験は積んでいるな。アイツの世界、狭すぎるから」


 先ほどからこの口ぶりから、情報国家の王は高田の母である千歳さんのことを知っていることは間違いないだろう。


 それも……、取り繕った外向けの顔ではなく、内側の身内しか知らないような部分も知っている可能性が高い。


 だが、千歳さんは、一度もセントポーリアから出たことはなかったはずだ。

 それなのに……、一体……?


 いや、よく考えなくても、セントポーリアにいる異世界からの人間に興味を持たないはずはない。


 今、高田と話しているように、千歳さんにも強引に接近したのだろう。


 行動派の王は本当に困るもんだな。


「もう少し話したいところだが……、流石にそろそろ時間か」


 情報国家の国王は不意に、天井を見た。


 周囲に時を告げる機械はないが、感覚的にそう判断したのだろう。


「会合が終わったら、もっとじっくり話をしたいものだな、シオリ嬢」


 王にそう言われては、高田も断れないのだろう。


「お時間があれば、ご一緒させてくださいませ」


 そう言って、頭を下げる。


 言質はとられた。


 恐らく、この王のことだ。

 彼女と会うために、時間を作るだろう。


 ここで、待ち伏せたように。


「それでは、失礼する」

「はい、それでは……」


 情報国家の王は、オレたちに背を向けたが……、不意に足を止めた。


「ああ、そこの護衛の坊主」


 どうやら、高田ではなくオレにも何かあるらしい。

 なんとなく身構える。


「俺はお前とも話したい。シオリ嬢と同様、お前も楽しそうだ」


 そんな不吉な言葉を残して、立ち去ったのだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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