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運命の女神は勇者に味方する  作者: 岩切 真裕
~ 中心国会合編 ~

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【第41章― 世界会議前夜祭 ―】言葉のジャブの応酬

祝・投稿一周年!


この話から第41章です。

そして、投稿もこの話より一日一回とさせていただきますので、ご了承ください。

 黒い髪、黒い瞳。

 そして、一般的な女性としては小柄な体躯。


 彼女は、世間で言う女性的な魅力と呼ばれるものからは、外れていると言っても過言ではないだろう。


 だが、それでも……、十年を優に超える期間、自分を惹き続けてやまない女性でもあった。

 

 この先、何十年と生き続けることになったとしても、恐らくこれ以上、惚れ込む人間に出会うことはないだろう。


****


「はあ……」


 わたしは溜息を吐いた。


 我慢もできない不安定な自分が本当に嫌になってしまう。


 九十九は、わたしのことを慰めてくれたし、癒してもくれたのに……。


 そんな彼に対して、わたしがしたことと言えば、無意識に吹っ飛ばしてしまうという暴挙だった。


 それも今までになく、激しい風の塊をぶつける形で……。


 水尾先輩が感心するほど打たれ強いはずの彼が、わたしの自動防御によって、意識を飛ばす姿を見て、どうして平気でいられるだろうか?


 慌てて、恭哉兄ちゃんを部屋に備え付けてある通信珠で呼び出して、彼の部屋に運び入れてもらった。


 その時、迎え入れたリヒトの微妙な顔と、恭哉兄ちゃんが気遣う顔を思い出すと、本当に居たたまれない気分になってしまう。


 結構、自分では制御できるようになった気がしたのに、全然、できてなかった。

 わたしのために、いつも、自分を犠牲にしてくれるような人なのに……。


 恭哉兄ちゃんに改めてお礼とお詫びを言おうと、わたしは一階へ足を向けた。


 今の時間なら、いつもの場所にいるだろう、と思って……。


****


 大聖堂の会堂と呼ばれる場所の入り口。


 そこに恭哉兄ちゃん……いや、大神官さまは、白い衣装でその場所にいた。


 ただ……見慣れない誰かと、そこで話をしている。


 その人の着ている服を見る限り、神官ではないようだけど、お話の邪魔をするのも悪いと思って、引き返そうとした時だった。


 大神官さまと話している相手が、わたしに気付いて、視線をこちらに向けた時だった。


「まさか……?」


 そう言って、彼は、こちらに近づいてくる。


 それが、分かっていても、金色のお日様の光みたいな髪に、青空のような青い瞳を持ったその男の人に目を奪われてしまったわたしは、動くことができなかった。


「お待ちください!」


 大神官さまの珍しく、焦ったような声。


 だけど……、その男の人は構わず、わたしを抱き締めた。


「チトセ……」


 わたしではない誰かの名前。


 ぬ?

 なんか……、つい最近、すっごく似たようなことがなかったっけ?


 カルセオラリアに来た時に、トルクスタン王子に抱き潰された……、いや……それとは全然違う。


 この状況に似ているのは……。


 ああ、雄也先輩だ。

 そして、あの時も、わたしはその名前を呼ばれたのだった。


 それを意識すると、なんとなくその時の感覚によく似ているような気もしてくるから思い込みって不思議だ。


 強い力で抱き締めているのに、苦しくはない。

 どちらかというと、妙に安心する。


「やっと……会えたな」


 でも、当然ながらわたしにそんな記憶はない。


 いや、誰かに間違えられていることは分かっているのだから、当然なのだけど。


 そして、その名を知っているこの人は一体、何者なのでしょうか?


 でも……、なんとなく、この優しく甘い声をどこかで聞いたことがあるような気がする。


 どこだっけ?


「お戯れはそこまでにしてください」


 大神官さまの鋭い言葉が聞こえた。


 彼にしてはかなり珍しい種類のその声は……、明らかに警戒と、怒気の感情が含まれていることが分かる。


 そこで、ようやく、わたしはその人から解放された。


「相変わらず、無粋な男だな」

「今の行動を容認することが『粋』だと言うのなら、私は『無粋』で結構です」

「……? ケルナスミーヤ嬢に手を出したわけでもないのに、お前にしては、かなり珍しい反応だな」


 ……仮にも大神官と呼ばれる地位にいる人間に対して、この軽口。


 しかも、ワカのことも知っているようだ。

 ……一国の王女に対して、「嬢」という言葉を使う点は気になるけど。


「あの方に対して同じことをすれば、我が国の王子殿下が黙っていません」

「ああ、婚約者が決まっても、グラナディーン坊のあの病気は治らなかったな。あれはあれで可愛くて俺は好きだが……」


 ……ちょっと待って?


 この国の兄王子殿下のことを「グラナディーン坊」?

 ワカの「嬢」よりも、そのことが酷くひっかかった。


「そろそろ、その方をお離し願えませんか? 『グリス=ナトリア=イースターカクタス』国王陛下」


 無感情な大神官さまの言葉に、わたしは口から心臓が吹っ飛び出るかと思うほど、驚くしかなかった。


 名前だけは存じ上げている。


 それはそうだろう。


 あの雄也先輩が最も警戒するような国の頂点に立つ人。

 全てを見透かすような圧倒的な情報量を持つ人間。


 そして……、わたしは、確かに一度だけ、この声を聴いたことがあった。


 あれは、ダルエスラーム王子殿下と出会った日。


 そして同時に……セントポーリア国王陛下と対面した日に……、わたしはこの人の声を聴いていたのだ。


 情報国家の国王「グリス=ナトリア=イースターカクタス」さま。


 こうして、面と向かって会うのは初めてのはずだけど……、妙に懐かしく想えるのは何故だろうか?


 そして……、何故、この人は……、先ほどの名を知っているのだろうか?


「貴女にも失礼した。突然の無礼を済まない」


 そう言いながら、深々と頭を下げる。


「あまりにも旧い知り合いに似ていたのだ」

「使い古された言葉ですね」


 わたしではなく大神官さまがそう答え、自然に間に入ってくれる。


「お? 大神官、ケルナスミーヤ嬢からこの少女に乗り換える気か?」

「必要とあらば、そうしますよ?」


 ……ちょっと待って、恭哉兄ちゃん。


 それ、わたしがワカに恨まれる未来しか視えないですよ?

 そんなこと特殊な能力がなくたって分かってしまう。


「ああ、なるほど……」


 金髪の王さまは、何かを納得したようにこう言った。


「この少女が……、例の『聖女』……か」


 何もかも見透かしたような青い瞳に、わたしの心臓がいつも以上にお仕事を頑張っている。


 顔が強張っていないか、それだけが気にかかった。


「さあ? どうでしょう?」


 恭哉兄ちゃんはすっとぼける。


 いつもは上手に隠している黒さが、溢れ出て止まっていない。


「相変わらず、可愛くないな。お前……。素直な反応をしてくれるグラナディーン坊を少しは見習えよ」


 ああ、確かにグラナディーン王子殿下は、ワカや彼の婚約者に比べると、かなり素直な態度を見せてくれる。


「神官職に可愛らしさは無用だと育てられましたから」

「ああ、前々大神官(ボルトランス老)は元気か?」

「おかげさまで、義父は息災です」


 高等過ぎる会話についていける気がしない。


 言葉のジャブの応酬が行われていることは分かる。


 でも、会話が微妙に明後日の方向に振り回されているような……?


「お前との会話も楽しいが、少々、疲れる。そろそろ、大神官なんか辞めて、ウチへ来い」


 今、さらりと凄いこと言った!?


「丁重にご辞退させていただきます」


 さらに断った!?


 いや、それは当然だけど……。


「やっぱりだめか。じゃあ、せめて、こちらの愛らしい少女の紹介をしてくれ」

「お断りします」


 間髪入れずに答える恭哉兄ちゃん。


「……ケチだな、大神官」

「倹約は美徳ですから」

「分かった。じゃあ、直接、尋ねることにしよう」


 そう言って、金髪でかなり若く見える王さまは、人好きのする笑顔のまま、わたしに向き直った。


「可愛らしいお嬢さん、お名前は?」


 くっ!

 かなり顔が良い王さまは本当にタチが悪い。


 ……いや、普通、王さまって、こんなになれなれしいものなのか?


 でも、ここで、本名を名乗る気はない。


 だけど、わたしは雄也先輩に言い含められていることがある。

 もし、情報国家の人間に出会ったら……「決して嘘をついてはいけない」と。


 よく分からないけど、雄也先輩がわざわざ、わたしにそう言ったということは、大事なことなのだと思う。


 でも、なんと答えるべきか?


「お好きなようにお呼びくださいませ。わたしは、イースターカクタス国王陛下に名乗れるほどの名を持ちませんから」


 ある意味、これは嘘ではない。


 わたしは「魔名」と呼ばれる魔界人としての自分の名前を知らないのだ。

 だから、どうしたって「偽名」にはなってしまう。


「ほう?」


 だが、それはかえって、この王さまの興味を引いてしまったのだろう。

 そのの青い瞳がキラリと光った気がした。


「面白い。では、好きなように呼ばせていただこうか」


 どこか挑発的な笑みを浮かべて、情報国家の国王さまは、わたしに向かってこう言った。


「『ラシアレス』……と言う名前はどうだろうか?」

ここまでお読みいただき、ありがとうございました

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