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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 人間界編 ~
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人目に付かない場所

 そんなわけで、わたしたちは人目につく掲示板前や校門から少し離れた少しだけ鬱蒼としている裏手の林っぽいところにきた。


 なんとなく……、こう事件が起きても不思議はないような雰囲気なのですが?


 具体的には、誘拐事件とか殺人事件とか……。


「薄暗いところだね……」

「そう? 気にしたことはなかったけど……」


 わたしと感覚が違うのか。

 平然と彼は言った。


「ここには来たことがあるの?」

「うん。すぐそこに弓道場があるんだ。大きな大会とかは施設が充実したこの高校の弓道場が利用されやすいし」


 指差す方向には確かに弓道場っぽい建物があった。


「流石、弓道部だね、松橋(まつばせ)くん」

「弓道部員ならたぶん、皆知っている場所だよ。この辺りは集団で昼食とか食べるのにちょうど良い空間だし」


 そう言いながら、松橋くんは笑った。


 ちょっと疲れてるっぽいけど、邪気のない顔で。


 彼の言葉をどこまで信じるかと問われたら、多分、今のところ嘘はないと思う。


 ただ、意図……が分からない。


 いや、なんとなく話したいモノに関しては分かるんだけど、目的とかそういうのがまだ掴めなかった。


 それならば、出させて見せよう、その尻尾。


「ところで、今日、彼女さんは?」

「え?」


 不意にわたしの方から切り出したせいか、ひどく驚いた顔をして見せた。


 前置きとかした方が良かったかな?


 でも、本屋という時間つぶしの場にいるとはいえ、事情を知らないワカを長く待たせるのもなんか嫌だし。


「いつも、一緒にいるんでしょ? 別の女性がちょっと近付いただけで凄い顔をしてみせるって言う彼女。同じ高校を受けたらしいから、来てるかと思ってたけど、今日はいないの?」


 そう言って笑ってみる。


美依那(みいな)は、体調が優れないから今日は来れないって連絡が入ったんだ」

「そっかぁ。偶然だね。わたしの友人も朝から体調を崩して、ここに来ることができなくなった人がいるよ。季節の変わり目のせいかもね」


 勿論、九十九のことだ。


「まあ、受験も終わったしね。気の緩みもあったかもしれないけど」


 そう言うと、彼は溜息を吐いた。


「う~ん。慣れないことはするもんじゃないな」

「ん? 何のこと?」

「キミが無関係だと思いたいんだけど……」


 そう言って、彼はゆっくりと地面に手を付けた。


「松橋くん?」


 疑問に思う間もなく、彼の手から、波が見えた気がした。


「うわっ!?」


 思わず、目を閉じ手で顔を庇う。


「身体に害はないよ」


 そんな声が聞こえてきたので、ゆっくりと目を開ける。


 見ると、どこにも波も水の痕跡もなく……、先ほどまでと同じ雑木林が広がっていた。


「い……、今のは……?」


 もしかしなくても魔法の一種……だろうか?


 それならば、彼は普通の人間かと思っていたけど、実は魔界人だったってことになる。


 ……ということは、この状況って、実は、かなりまずいんじゃない?


「悪いけど、結界を張らせてもらったよ。キミと顔見知りのあの紅い髪の魔界人みたいに広範囲で高性能じゃないけど、まあ、この雑木林ぐらいの範囲なら、サポートがあれば今の俺でもでもなんとか張れる」


「け、結界……?」


 そう言えば、あの紅い髪の男の人も何度か口にしたし、九十九も言っていた言葉だ。


 確か本来は仏教用語で修行の障害となるものの入ることを禁じた場所のこととか、いろいろあった気がするけど、剣と魔法なファンタジーの場合、中のものを護るとか、外に出さないとかそう言った意味合いのもののはず。


 つまり……、この状況は……。


「一応、気配遮断と外部からの魔法遮断の効果……。外からここへの転移は多分、王族クラスでもない限り無理かな。残念ながら時間の遮断まではできないけれどね」


 それって、遠まわしに援軍は呼べないって言われている気がしますよ……?


 人畜無害そうに見えた爽やか少年は、実は腹黒鬼畜系だったとか……、それは、夢見がちな女子に人気が出そうな漫画でよくある設定だけど……、現実世界では直面したくない相手だと思う。


「ああ、言っておくけど、あの男みたいに高田さんに危害を加える気はないよ。俺は穏やかに話がしたいだけだから」

「話って……?」


 そうは言われても、ろくに話した覚えのない殿方が、いきなりのこの行動。

 真っ当な話とはあまり考えられない。


 しかも、基本が笑顔だから逆に怖いと感じてしまう。


 それに、この数週間で、わたしの頭は既に一杯一杯だった。


 これ以上、魔法とか、魔界とか、

 魔界人だとかの情報を収納しきれるとは思えない。


 これでこの先、大丈夫だろうかと自分でも不安にはなるんだけれど……。


「単刀直入に聞くけど、高田さんは魔界人なのかい?」


 確かに、単刀直入だ。


 無駄も迷いもない質問。


「魔界人や魔法の存在を知ったのは、数週間前。それ以前にわたしの周りにそんなファンタジーな世界は存在しなかったよ」


 嘘は言ってない。


 魔界人と人間のハーフである自分が、一般的な魔界人と定義して良いのかも謎ではあるし。


「あの紅い髪の男と面識があったみたいだけど……」

「あの人に会ったのが、その数週間前。昨日で二度目」


 そこが、自分でも意外な気もする。


 もっとずっと前から知っているような気がするのに。


 あと、関係はないけど、最初といい、昨日といい、彼と会うときは、必ず自分に向かって黒い火の玉が飛んでくるのは何故だろう?


「ああ。そうだ……。松橋くんは知らない? あの人に向かって椅子を投げた人」


 不意に質問を返したせいか、やや面食らったような顔を見せたけど、彼は先ほどの笑顔に顔を戻す。


「あれは俺じゃないよ。明らかに敵意丸出しの人間が『魔界人を捜している』と言われた以上、そう簡単に返事できるようなほどお目出度い性格はしていないからね」


 確かに、あんな傍目にも危なそうな人が割と脅威を与えるような手法で捜している以上、目立ったことはできないのが普通だと思う。


「……ということは、あの時わたしを助けてくれたのはある程度おめでたい頭を持った人ってことか」


 わたしがなんとなくそう口にすると、目の前の彼は吹き出した。


「なるほど、噂で聞いていたとおり、高田さんを敵に回すのは難しい」

「ど、どんな噂が?」


 敵に回すのは難しいってどんな噂だ!?


「まあ、生徒会役員をやってるといろんな生徒の話が聞こえるんだよ。まあ、高田さんの場合は、元生徒会長たちとも交流もあったみたいだし、以前、生徒会絡みでいろいろあったから、特にね」


 ああ、なるほど……。


 富良野先輩たちが何か話していた可能性はあんまり考えられなかった。


 あの先輩たちはそう口が軽いほうではないと思っている。


 どちらかと言うと、あの先輩たちの熱狂的なファンだった生徒たちが何か言っていたのかもしれない。


 まあ、確かに、去年、生徒会に迷惑をかけたこともあるが、それと先ほどの台詞はあまり合わない気がした。


「話はそれだけ?」

「いや? どちらかと言うと、ここからが本題。魔界人でないのなら、高田さんは何者なんだい?」


 それはわたし自身も知りたいこと……。


「魔界人と関わりがある魔法に無縁の人間?」


 我ながら嘘くさい。

 嘘くさいが、嘘は言っていない。


「それは嘘だね」

「まあ……、そう思うよね。でも、本当に魔法は使えないんだ。普通の人でも知識……、素質があれば使えるって話は聞いた。でも……、記憶がある中で、わたしが魔法を使ったことはないよ」


 記憶がないところでの話なんて知らない。


 過去のわたしは使えたかもしれないけど、今のわたしは自分の身すら守ることが出来ないのだ。


「わたしが魔法を使えると思って、ここに呼んだの?」

「それはちょっと違う。だけど……」


 そこで、彼は言いよどんだ。


 どうやら、この先はちょっと言い出しにくいらしい。


「だけど……、他の人の夢に入れたのはおかしい?」

「え?」


 わたしの言葉に、彼の顔から笑顔が消えた。


「渡辺さんから聞いたんだね? 昨夜……、今朝のこと」


 そうでなければ、ちょっとおかしい。


 タイミング的にも、最初の反応も。


「つまり、松橋くんは、彼女が夢魔ってことを知ってて付き合っていたってことでいいのかな?」

「そ、それは……」


 その反応は肯定だってわたしにでも分かる。


 そうなると、彼は、自分の彼女の異常性を知っていて、好きにさせていたってことだ。


「夢魔……、魔物を野放しにさせておくことが、他人にとって危険だとは思わなかった?」

「それは……っ!」


 彼の声とともに、先ほどよりも荒波が発生した。

 

 この波の高さって、映像でしか見たことがない。

 具体的には台風情報とか、津波とか!?


「あれ……?」


 もしかしなくても、なんか……かなりまずい……かも?

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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